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文科省調査より先の医学部男女比調査~不自然な男女比を関係者はどう弁明するのか?

石渡嶺司大学ジャーナリスト
東京医科大学前デモのプラカード。入学者データからは不自然な男女比が見え隠れする。(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

12年前から実施の「悪しき慣行」

東京医科大学の内部調査委員会と大学当局は8月7日、それぞれ記者会見。

内部調査委員会は一連の不正入試について、「悪しき慣行」と厳しく非難。

一方、大学当局(行岡哲男常務理事、宮沢啓介学長職務代理)は謝罪しつつ、自身を含む現執行部は「承知していない」と繰り返しました。

これを受け、林芳正文科相は、全国の医学部に対して入試に不正がなかったか、調査することを表明しました。

全国の医学部を調査へ 東京医科大の不正入試報告受け(FNN)

入学者データから男女比を調査

この文部科学省調査がいつ頃、公表されるかは不明です。

そこで、著者はこの文部科学省調査に先駆けて全国の国公立医学部51校、私大31校について入学者の男女比データを調査、集計しました。

いまどき、受験生の能力差に男女の別はないでしょう。であれば、入学者データで男女比に極端な差がついていれば、これは何らかの作為があった可能性があります。

まずは国公立大学医学部51校から

元データとしたのは、朝日新聞出版『AERA premium 医者・医学部がわかる2018』『AERA premium 医者・医学部がわかる2017』、メルリックス学院『私立医歯学部受験ガイド』の2015年度版~2018年度版。

というわけでまずは2017年の国公立51校(文部科学省所管外の防衛医科大学校を含む)の男女比データから。

※以下の表は元データ本と各大学データから著者が集計し作成

国公立1
国公立1
国公立2
国公立2
国公立3
国公立3

私立大学医学部31校の4年間経年変化は?

続いて私立大31校。こちらは2014年~2017年の4年間経年変化をまとめました。

私立1
私立1
私立2
私立2
私立3
私立3

非公表は教育公表データなどから

表のうち、東北医科薬科大学は2016年、国際医療福祉大学は2017年の新設です。そのため、それより前は入学者データがありません。

東京女子医科大学は女子のみなので、当然ながら男子データが空欄です。

それ以外に「※」がついている大学が国立の筑波大学、東京大学、岐阜大学、神戸大学、高知大学の5校。私立は帝京大学、順天堂大学(2014年・2015年)の2校。

それと非公表が国立の秋田大学、信州大学と私立の杏林大学(2015年のみ)の3校。

このうち「※」ですが、元データとしたムック・本ではそれぞれ非公表となっていました。

こうした受験ガイドでのデータ開示は、大学によって様々です。基本的にはマスコミに公表すべき情報なのですが。

私もこうした受験ガイドの作成などに関わった経験があります。その経験から申し上げると、非公表とするのは理由があります。

・隠したいデータなので非公表とした。

・隠すほどではないが、担当職員がもたもたしていて期日に間に合わなかった。

・隠すほどでもなく、もたもたもしていないが、メディア側の上から目線にイラっとした。

などなど。

そこで、同じ年度の入学者データを大学サイトから探し出しました。今は文部科学省が入学者データなどについてそれぞれの大学が公表するよう定めています。

これで東京大学、岐阜大学、高知大学、順天堂大学の4校が判明。

このうち、東京大学は「学生数の詳細について」から集計。

ただし、東京大学は医学部医学科で募集せず、理科3類が実質的に医学部進学です。とは言え、他の科類からも医学部医学科に進学する学生がいます。そのため、他大学と同じ「入学者」とは若干異なります。

帝京大学は「学部学科の学生定員及び在籍学生数」の各年度に男女比というざっくりしたデータを掲載。それを流用しました。

神戸大学は「学生数」の項目で受験データを出していますが男女比は出さず。在籍学生の女子内数は出しているので、それを流用しました。

筑波大学はどこを見ても不明。平成28年度版年次報告書には学年別の男女比を掲載。この報告書の男女比を計算したものを流用しました。

杏林大学は2015年度データ、秋田大学・信州大学は各年度ともデータが出ていません。

たとえば、秋田大学は医学部全体での男女比は出ています。が、保健学科(看護・理学療法・作業療法)の存在を考えれば女子比率が高くなるのは当然でしょう。

そこでやむを得ず「非公表」としました。

国公立でも29校が30ポイント以上の差

さて皆さんはこのデータをどう見たでしょうか。

まず国公立大は51校中半数以上の29校で男女比について30ポイント以上の差が出ています。

私立大でも、2017年入学では31校中15校が30ポイント以上の差。いくら何でも30ポイント以上もの差は不自然です。

2014年から4年間の経年変化で見ても30ポイント以上の差が続くのは昭和、順天堂、慶應義塾、日本の4校。

東京医科大学は2017年は10ポイント差ですが、2015・2016年は25ポイント差、2014年は40ポイント差もあります。

大学受験において、男女別の能力差はそれほどないと見るのが自然でしょう。

しかし、実際の入学者データでは、20~30ポイント以上もの差をつけて男子学生が上回る大学が大半を占めています。

ここまで差がつくのか、何らかの作為があったかどうか、文部科学省には徹底的に調査していただきたいところです。

また、各大学におかれましては、文部科学省だけでなく、広く国民にもわかるよう、入試データの開示をお願いする次第です。

追記(2018年8月8日18時55分)

Yahoo!ニュース個人編集部の指摘により、小見出しなどを一部修正しました。

「入学者数だけで志願者数を示さないのはおかしい」「女子入学者の少ない理工系学部も入試で不正をしている、ということになるので信頼性に乏しい記事としか読めない」などのご指摘を読者からいただきました。

志願者数と合格者数・入学者数の男女別データを見ていく方が不正入試の可能性について切り込めることはご指摘の通りです。

しかし、そもそも志願者数の男女別を明示している医学部が少なく、データ化がなかなかしづらいという事情があります。

それと、女子からの人気が高くはない理工系学部(一部学科・大学を除く)と違い、医学部は女子からの人気も集めています。

それもあって、今回の記事では入学者数のみで構成しました。

ただ、ご指摘いただいたように志願者数も含めてデータ化した方が、男女差を示せることは確かです。文部科学省調査でそのあたりまで踏み込んで明らかになることを期待します。

ご指摘いただいた、「あ」様、「あき」様、「あやややや」様、他皆様に感謝します。

追記(2018年8月9日17時40分)

慶應義塾大学の2017年数値について女子「21.2」(%)でしたが、正しくは「21.8」でしたので修正しました。

東京大学については、学生数を元に集計しましたが、実際の入学者数は科類募集のため、異なります。その点を本文中に加筆・修正しました。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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