就活セクハラで逮捕者も~学生のリスク管理は

OB訪問自体は悪くないが社会人側の悪用リスクも(写真はイメージ)(写真:アフロ)

大林組社員が就活セクハラで逮捕

氷河期であっても売り手市場であっても大手企業に入るのは大変です。そこで就活にモチベーションの高い学生からすれば、企業OBなどと話すことで少しでも企業のことを知ろうとします。いわゆるOB訪問ですね。

 このOB訪問自体は悪いことではありません。これの変化球である社会人訪問、というものもありますし、私も年に30人以上の学生から社会人訪問を受けています。後述する就活カフェ、それから就活イベントなどを通しての相談であれば年に数百人か、もっと行っているかもしれません。

 このOB訪問を通して、就活セクハラをした大林組社員が逮捕された、と2019年2月21日、毎日新聞が報じました

就職活動のOB訪問に来た女子大学生にわいせつな行為をしたとして、警視庁三田署が、大手ゼネコン「大林組」(東京都港区)の社員、宗村港容疑者(27)=同区=を今月18日に強制わいせつ容疑で逮捕していたことが、同署への取材で明らかになった。

逮捕容疑は1月27日夜、港区の自宅マンションで20代の女子大学生にわいせつな行為をしたとしている。一部容疑を否認しているという。

同署によると、大学生はOBと就活学生をつなぐスマートフォンのアプリで宗村容疑者と知り合い、この日が初対面だった。会社近くにある喫茶店で話を聞いていたが、宗村容疑者が「パソコンを見ながら説明したい。面接指導もする」と言って自宅に誘ったという。

大林組は「社員が逮捕されたことは遺憾で、詳しい事実関係を確認している」としている。

逮捕前には就活セクハラ記事が賛否両論

就活セクハラ、この大林組社員の逮捕に先立ってネットメディアのビジネスインサイダージャパンが記事にしていました。

同サイトは2019年2月12日、「深刻化する就活セクハラ。OB訪問や泊まり込みインターンが温床に【就活2019】」記事を掲載。

続いて2月15日には「2人に1人の学生が就活セクハラ被害に。OB訪問で自宅や個室で性行為強要、「選考有利」ちらつかせ」を掲載。

同サイト編集部の独自調査である「就活セクハラ緊急アンケート」で回答者約300人のうち146人が就活中にセクハラにあった、と回答しています。

この2本の記事により、大林組社員逮捕の前から「就活セクハラ」がネットで注目されつつありました。

ネットのことなので当然ながら、と言うべきか記事や就活セクハラについても賛否両論です。

肯定意見は就活セクハラがある、というものが多数です。

中には1対1のOB訪問などが良くない、とする意見も。

否定意見は「2人に1人は盛りすぎだろう」などデータについての疑問がありました。

私としては、このデータについてだと、やや懐疑的にならざるを得ません。

というのも、ビジネスインサイダージャパン編集部の独自調査は2月12日記事に付ける形で実施しています。同記事を読む、ということはセクハラに関心の高い読者が多いことは容易に想像できます。

当然ながら就活セクハラ被害を受けた読者も他の記事よりは多いはず。その記事の末尾に掲載する形でのアンケートですから「2人に1人」という結果も出るでしょう。もっと多く「5人に3人」だったとしても不自然ではありません。

ただ、数字にブレがあるにしても、就活セクハラが起きていること自体は確かです。

密室で会う必然性はどこにもないことに社会人側がなぜ気づかない?

大林組社員の逮捕報道で気になったのは、容疑段階とは言え、一般的な理解では自室、という密室で会うことを大林組社員がなぜ提案したか、ということです。

これが仮に、ですが恋愛マッチングアプリや出会い系サイトなどを通しての話であれば、まだ違っていたことでしょう。就活生が20歳以上であれば、お互いに成人同士です。自由恋愛ですし、それでうまく行くこともあれば、そうでない場合もあるでしょう。まあ、その辺は私の専門外なのでここでは省略。

問題は「OBと就活学生をつなぐスマートフォンのアプリ」(毎日新聞記事)を使った、という点にあります。

おそらくは企業名を公開してのアプリでしょうし、仮に非公開だったとしても会えば、自ら話す社会人が大半でしょう。

学生もまた大手企業(または志望業界に関連した企業)の社員であることを前提として面談を希望します。

社会人側が志望企業の社員であった場合、社会人側は意図していなくても学生は志望企業の社員だから、とかなり身構えます。当然ながら学生と社会人のパワーバランスは対等ではありません。仮に志望企業・業界ではなかったとしても同様です。学生は社会人側が学生以上に就活の知見を持っている、という前提で話を聞きに来ます。そうなるとパワーバランスはやはり対等ではありません。

OB訪問、社会人訪問を受ける社会人、それも企業社員の場合、その大半は、この対等ではない関係を理解したうえで行動や言動は慎重にします。

仮に何かあれば、所属する企業のブランドを落とすことになりかねないからです。もっと言えば、所属する企業に対してみだりに評判を落とさない責任が社会人側にはあります。

そのため、女子学生からOB訪問・社会人訪問の依頼があったとして、喫茶店やファミリーレストランなどで話すことはよくあります。

が、自室に誘う、あるいはホテルに誘うなど密室に導く、というのはまず考えられないところ。

仮に男性社会人側が女子学生に恋愛感情を持ったとしても、就活アプリ経由などOB訪問・社会人訪問ということであれば企業に対する責任が伴います。いくら自由恋愛と言っても、女子学生側がそうした感情を一時持ったとしても、最終的にはパワハラ、セクハラと解釈される可能性がきわめて高くなります。そのため、恋愛感情を持ったとしても、OB訪問・社会人訪問という形が最初であれば、自重するのが社会人側の社会的な責任というものです。

なぜこの程度のことに、大林組社員が気付かなかったか、残念でなりません。

OB訪問は悪ではない

今回の大林組社員逮捕を受けて、OB訪問・社会人訪問についてのリスクが世間の注目を集めることとなりました。ネットでは「OB訪問そのものをやめるべき」との意見も出ています。ですが、私は全くそう思いません。

OB訪問・社会人訪問は学生が企業なり業界なり就活全般なりの情報を知る、という点で有効です。一個人のバイアスがかかるにせよ、それでも就活サイトや会社パンフレットなどには出てこない情報に触れることができます。そうした情報量が増えるほど視野が広がりますし、結果的に就活にも好影響を及ぼします。

学生の注意点は「密室」「個人情報」「相談・通知」

ただし、私はこれまでの社会人訪問の経験から、学生側もちょっと危なかっしい、と感じたことがあります。

注意してほしいのは3点。

1:密室は絶対に避ける

会う場所は喫茶店、ファミリーレストラン、ファーストフード店など。

OB訪問・社会人訪問で最初から居酒屋などを指定することはまずありえません。たまに居酒屋文化を知って欲しいから、という社会人もいますが、飲みながら就活相談に乗っていいのか、という別の疑問も。

カラオケなどもアウト。

2007年にはカラオケに誘ってセクハラをした三菱東京UFJ銀行行員が強制わいせつで逮捕されています。

就職活動中の国立大四年の女子大生(21)に採用内定をちらつかせ、わいせつな行為をしたとして、大阪府警曽根崎署は十九日、強制わいせつ容疑で三菱東京UFJ銀行難波支社の行員(24)=大阪府貝塚市=を逮捕した。

今春、同容疑者と酷似した男による同様の手口の被害が数件確認されており、同署は余罪があるとみて追及している。

女子大生は同銀行への就職が第一希望だったといい、同容疑者が呼び出したときは二次面接の結果について採用担当者からの通知待ちだった。同署は、採用担当ではない同容疑者が連絡先や個人情報を知った経緯も調べている。

調べでは、同容疑者は四月八日午後、同窓生の新人採用担当者を装い、女子大生の携帯電話に「あなたの評価は高い。応援したい」などと連絡。大阪市北区のカラオケ店に呼び出し、店内で「自分の言うことを聞けば内定がもらえる」と持ちかけ抱きついたり、キスした疑い。

女子大生は抵抗し、約二十分後に店内から逃げ出して同署に被害届を提出。同署は、入退店時の防犯カメラの映像などから同容疑者を突き止めた。容疑を認めているという。

三菱東京UFJ銀行は「行員が逮捕され、誠に申し訳ありません。捜査には全面的に協力します」とコメントしている。(四国新聞2007年5月20日「就活者にわいせつ 24歳三菱UFJ行員逮捕 内定ちらつかせる」)

カラオケも含めて社会人側が「ちょっと遊びに誘った」という感覚でも、その「ちょっと」自体が大問題。社会人側が意図していなくてもパワハラ、セクハラと捉えられる可能性が高いことは前項の通り。まして、あからさまに誘ってくるケースもある以上、学生は誘われたら断ることが重要です。

2:個人情報は簡単に出さない(含むLINE)

OB訪問・社会人訪問のアプリ・サイトなどを使う場合、学生側の個人情報はメールアドレス、個人名、所属大学・学部くらいでしょう。

ところが。

たとえば、エントリーシート添削を依頼する場合(それも含めるのがOB訪問・社会人訪問なので)、エントリーシート・履歴書の個人情報部分を隠さない学生が多すぎます。社会人側の善意を信じてのことでしょうが、性善説を信じるにもほどがある、と常々感じていました。

できれば、エントリーシート・履歴書の添削を依頼する際には個人情報部分を隠すくらいの慎重さは学生にも必要ではないでしょうか。

なお、携帯電話番号やLINEのIDも取り扱いには注意したいところ。個人的には、簡単に出してしまうのもいかがなものか、と考えます。

学生の日常コミュニケーションの主要ツールである以上、その連絡先を簡単に渡すことはそれだけパワハラ・セクハラを招きやすくなります。

実際、2016年に表面化したアイシン・エィ・ダブリュの幹部(当時)による就活セクハラ事件ではLINEで

「僕と関係がもてない以上、僕もあなたを自分の親類として会社に入れることはできませんので、最終は諦めてください」

「(男女の関係を持てばいいのか、との問いに)あなたを僕の縁者として会社にいれるのに、何の保証もないから、二人だけの秘密を確実なものにするためです」

(2016.04.29 日本テレビ 情報ライブ ミヤネ屋「就活セクハラ裁判 魔の手 全容 入社の見返りに「男女関係」か」より引用)

などのやり取りをしています。

ただ、例えば訪問日を決めた後、どちらかが急に遅れそう、などの連絡をするときに携帯電話ないしLINEなどでの連絡が必要になります。LINEが駄目でFacebookやTwitterならいいのか、というとそういう問題でもないですし…。

私が学生の社会人訪問を受けるとき、携帯電話番号は聞きます(LINEは家族などの利用に限定しているので、そもそも聞かない)。ただ、それは遅れそう、とか、待ち合わせがお互いにわからない、というときに使う程度です。

3:社会人側が問題なら相談・通知を

OB訪問・社会人訪問をして相手が

「面接の練習をするからうちに来ない?」

「言うこと聞かないと落とすよ」

など、パワハラ・セクハラをかましてきたとしましょう。

いきなりこうした言動にでることは稀です。

ちょっとでもおかしい、と思ったらできれば録音をしましょう。

そのうえで、変な誘いには毅然と断ること。

さらに、翌日の早い時間に、その社員の所属する企業にセクハラを受けた、と通知することです。いまどき、どの企業もコンプライアンスを相当気にします。学生側からの訴えがあれば、きちんと調べるはず。

それから、自身の所属する大学キャリアセンターなどにも相談しましょう。ネットでは「大手企業への就職者数を増やしたい大学キャリアセンターがきちんと対応するわけがない」などの意見もありますが、そんなことはありません。

大半の大学キャリアセンターは学生のより良い就職のために真剣に考えています。内定辞退を強要しそうになった、卒業後の新入社員研修でひどい目にあった、などなど何かあればすぐに企業側に抗議して学生(または卒業生)を守った、という事例はいくらでもあります。

もしも、大学が当てにならない、ということであれば、それはセクハラ問題に詳しい弁護士に相談しましょう。弁護士を入れるなど大げさな、と思うかもしれませんが、決して大げさではありません。この就活セクハラは弁護士を入れてしかるべき処置をした方がいい問題です。

仮に、OB訪問・社会人訪問の際に暴行を受けた、ということであれば、これはすぐに警察に連絡。怪我をしたかどうか、診断書を取ることも必要です。

参考:OB訪問・社会人訪問の場所を考えよう~セミナー、就活カフェ、合説など

ところで就活におけるOB訪問・社会人訪問は何のためにするものなのか、学生には今一度、再考していただきたいところです。

志望企業であればOBの話を聞くことで就活の知見を広げる、できれば次の選考につなげる、これが目的のはず。志望企業以外でも就活の知見を広げて、志望企業の選考を有利にする、という点では同じ。

その目的のためにOBまたは社会人に会うわけです。

では、OBや社会人に会うのはOB訪問や社会人訪問に限定されたものなのでしょうか。そんなことはない、とこれは就活の専門家として断言できます。

最近の企業は中小・大手を問わず、大規模な合同説明会への参加だけでなく少人数のセミナーを企業内外で開催するようになってきています。

特に近年、採用担当者の間で注目されるようになってきているのが、就活カフェ。学生の利用は無料(または月1000円程度)で、電源やWi-Fiなどが利用可能。さらにスポンサー企業が出入りして様々な少人数セミナーを展開しています。

主要大学前にある「知るカフェ」、大阪・東京で展開するキャリぷら、札幌のキャリぷらplus北海道、パソナが運営する学職カフェ、エン・ジャパンが運営する「irootsLOUNGE」など各都市に広がりつつあります。

このうち、「知るカフェ」のサイトを見ると、2月21日現在の採用担当者が各カフェに来店するセミナーでは、三菱重工業、NTTデータ、JR西日本など大企業がズラリ。

キャリぷらも大阪ではNHK、豊田通商、林原など、こちらも大手企業が並びます。これは他の就活カフェも同様。

こうした就活カフェで志望企業のセミナーがないかどうか、調べるのは意外と有効です。何しろ、一般的なセミナーよりも小規模に開催するため、その分だけじっくり話を聞けます。

なお、就活カフェによってはカウンセラーが常駐。それから、出入りしている企業採用担当者が自社志望でなくても就活相談に乗ることもあります。つまり、社会人訪問にかなり近いといえるでしょう。参考までに、私(石渡)はボランティアベース(つまり無給)できゃりぷらplus北海道のアドバイザーとして出入りしています(不定期)。

OB訪問・社会人訪問という点では大学キャリアセンターや合同説明会にも言えます。

大学キャリアセンター経由での学内企業説明会も、近年は大規模に展開せず小規模に開催する企業も出てきました。そもそも論で言えば、数が多すぎることもあり、大半の企業説明会・セミナーは企業側が意図しなくても学生の参加が少数にとどまっているのが現状です。

これは就職情報会社が運営する合同説明会も同様です。あまりにも不要論が強まったせいか、それとも学生の動きが遅いのか、いずれにせよ、今年の合同説明会は都市部・地方を問わずその大半が大惨敗しています。

今後の合説も同様で、「学生が集まるのは3月1日から10日、いや1週間程度」(メーカー採用担当者)との観測が強まりつつあります。

と言うことは、合説に参加すれば志望企業の話をじっくり聞ける可能性があります。

このように、OB訪問・社会人訪問の目的を達成する手法はOB訪問・社会人訪問以外にもいくらでもあります。

就活をより良く進めるためには、リスクを意識しつつ、最善の手法は何か、学生は常に考えるようにしてください。