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日大田中理事長、HPに声明掲載も~謝罪の文言もあるが事態は収まらず

石渡嶺司大学ジャーナリスト
ようやく田中理事長は声明を発表。記者会見はまだ不明(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

理事長コメントが大学HPに掲載

ようやく山が動いた、と言うところでしょうか。それも少しだけ。

アメフト騒動で揺れる日本大学は8月3日13時過ぎ、田中秀壽理事長のコメント・声明文をHPに掲載しました。

あくまでもコメント・声明文であって、謝罪かどうかは…

この田中理事長のコメント・声明文ですが、ネットメディアでは最初に報じたデイリー以外、謝罪としています。

日大・田中理事長が声明文を掲載「学生ファーストの理念に立ち返って」(デイリー 13時30分配信)

日大・田中理事長が謝罪「我々の責任」 出場停止処分解除見送りで「学生諸君には誠に申し訳ない」(スポニチアネックス 13時58分)

田中英寿理事長が大学HPに謝罪文掲載 学生ファースト見失った指摘「心に突き刺さった」 理事長辞任は否定 日大アメフト(産経新聞 14時2分)

日大田中理事長が謝罪「心に突き刺さった一言」とは(日刊スポーツ 14時)

<日大・田中理事長>HPで謝罪 一連の騒動で初見解(毎日新聞 14時4分)

日大の田中理事長が謝罪文=大学ホームページに―アメフット悪質タックル( 時事通信 14時26分)

確かに謝罪の文言はあります。

が、これを被害選手の父親である奥野さんなども含めて謝罪文と取れるかどうかは別問題です。

声明文は異例の感想から

アメリカンフットボール部の反則タックルをめぐる問題について、調査をお願いしていた第三者委員会から7月30日に最終報告書を受け取りました。一読して、わたくしの心に突き刺さった一言があります。「日大において学生ファーストの精神が見失われていた」

「心に突き刺さった一言があります」とは、ちょっと真面目な小学生・中学生が読書感想文あたりで書きそうなフレーズです。

いや、中高生男性が書いたらダメ、とは言いません。私も中年男性ですがそうした文言を使うことはありますし。

しかし、もし、今回掲載された声明文が謝罪文というのであれば、こんな感想のような文言を冒頭に使うものでしょうか。

私はこの感覚が奇妙に思えてなりません。田中理事長の一連の対応はヒトゴトとしか思えない対応でした。それが、この冒頭にあらわれてしまっています。

それは、鋭い痛みでした。もとより、大学の基本理念は「学生第一」であります。本学も例外ではありません。だが、長い歴史の中で、おろそかになっているという極めて厳しい指摘です。大学を代表し、統括しなければならない立場にあるものとして、これ以上、心に響いた言葉はありませんでした。

「鋭い痛み」とか「心に響いた」って、そういうものなのでしょうか、謝罪文というものは。

辞めるとはいわず「今後の大学運営を行っていく」

反則タックルから始まった一連の出来事を顧みれば、すべての根底には、「忘れられた学生ファーストの精神」があったと思います。理事長として、この指摘を受け止め、深く反省し、改めて学生ファーストの精神に立ち返って今後の大学運営を行っていくことを、学生諸君、保護者の皆様に宣言いたします。教職員の皆様も、わたくしの決意を受け止め、行動していただきたい。

作文教室講師になった気分で添削していくと、「反則タックルから」とありますが、それだと該当選手である宮川選手の責任、とも取れますね。

そもそもの出発点はパワハラ体質であり、「反則行為の指示」です。「反則タックル」はそのあとであり、ここを誤解しないように(上から目線)。

「今後の大学運営を行っていく」は、理事長をやめない、ということを意味します。

謝罪の部分はあるが

第三者委員会は、アメリカンフットボール部の前監督とコーチによる反則行為の指示があったことを認定しております。誠に遺憾というだけでは、済まされない行いだったと思います。関西学院大学アメリカンフットボール部の関係者、反則タックルによってけがをされた選手、保護者、反則するよう指示を受けた本学の選手と保護者に対し、深くお詫びをいたします。さらに、関東学生アメリカンフットボール連盟、他大学のアメリカンフットボールチーム関係者、アメリカンフットボールに関わる多くの方々に不安とご迷惑をかけたことを重く受け止め、深く謝罪をいたしたいと思います。

ここは謝罪のブロック。

これをもって謝罪文と言えなくもありません。

が、謝罪というのであれば謝罪すれば終わりではありません。経緯を説明し、対応策・改善策を出す、この3点がセットだからこそ、初めて謝罪となります。

該当選手である宮川選手の記者会見はこの3点がセットになっていたからこそ、その誠実さもあって、多くの国民・マスコミが同情しました。

一方、内田・井上会見は謝罪だけで経緯説明や対応策・改善策の発表は、セットになっていません。「常務理事の役職停止・コーチ辞任」はとてもではありませんが対応策とは言えないでしょう。この的外れな対応が炎上を招いたとも言えます。

田中理事長の声明文も、内田・井上会見を引き継いでいるとしか思えません。

井ノ口前理事への懲戒処分は?

報告書の中では、あるまじきことか、元理事でアメリカンフットボール部のOBによる口封じがあったことが示されています。いかなる理由があろうとも、断じて許されないことです。なぜこんな卑劣な行為があったのか、驚愕と激しい怒りがこみ上げました。二度とあってはならないことです。

「二度とあってはならない」は日本人の誰もが感じていることです。田中理事長が謝罪というのであれば、

「この理事はすでに辞任しましたが、●月●日、懲戒解雇としました。今後、学校法人日本大学ならびに関連法人・企業、または親密度の高い企業等も含め、在籍することはありません。また、日本大学とアメフト部には関与させないことをお約束します」

くらい、出すべきです。

アメフト部への「最大限の支援」?

関東学生アメリカンフットボール連盟は、本学が提出したチーム改善報告書では不十分として、出場停止の処分解除はできないとの決定を下しました。その結果、本学アメリカンフットボール部の4年生は、最後のプレーをする大切な機会を失うことになりました。学生諸君には、誠に申し訳ないというしかありません。この残念な事態を招いたのは、すべて我々の責任です。もし、来シーズンまで待つという選手がいれば、出場ができるように最大限の支援をすることを約束します。

「最大限の支援」では意味不明。内定を得ている4年生には内定辞退や留年に伴う学費免除なども含め、必要な方策を列記すべきです。

「深く受け止めました」でヒトゴト体質が露呈

関東学生アメリカンフットボール連盟の決定書は、「理事長が組織改革は必ずやり遂げるとの強力なメッセージを発していれば、印象は違ったものになったであろう」とまで言いました。第三者委員会も、「この件は教学だけの問題に止まるものではない」と理事長の責任に、結論で触れました。私はこれらの言葉を、心に深く受け止めました。

日本大学は多くのやらねばならない課題、宿題をいただきました。競技部へのガバナンス強化が柱です。保健体育審議会の組織改革を急ぎ、日大競技部を新しい姿に変えていく。こうした努力のなかで、アメリカンフットボール部は「強くたくましい、フェアプレーのお手本となるチーム」として再生していくことになります。いかねばなりません。

「教学だけの問題にとどまるものではない」という第三者委員会の指摘に「心に深く受け止めました」。

これは通例であれば「指摘を受けたこともあり、辞任」という流れです。それが「深く受け止めました」というのは、それだけか、と。

アメリカンフットボール部は「強くたくましい、フェアプレーのお手本となるチーム」として再生していくことになります。いかねばなりません。

「~していくことになります。いかねばなりません」というのも文章としては微妙。

そもそも論として「フェアプレーの手本」というのであれば、勝利至上主義・パワハラ体質をどう変えるのか、そこも触れるべきです。

「自由闊達」というなら記者会見やバイキング出演を

大学運営のトップである理事長として、教学のトップである学長と歩を一にして、これらの改革に取り組んでいく覚悟です。そのことにより、耳を大きくし、より広く意見を聞き、自由闊達で開かれた大学を目指します。

日本大学は来年、創立一三〇周年を迎えます。今回の事件では数々の不手際、対応の遅れから社会問題となり、日大の信頼を大きく損ないました。このようなことは二度と繰り返さないことを誓い、この教訓を踏み台に日大再生を進める覚悟です。

このあたりも、スローガンで、本気でやる気があるのか、疑わしいところ。

そもそも、「自由闊達」というのであれば、理事長も学長ももっと記者会見に応じるべきです。

あるいは、田中理事長の天敵とも言えるバイキング、それから日大アメフト騒動を長く報じてきたフジテレビ・グッディやTBS・あさチャンなども含めて各報道番組・ワイドショーのインタビューに応じるとか。

そういう具体的な話がないままで、私はこれを謝罪文というのは相当な抵抗があります。

まずは宮川選手とアメフト部、被害選手にそれぞれ直接謝罪を

田中理事長の辞任の是非はおくとして、まずするべきは、反則指示を受けた(しかもその後、好き勝手言われた)宮川選手とその家族、アメフト部、そして被害選手とその家族にそれぞれ面会。直接謝罪するのが筋を通す、というものでしょう。

面会・謝罪がマスコミに公開するかどうかはともかくとしても、です。

そのうえで、

「内田・井上両氏の懲戒解雇と今後、日本大学とアメフト部・関連法人・企業に関与させないこと」

「井ノ口前理事の懲戒処分と今後、日本大学とアメフト部・関連法人・企業に関与させないこと」

「反則指示を受けた宮川選手への謝罪とアメフト部への復帰プログラムなどを含む具体策の提示」

「アメフト部員の留年した場合の支援策(学費免除などを含む)」

などなど、すぐに理事長名で出すべき話はいくらでもあります。

理事長の辞任の是非は本稿ではおくとしますが、辞任するにせよ、続投するにせよ、理事長名でやるべきこと、発表すべきことは山積しています。

それらがないまま、そして、記者会見がないままでは、日本大学への信頼はなかなか回復しないのではないでしょうか。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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