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「JK炎上」がトレンド入り~女子高生が自動車購入で叩かれる不思議

石渡嶺司大学ジャーナリスト
ホームで待つ女子高生。車社会の地方なら自動車免許取得も珍しくはないが…(写真:アフロ)

最初は単なる納車自慢だった

人は何かあれば自慢したくなる生物です。

その一方で、人は何かあれば嫉妬する生物です。

その両方が渦巻くのが、現代のネット社会。

そのネットで、なんだかなあ、という出来事が起こりました。

元は、とある女子高生が軽自動車(中古)の納車をツイートしたところから始まりました。

高校生で車買うのが小さな夢だったの叶えることができました

(軽自動車だけど)(中古だけど)

去年ほぼ毎日バイトで掛け持ちもして働きまくった!

でも気に入っているからいいんだー

安全運転頑張ります

※ツイート原文ママ/顔文字などは省略

女子高生の他愛のない自慢であり、うんうん、良かったね。で終わる話だったはずです。

少なくとも、この女子高生の友人がちょっとコメントをして終わる、という程度の書き込みでした。

高校生にも噛みつくネット社会

ところが、時代はネット社会。この書き込みに噛みつく方がいました。

・高校生なのに車を持つなんて贅沢

・高校生なのにバイトばかりなんておかしい、勉強しろ

・大っぴらにして人気者になりたいだけ

・偏差値の低い高校なんだろう

・顔を出さないのはおかしい

などなど。

当然ながら、この女子高生は現在、Twitterアカウントを削除しています。

まさか、見ず知らずの人からネガティブコメントをぶつけられるなんて想像もしていなかったでしょう。

そして2019年9月6日15時現在、「JK炎上」がTwitterのトレンドワード入り。約8万件ものツイートが出ています。

途中から嫉妬コメントへの炎上が主流に

どこに炎上要素があるか、と思ったところ、これは他の人も同様だったのでしょう。

15時現在では、女子高生を擁護・嫉妬コメントを非難するツイートが多数となっています。

私個人としても、この女子高生コメントのどこに炎上要素があるのか、全く理解できませんでした。

あるツイートには、こんなうまいまとめが。

中古を買ったら贅沢だと叩かれ、車を走らせたら煽り運転を受ける。そりゃ、若者は車を買わなくなるわ

地方で高校生の車所持・免許取得は珍しくない

私の肩書は「大学ジャーナリスト」ですが、高校も含む教育が範疇で、このYahoo!ニュース個人でもこれまで教育関連の記事を書いています。それから、地方高校には進路講演などで全国から呼ばれることもあり、地方の実情も理解しています。

その観点から、当初、女子高生に寄せられた非難内容を一つ一つ、解説していきます。

車を買うなんて贅沢

ここが一番の落差ポイントです。確かに、新車を首都圏、たとえば東京都港区で買った、ということであれば贅沢でしょう。

が、地方だと、車は一家に一台どころか、一人一台、という家庭が珍しくありません。一般財団法人自動車検査登録情報協会のサイトによりますと、2017年の自動車保有台数(人口100人あたり)は1位が群馬県で69.58台。2位茨城県、67.49台。3位は栃木県(67.41台)、富山県(66.65台)、山梨県(66.48台)など。最下位は東京都で人口100人あたり23.19台となっています。

高校生だと生年月日にもよりますが、早生まれなら夏休みに自動車教習所に通い、免許取得ということも可能です。

実際、全日本交通安全教育センターが運営する合宿免許ナビには「高校生でも免許が取れるの?」というページを設けているほど。

まとめますと、高校生が自動車免許を取得して車を保有するというのは、地方だと贅沢でも何でもありません。

高校生なのにバイトばかりなんておかしい

これも余計なお世話、というもので、高校時代に大学受験の勉強をするのか、部活にまい進するのか、アルバイトをするのか。それは高校生、それぞれの価値観です。

それに、それぞれの家庭の都合、というものもあるはず。

そもそも、短いツイートだけで、アルバイトを頑張ったことは読み取れても勉強をさぼったかどうかは不明です。

その程度で噛みつくとは、あまりにも狭量すぎます。

大っぴらにして人気者になりたいのだろう

一女子高生の納車自慢程度で噛みつく神経が理解できません。

仮に、ですが、この女子高生が無免許で車を運転した、などであればどうでしょうか。

その場合は、「法律違反をしてまで人気者になりたいのか」という批判が成立します。

が、自動車免許を取得して納車だった、という程度であれば、どうでしょうか。その程度の自慢は老若男女問わず、よくある話です。

偏差値の低い高校なのだろう

おそらく、「自動車免許取得や保持を認める=偏差値が低い」という偏見によるもの、と思われます。

先に書いた通り、地方だと自動車免許を取得する高校生は珍しくありません。

新聞記事検索をかけたところ、高校生による自動車事故(中日新聞2019年3月17日朝刊「自動車運転処罰法違反の容疑で男子高校生を逮捕」)高校での自動車保険に関する講座の開催(北海道新聞2014年1月31日夕刊「車の運転は責任持って*苫小牧東高*保険の出前講座」)、トラック協会による大型トラックの体験(北國新聞2017年7月27日朝刊「高校生が大型トラックを体験 金沢市で22人参加」)などの記事が出てきました。

つまり、よくある話なのです。

仮に高校の偏差値が低かったとして、それが、そうした書き込みをする方に何の害をもたらした、というのでしょうか?

顔を出していない

この女子高生が芸能活動をしているならまだしも、そうでないなら、顔を出すことでストーカーに付きまとわれるなどの犯罪リスクが高くなります。

それを避ける、という意味でもこの女子高生が顔出しをしなかったのは賢明な判断です。一私人に対して顔出しを強要する理屈が私には理解できません。

親が出そうが本人が大金持ちだろうがスルーを

他に「親が出したのだろう」という書き込みも。アルバイトをした、と書いているのを読んでいないのでしょうか。

仮にですが、親が金を出した、中古ではなくフェラーリだった、地方ではなく東京都港区だった、としましょうか。

それであっても、私は嫉妬するよりはスルーが一番、と考えます。

いや、もちろん、私個人としても、親が金持ちでもなく、フェラーリを買ってくれるはずもなく、東京都港区で車を維持できるわけでもない身としては、嫉妬を覚えるのは否定できません。

が、そうだったとしても、それをTwitter等でぶつけて、何かあるのでしょうか。

嫉妬コメントをぶつけても、自分が虚しくなるだけです。

まして、そうした嫉妬をTwitter等SNSで明らかにする、ということは自身の小ささを公にするのも同然です。

長い目であれば、自身を損なう行為をしていることになります。

それに、他人を嫉妬するくらいなら、自身をどう高めるかなど、何か生産的な活動をする方が結果としてはよほど利益になります。

まあ、この女子高生に対する嫉妬コメントをぶつけた方のうち、社会人の方であれば、よっぽど、ご自身の現状が満たされていないのでしょう。で、罪もない女子高生のツイートにいらだつ、と。

学歴差別を気にしすぎる大学生と共通する部分も

この女子高生への嫉妬コメント、構造としては、学歴差別を気にしすぎる大学生と共通しています。

いわく、「地頭はいいけど、大学受験で失敗した」とか。

いわく、「どうせ世間は学歴差別でうちの大学からはろくに採用してくれない」とか。

いわく、「もう少し、頭のいい親の元でうまれていればなあ」とか。

あいたたたたたた。痛い、痛すぎる。

困ったことに中堅私大や地方大学、何だったら難関大にも、こういう学生がいます。

学歴差別の細かい話は、他で書いているので省略しますが、こういうメンタルの学生は採用担当者から間違いなく敬遠されます。

とある採用担当者の談。

「学歴差別を気にする学生、よくいますけど、言うほど、企業側は気にしませんよ。特にこういう売り手市場では。就活の初期段階ならまだしも、ずっと気にし続ける学生は、うちも含めてまず採用しませんね。それこそ学歴差別?いえいえ、そうではありません。学歴差別コンプレックスで性格がゆがんでいるから面倒なんです。そんな学生、採用するわけないでしょ?」

一時期、アルバイト先でおバカ行動を投稿するバカッター・バイトテロが話題となりました。今回のJK炎上のような嫉妬コメント、仮に大学生や高校生がしても一つ一つは目立ちません。

匿名アカウントの場合、企業側もチェックしようがありませんし。

ただ、何でもかんでも嫉妬する、あるいは、コンプレックスをもろにぶつけてくるマインドだと、間違いなく損をするのはそういうマインドをもった側です。

中高生や大学生にはこのJK炎上を観察することで改めてSNSの使い方を再考してほしいと思います。

社会人?いい大人なんだからさあ…。

追記(2019年9月7日6時39分)

記事公開後にYahoo!ニュース個人編集部より、「『JK炎上』は実際は炎上というほどではなく、アフィリエイトブログから炎上したかのように拡散してしまっているようだ」との指摘を受けましたので、ここに付記します。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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