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「鉄道」学科は日本にはないのだけれど~鉄道業界志望の中高生のための進学ガイド

石渡嶺司大学ジャーナリスト
運転確認をする新幹線の女性車掌。近年は鉄道業界で女性の採用が増加中(ペイレスイメージズ/アフロ)

現場職に強い専門高校は東京に2校

鉄道の専門高校は、東京に2校あります。昭和鉄道高等学校岩倉高校です。

昭和鉄道高校は鉄道科のみの募集。2年次から運輸サービスコース(駅員・車掌などの現場職採用か文系大学進学)、運輸システムコース(運転士などの現場職採用か理系大学進学)に分かれます。

岩倉高校は普通科と運輸科に分かれ、運輸科が鉄道業界志望者が集まる学科です(普通科から鉄道業界に行けない、ということはなく志望ないし就職する生徒はいます)。

運輸科に入学する動機は実にはっきりしている。鉄道員になりたいという想いだ。鉄道従業員育成を目的とする学校は限られるため、全国各地から学生が集まる。15歳で寮生活を始める生徒、長野や静岡から通学する「新幹線通学者」、さらには、千葉の房総方面や東京の奥多摩方面から片道2時間以上かけて通学する生徒もいる。

中学生の段階で鉄道員を志し、寮生活や遠距離通学を決意して、親を説得して入学する。ある意味「熱い生徒」が多いのが特徴である。また、普通科の生徒の中にも鉄道会社への受験に挑戦する生徒がおり、進路に関して1年生の時から志をもって考えている生徒が多いのも特徴である。

(2016年1月15日公開「鉄道員養成の名門校に意外なライバルが登場/男女共学化した「岩倉高校」の就職事情とは?」東洋経済オンライン 著者は大日方 樹・岩倉高等学校教諭 進路指導主任・鉄道実習責任者)

この2校に入学しなくても、高卒→鉄道会社・業界に就職を考えるのであれば、各地域にある普通科高校または工業科・商業科などの専門高校、というルートもあります。

ただし、高卒就職の場合、大卒と異なり、基本的には「一社専願制」と言って、就活が解禁になった時点で一社しか選考に参加できません(地域により、2社制にしているところもあり)。また、高校によっては高卒就職に強いところもあれば不熱心なところもあります。各地域の高校に進学したうえで高卒による鉄道業界就職を目指す場合、どの高校がいいか、事前に調べておく必要があります。

鉄道関連の短大は1校のみ

鉄道関連の短大は東京交通短期大学の1校のみです。

同短大は昭和鉄道高校と同じ豊昭学園が運営しています。もともと旧国鉄が人材育成のために設立を要請した、という経緯があります。

鉄道関連の短大は2018年現在のところ、同校のみ。ただ、女性社員を登用する鉄道会社が増えている現状を考えれば、受験者数減に悩む短大が設置してもよさそうなものです。そういえば、鉄道と政治を合わせたマンガ『テツぼん』(高橋遠州・永松潔、小学館/22巻まで刊行、連載中)では、鉄道女子短大を設立、というエピソードがありました。学生減少に悩む短大関係者の方は読まれてみてはいかがでしょうか。

専門学校は各地にあり

1校しかない短大と異なり鉄道関連の専門学校は各地に多数あります。

立志舎グループ(日本スクールオブビジネス21、大阪法律専門学校、東京法律専門学校など)

鉄道・交通サービスコース、旅客サービスコースなどを設置

東京観光専門学校

鉄道サービス学科(鉄道サービスコース・メンテナンスコース)を設置

阪神自動車航空鉄道専門学校

鉄道システム学科を設置

西鉄国際ビジネスカレッジ

鉄道科を設置

このうち、西鉄国際ビジネスカレッジは学校法人西鉄学園が運営。名称通り、西日本鉄道の系列です。

上記の4校・グループ以外にも鉄道関連のコース・学科を設置した専門学校は多数あります。

現場職は高卒・短大・専門学校卒から変化

駅員や車掌、運転士などの現場職は高卒か短大・専門学校卒、総合職は大卒、という区分が鉄道会社では一般的でした。

しかし、2000年代に入り、この区分が崩れ、現在では現場職でも大卒が増えつつあります。

ここ20年ほどで高校生の鉄道就職事情は大きく変化している。JRが民営化後に高卒採用を再開した当初は、現業職は高卒、総合職は大卒と明確に分かれていた採用区分が、近年では採用形態の変化により、現業職でも大卒・大学院卒の採用が増加し、高卒の割合が減少している。大学入学者の増加により、高卒のみの採用では人材の確保が難しくなってきたという採用側の理由もあるだろう。

(前記の東洋経済オンライン記事より)

専門学校だと、これは鉄道業界に限らないのですが、隠れ大卒の存在も見逃せません。つまり、一度は大学に入学。その後、中退したか、卒業した後に専門学校に入学し直す、というパターンです。

企業からすれば大学で基礎教養の教育を受けている分、パフォーマンスが高い、と感じるようです。それ以上に大きいのが学生の意気込みです。何しろ、大学を出て(もしくは中退で)、専門学校に入り直す、ということは、専門学校を卒業後の就職で失敗したら後がありません。そのため、高卒ストレートで入学した生徒以上に勉強もしますし、就職への意気込みも違います。

ところが、専門学校は隠れ大卒だったかどうかに関係なく就職すれば就職実績として出します。数字を盛っている、とまでは言いませんが、純粋な高卒入学者の実績と真に受けてしまうのはやや危険なのではないでしょうか。

経済的な事情が許すのであれば、私は現場職か総合職かに関係なく大学進学をお勧めします。

鉄道女子には閉鎖的だったが

ところで、鉄道業界、特に駅員、車掌、運転士などの現場職については女性社員の登用に後ろ向きでした。

昭和期の車掌を主人公にした鉄道マンがの名作『カレチ』(池田邦彦、講談社/全5巻)では、2巻で女性車掌の登用を描いたエピソード(11話「出発合図」)が登場します。ネタバレになるので詳細は同書に譲るとしますが、昭和期には女性採用がかなり後ろ向きであったことが描かれています。

時代が移り、平成に変わっても実はそれほど変化はありませんでした。

ぺりかん社の進路ガイド『なるには』シリーズの『鉄道マンになるには』(1998年、ジェー・アール・アール編著)でも「女性の進出は増えることだろう」(122ページ)と書きつつ、「女性進出もさかんだが…鉄道マンの宿命」(95ページ)という項目では女性の鉄道就職に対してやや否定的な見方も書いています。

高校によってはこの『鉄道マンになるには』しか置いていないところもあります。が、ぺりかん社は2015年に改訂版となる『鉄道員になるには』(土屋敬之)を刊行、こちらでは女性関連の記載が大きく変わっています。

それと、『鉄道マンになるには』では、鉄道関連の高校2校について、「女子の入学は認めていない」としています。

確かに刊行当時は男子校だったのでこの記載は間違ってはいません。

が、昭和鉄道高校は2004年、岩倉高校は2014年から共学となっています。

生徒数は三学年合わせて、普通科八百五十六人、運輸科四百十三人。女生徒は二百九十一人で、運輸科には先の三人を含め十二人が在籍する。浅井千英(ちひで)校長(73)は「少子化や他校の動きなどもあり、共学化は時代の流れ」と説明する。

「鉄道会社の仕事は、駅を中心に町おこしを図るなど多角化している。(マニア的な鉄道好きの)『鉄ちゃん』『鉄女(てつじょ)』は敬遠される傾向にある」と浅井校長。「安全意識と同時に、広い常識を身に付けさせたい」と、人材育成について語る。

※2016年6月2日 中日新聞朝刊

現場職でも女性採用が増えており、JR西日本では現時点での社員全体のうち女性の割合は約10%ほど。そのため、女子学生向けの説明会を開催し、毎年の採用人数に占める女性の割合を25%以上で維持し続ける計画が進行中です(2017.04.12 NHK総合大阪・ニュース)。

今後も、鉄道業界は現場職を含めて女性社員を増やす傾向にある、と言っていいでしょう。

大学で鉄道学科は特にないが機電系は強い

大学では鉄道学科、または鉄道関連の学科は2018年現在、存在しません。

関連あるところだと、理工系なら機械工学科、電気電子工学科または関連学科でしょう。もともと鉄道業界への就職は機械工学科出身者が多かったのですが、この30年で大きく変化。機械工学科だけでなく電気電子工学科からも採用が増えています。まあ、機械工学・電気電子工学、合わせて機電系学科は鉄道業界だけでなく自動車、電機メーカーなどからも高い人気があります。

鉄道会社だと土木・建築部門での採用ということで土木工学系学科や建築系学科からの採用もあります。

機電系だと、一時期、マスコミで有名だったのが工学院大学の曽根悟教授、金沢工業大学の永瀬和彦教授です。鉄道の事故やトラブルが発生するたびにお二人のどちらか(あるいは両方)がマスコミに登場していました。

お二人ともすでに引退されていますが、工学院大学は工学部電気電子工学科に電気鉄道システム研究室を設置。

工学院大学は一般人向け(学生も受講可)にオープンカレッジ鉄道講座も開講。

こちらは曽根悟先生(現在は特任教授)も登壇されることがあるようです。

金沢工業大学は工学部機械工学科に福江高志研究室を設置。流体力学などが専門ですが担当の福江高志・講師は鉄道ファンとのこと。

また、工学院大学・金沢工業大学とも鉄道会社・関連会社への就職は好調です。

両校以外の理工系大学でも難関大(旧帝大クラス、東京工業大学、九州工業大学、大阪府立大学、名古屋工業大学、東京理科大学、芝浦工業大学など)などを中心に鉄道業界への就職者を輩出しています。

それから日本大学理工学部は日東駒専クラスというくくりを妄信される方には意外かもしれませんが、相当古くから就職実績が高いことで有名です。

特に理工学部は交通システム工学科を設置。鉄道関連も学べます。

もう1校、日本工業大学は学内に工業技術博物館を設置。イギリス製の蒸気機関車も動態保存、イベント時には学内(120メートル)を走ります。

11月3日・4日に同大の大学祭があり、SL運行もあるようなのでご興味ある方は行かれてみてはいかがでしょうか。

文系総合職だと鉄道オタクはキツイ

順調な理工系とは別に文系学部・学科だと、どこが鉄道会社に有利、ということはありません。

あえて近いところを出せば、明海大学(千葉県)のホスピタリティ・ツーリズム学部でしょうか。ただ、エアライン志望者にかなり寄っているので鉄道業界志望者はちょっと違うか、という気もします。

経済学部だと交通経済学、社会学部だと交通社会学が一応、関連するところ。もちろん、経済学部・社会学部だから有利、他は不利、というわけではありません。

文系総合職の場合、鉄道業界でもそれ以外でも、出身学部・学科はそれほど問われません。

そのため、経済学部・社会学部以外にも法学部、文学部や他学部も含めて好きなところを選ぶ、ということでいいのではないでしょうか。

鉄道会社を志望する場合、学科選択よりも問題なのが、鉄道オタク嫌いです。具体的には、鉄道会社は単に鉄道が好き、というだけでは落とされる傾向があります。理由は簡単で、今の鉄道会社はJRでも私鉄大手でも、鉄道事業だけで収益を上げているわけではないからです。

不動産事業、流通事業に観光・宿泊事業など幅広く展開しています。文系総合職であれば、鉄道事業に配属される可能性よりは他の事業に配属される可能性の方が高いでしょう。

そのため、鉄道オタクであれば、「鉄道事業しか志望しない使いづらい人材」として敬遠されてしまうのです。

難関大学の鉄道研究会によっては、この鉄道オタク嫌いをよくわかっているのか、「就活時には鉄道研究会出身であることを隠せ」との口伝があるとかないとか。

鉄道研究会以外の鉄道オタク・鉄道ファンであっても、鉄道が好きであることを強調するのはやめておいた方が無難です。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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