入試の公平さと経済面3要素で板挟みの医学部~不正入試で経営幹部が苦笑するその理由

東京医科大学の記者会見。昭和大学の記者会見でも苦笑が出たがその理由は…(写真:ロイター/アフロ)

医学部の不正入試、東京医科・昭和の次は順天堂

医学部の不正入試は東京医科大学で発覚、その後、昭和大学、順天堂大学でも判明しました。このうち、昭和大学は記者会見を開いて謝罪。一方、順天堂大学は10月23日現在は第三者委員会による検証を経てから公表する見込みです。

不正入試はこの3校だけではありません。すでにメディアで名前が出ているのが日本大学。他、複数校に広がる見込みです。

昭和大学では、OBである高須克弥・高須クリニック院長が「不正ではない」としてTwitterでコメント、こちらも話題となりました。

高須院長、母校・昭和大の入試得点操作は「不正ではない」…自身は「特待生入学」(2018年10月16日 スポーツ報知)

高須院長は「医学部は医師になるための教育を受ける場です」とした上で「いい素質を持った学生を鍛えて良い医者に育てるのですから学力に加え素質や心構えを重視するのが正しいです。医師になる心構えのない学生は研究者に向いています。医師免許はいりません。病人の役に立つ臨床医を育てるのが私立医学部の義務です」と持論を展開。

教育面では不正であることは確か

東京医科大学、昭和大学とも記者会見では「不正という認識はなかった」と回答。ときには苦笑する様子が「反省していない」として批判を集めています。

この不正入試、教育面では確かに不正です。教育面というのは、すなわち、大学入試の公平・公正さを担保できたかどうか。

文部科学省の「平成31年度大学入学者選抜実施要領」には、どうやって公平・公正さを担保するかが明記されています。

第10 募集要項等

募集要項 (1) 各大学は、入学者受入れの方針(アドミッション・ポリシー)、募集人員、出願要件、出願手続、試験期日、試験方法、試験場、入学検定料その他入学に要する経費の種類・額やその納入手続・期限など入学志願者が出願等に必要な事項を決定し、それらを明記した募集要項を平成30年12月15日までに発表する。

(2) 2以上の入試方法により入学者選抜を実施する場合には、それぞれの入試方法の区分ごとに募集人員等を明記する。

(3) 寄付金等の納入を条件として入学許可を行うことのないようにすることが必要であり、 「私立大学における入学者選抜の公正確保等について」(平成14年10月1日付け14文科高第 454号文部科学事務次官通知)を踏まえ、寄付金等を募集する場合は、募集要項において応募が任意であること、入学前の募集は行っていないことなどを明記する。

(4) 各大学は、入学志願者に対し、募集要項のほか、大学案内、大学説明会等により、入学者受入れの方針(アドミッション・ポリシー)、学部等の組織、教育研究の内容及び特色、学生生活の概要及び諸経費、過去の年度の入学志願者及び合格者の数、卒業後の進路状況など 大学・学部等の選択の参考となる情報の提供に努める。

(5) 受験の勧誘を行う場合には、それをもって直ちに入学の確約と誤解されることのないよう入学者選抜の公正確保に努める。

第13 その他注意事項

4 入学者選抜の公正確保

入学者選抜は、中立・公正に実施することを旨とし、試験問題の作成や点検等に当たり、問題 の漏洩など入学者選抜の信頼性を損なう事態が生ずることのないよう、学長を中心とした責任体制の明確化、入試担当教職員の選任における適格性の確保、研修の実施など実施体制の充実を図る。

長々書いていますが、要するに「募集要項で出願要件なども含めて全部出せ」「選抜は信頼性を損なうな」ということです。

今回の医学部不正入試問題は、募集要項に女子や浪人に差をつけるとは一言も書いていません。その点で不正入試と批判されるのは致し方ないところでしょう。

教育面では不正でも経済面では合理的

この医学部不正入試は、医学部の経営幹部が不正であることを認識していなかった、とか、女性を不当に差別した、という点が注目されています。

記者会見で大学の経営幹部が苦笑しているところをとらえて「反省していない」と批判が出るのも、この文脈からと言えるでしょう。

ただ、私は教育面の不正だけに注目して、それを批判さえすれば問題が解決できる、とは考えていません。

というのも、医学部は教育面だけでなく経済面についても考える必要があるからです。

具体的には3点あります。

その1:医師国家試験の合格率

その2:卒業後のキャリア(特に附属病院の医師確保)

その3:医学部自体の経営

この3点を考えていけば、「女子や浪人を不合格とするのは医学部にとって合理的」という発想が医学部の経営幹部に出ても自然なのです。もちろん、教育面(大学入試)との整合性はどうなんだ、というツッコミはあるのですが。

では、医学部がおかれている経済面の問題3点について、解説していきます。まず、1番目の「医師国家試験の合格率」から。

医学部を卒業しても、得られるのは学位だけで、すぐ医師になれるわけではありません。医師国家試験の受験資格が得られて(もちろん、他学部生は受験不可)、国家試験に合格して初めて、医師免許が交付されます。

というあたりは、ご存知の方も多いはず。その一方で、一般にはほぼ知られていませんが、国家試験の合格率が低い医学部は補助金がカットされてしまいます。

日本私立学校振興・共済事業団「私立大学等経常費補助金 平成29年度 取扱要領・配分基準」には、以下の項目に明記されています。

4 補助金の基準額の増額又は減額 2-7

(中略)医学・歯学の正規の課程を修めて当該年度の前年度末に卒業した者の医師・歯科医師国家試験の合格率(以下「当該年度合格率」という。)が70%未満の大学は別記 8 に掲げる4の「大学院等の機能の高度化への支援」の 1 の「大学院における研究の充実」の医学・歯学研究科に係る増額措置を行わないものとする。ただし、当該年度合格率が70%未満であっても、当該年度合格率を含む過去3か年の平均合格率が70%以上の場合はこの限りでない。

合格率を上げるために医学部がどうするか、と言えば方法は2つ。まず、国家試験に合格できそうにない学生は留年させることで国家試験を受験させません。

第112回医師国家試験合格状況(医師国家試験対策予備校,模擬試験,講座のテコム)によると、

2018年の国家試験で、出願者と受験者に大きな差のある大学がいくつかあります。

これは、卒業判定保留制度の影響です。

医学部の6年生は事前に卒業が決定しないと卒業直前の2月の医師国家試験を受験できないが、卒業判定保留制度とは、その学生が受けるはずだった医師国家試験の終了後に卒業を認めるという、つまりは医師国家試験を受けさせないための制度である。

Vol. 258 このままでいいのか「医学部大量留年」問題(早稲田大学医療人類学研究所 客員研究員・杉原正子 医療ガバナンス学会 2010年8月10日)

この卒業判定保留制度で合格率を高める一方、入試では国家試験合格率が低い、とされる多浪生は敬遠するのです。

確かに、多浪生は、現役生に比べて、時間をかけて受験対策をしています。その分だけ、学力が低い、と見られても致し方ない部分はあるでしょう。この部分、文系学部ながら2浪もした私にも多少当てはまるので、自分で書いていて心痛いところ(言い訳すると、2浪のうち、1.5年は勉強せず本と漫画と映画三昧でした)。

話を戻すと、多浪生が国家試験合格率を引き下げて補助金がもらえなくなるなら、多浪生は入試で落とす方が得、という発想になるのです。

卒業後のキャリア(特に附属病院の医師確保)

これは女子受験生に影響しています。

医学部の経営幹部からすれば女子の受験生は「優秀なんだけれど」というエクスキューズが出てしまいます。

すなわち、医師になっても外科などを希望しない、附属病院に行きたがらない、美容整形などを志望する、結婚・出産でキャリアが中断する、あるいはそのうちやめてしまう云々。

だったら、よほど優秀な受験生以外は、入学させても損、という発想になるのです。

特に附属病院や関連病院で医師をどう確保するか、という問題は医学部の経営幹部にとって頭の痛い問題です。2004年に現在の臨床研修制度が始まって以降、病院や診療科を研修医は自由に選べるようになりました。それまでは、研修医は出身校につなぎとめる、つまり、附属病院や関連病院に送り込む、ということができたのですが、2004年以降は難しくなったのです。

特に女性の研修医からすれば、自身のキャリアやライフプランを考えれば、結婚・出産・育児によるキャリアの中断、という問題があります。そうなると労働環境が整備されているとは言いがたい外科などを敬遠するのは、自然な流れでしょう。

女性医師の個人の利益は、すなわち、医学部全体にとっては損失になります。だったら、女子受験生を落としてしまえ、となるわけです。

もちろん、2010年代に入ってから女性のキャリア環境は政府の施策もあって劇的に変化しています。女性医師についても同様です。

皮肉にも、この不正入試問題の発端となった東京医科大学は女性研究者支援で補助金約8000万円を受けていました。

医学部自体の経営~順天堂ショックで学費値下げも影響

3番目は医学部自体の経営です。

意外と知られていませんが、医学部は医学部教育の単体では赤字なのです。数百万円から1000万円以上もの学費をとっておいて、というかもしれませんが、それでも赤字です。何しろ、高額な医療施設・設備の購入やメンテナンス費用などが全部かかるわけですから。

学費をさらに高くすればいいじゃないか、と思うかもしれませんが、2008年、順天堂大学は学費を値下げ、受験生を多く集めることに成功します。これがきっかけで他大学も学費値下げに踏み切りました。関係者の間では順天堂ショックと呼ばれています。

順天堂ショックで学費は上げられない、となると、あとは寄付金に頼るしかありません。

この寄付金ですが、文系・理系学部出身者からすれば信じられないくらい高額です。私も出身校(東洋大学)の寄付金依頼が親のところに来た覚えがありますが、確か1万円単位でした。それに対して、医学部の場合、さらに高額です。はっきりと金額は出しませんが、実際には50万円、100万円単位での寄付を依頼(というか、強い要請)をする医学部もあります。

そこまでやらないと、医学部の赤字を解消することはできないのです。

もうお分かりか、と思いますが、赤字解消のためには寄付金が必要です。この寄付金獲得のためには、大学の有力OBなどの子弟を優遇して入学させ寄付金を確保する、というのは経済面で合理的、との発想になるのです。

経済面の3要素は教育面を凌駕するという発想

まとめますと、医学部における経済面の3要素は大学入試に次のように影響しています。

その1:医師国家試験の合格率→合格率が低いと補助金が減る→合格率の低い多浪生を落とすのが合理的

その2:卒業後のキャリア(特に附属病院の医師確保)→女性医師は医学部にとっては不利益が過去には多かった→女子の受験生を落とすのが合理的

その3:医学部自体の経営→順天堂ショックの影響もあって学費を値上げできない→高額な寄付金を出してくれそうな有力OBの子弟などを優遇する方が合理的

医学部の経営幹部からすれば、この経済面3要素が教育面より上、と考えたことでしょう。

高等教育研究機関なのですから教育面の重要性は理解しつつも、経済面3要素を考えないと、医学部の経営自体が危うくなります。

「医学部の経営に責任がある以上、経済面の3要素を考えていった。確かに教育面は重要なんだけど…」という思いだったのではないでしょうか。

記者会見で見せた苦笑も、この板挟みから来たもの、と考えれば納得ができます。

経済面3要素も含めた入試改革を

医学部の不正入試問題は全国医学部長会議が11月中旬に入試規範を検討したうえで発表する、としています。

私は医学部の入試改革が必要、と考えます。ただ、全国医学部長会議や文部科学省にお願いしたいのは、単に綱紀粛正をしましょう、というだけでは、結局のところ、問題を先送りするだけです。経済面3要素を含めてどう変えるか、そこを議論して落としどころを見つけない限り、同じ問題がしばらくしてから噴出するのではないでしょうか。

実は、文部科学省所管外の大学校ではありますが、民間航空機のパイロットを養成する航空大学校は年齢差をつけています。

特に平成21年度からは、1次不合格者の再受験を認めていません。

Q:平成21年度募集から、過去に二次試験を受験して不合格となった人は受験できなくなったのは何故でしょうか。

A:過去2回以上二次試験を受験した者のほとんどが、不合格となっているためです。なお、国の航空身体検査基準の変更に伴い、過去における第二次試験不合格者の中に屈折矯正手術を受けるなどの一定の条件を満たすことによって再受験が可能となる者がいます。

パイロット養成と同じく医師の養成は専門職の養成となります。専門職養成、という点ではどうしても年齢も影響してきます。

浪人や女子の受験生をどうするか、については、専門職養成のあり方、あるいは経済面3要素と教育面の整合性をどこで取るか、なども含めて議論が必要でしょう。

そうでなければ、医学部が教育面と経済面で板挟みとなり、その苦境から苦笑とため息が出るだけです。それは医学部だけの問題だけでなく、日本人の健康・福祉、という点で大きな損失ではないか、と考える次第です。