奨学金延滞率ランキング~影響するのは、やっぱり就職だった?

合同説明会で疲れて一休みする学生(写真と本文は関係ありません)

日本学生支援機構、大学別に延滞率を発表

出るぞ、出るぞ、と言われていた「お化け」が出た、と大学業界で評判です。

「お化け」とは、日本学生支援機構が発表した大学別の奨学金延滞率です。

大学の延滞率平均は1.3%。

これに対して、最高は13.9%。5%超の大学が20校(募集停止を含めれば22校)ありました。

付言しますと、日本学生支援機構はどういうわけか、ランキングとはしていません。

が、善意も悪意も満ち溢れる(苦笑)現代のネット社会において、大学別ですか、ああそうですか、で、終わるわけがありません。

まず、奨学金問題をずっと追っかけているネットメディア・東洋経済オンライン東洋経済オンラインが大学別ランキングを作成。

さらに、偏差値を合わせてその状況を検討したブロガーもいました。

日本学生支援機構が来年度以降も延滞率を大学別に発表されるようであれば、最初からランキングとしていただくことをお願いしたい次第です。

延滞率と偏差値は関連あるか?

さて、東洋経済オンラインが作成した延滞率ランキングからは様々な推測が可能です。

その一つが作成された、偏差値と合わせての一覧表を作成されたブロガー・LM-7さんでしょう。

「偏差値が低い大学はそれだけ奨学金延滞率が高い」

という推測は、国公立大学の大半が低い延滞率を示しており、ある程度は当たっていそうです。

ただ、この「ある程度」が「相当程度」に誤解される方も多いわけで、そこが怖いところです。

そもそも論で言えば、大学の受験偏差値は大学の実勢全てを示す数値とは言えません。

たとえば、理工系学部は女子学生の志望者が少なくなります。成績優秀な女子学生の志望者が少ない学部は、その分だけ偏差値も低く出るのが自然です。そのため、理工系学部が中心となる東京理科大学、芝浦工業大学などは就職実績を考えれば実勢と大きなかい離がある、と言わざるを得ません。

私は偏差値と奨学金延滞率の相関性は無関係とまではいいませんが、それほど高くない、と考えています。

学生の奨学金利用額が大きく影響

では、奨学金延滞率と相関性の高い要素とはいったい何か。知己の大学教職員と色々議論しまして、一番大きい要素は、「奨学金の利用総額の平均額」との結論に達しました。

どれくらいの金額になるか、日本学生支援機構サイトの返還シミュレーション(詳細版)で計算しました。

なお、余談ですが簡易シミュレーションだと利率が3%(上限金利)で計算してしまいます。

この簡易版の結果を持って、「日本学生支援機構はサラ金よりひどい、キー」と非難される方もいるので注意しましょう。

基本条件1:2018年に大学(4年制)に入学

基本条件2:利用する奨学金は第二種。利率は2017年4月適用金利の0.23%

基本条件3:第一種(無利子)の併用はしない。機関保証制度は利用しない

基本条件4:シミュレーション金額は「月3万円・入学時増額0円(4年総額144万円)」「月5万円・入学時増額10万円(総額250万円)」「月12万円・入学時増額50万円(総額626万円)」の3パターン

総額については、4年制大学での貸与最低額と最高額、それと平均的なところから選択しました。

さて、月返済額ですが、以下の通りです。

144万円貸与→月返済額9380円(返済期間13年)

250万円貸与→月返済額1万4155円(同15年)

626万円貸与→月返済額2万6763円(同20年)

144万円貸与なら、月々の返済が1万円未満。仮に条件の悪い職業だったとしても、どうにか返済できそうです。

一方、4年制大学での最高額・626万円貸与だと、月返済額は2万6763円。よほど収入の高い企業ならまだしも平均的な企業であれば返済が滞る可能性が高い金額と言わざるを得ません。

定員割れ・学費・就職の3点でランキングを構成

ただ、学生の利用総額平均額は公表されていません。大学も公表する気はないでしょう。

となると、影響する他の要素は何か。

色々検討した結果、次の4点が影響しているのでは、と考えました。

●入学時点

定員割れ:定員割れが続いている大学であれば、悪循環にはまり込み、就職実績が上がらない。ひいては延滞するリスクも高くなる。

学費:初年度納付金が120万円以上(文部科学省・平成26年調査だと文系私大の平均は114万円)だと、奨学金の利用額を増やしてしまう。ひいては延滞するリスクが高くなる。

●卒業時点

大学所在地の賃金状況:地元の賃金状況が低い場合、それだけ就職しても低い収入しか得られない。その分だけ、返済が滞るリスクが高くなる。

低賃金リスクの学部・学科:教育・福祉・心理・芸術・体育の学部・学科がある大学は、収入が低い、就職するまでに就職浪人する可能性が高い、就職しても非正規雇用となる可能性が高い、などのリスクがある。卒業してもすぐ一定額の収入が得られないため、その分だけ延滞リスクが高くなる。

この4点を加味して、ランキングを作成しました。なお、今回は国公立・私立合わせて延滞率の高い順に200校をまとめています。

※延滞率は分母が2013年度末までの5年間の返還義務が生じた貸与修了者、分子は3か月以上の延滞者の割合。

※東洋経済オンライン記事・ランキングでは福岡国際大学、東京女学館大学が入っています。両校はすでに募集停止が決まっており、これから入学を検討する受験生・高校関係者には無関係です。そのため、本稿のランキングでは掲載を外しています。

1位~12位
1位~12位
13位~24位
13位~24位
24位~35位
24位~35位
35位~48位
35位~48位
48位~59位
48位~59位
59位~69位
59位~69位
69位~83位
69位~83位
83位~91位
83位~91位
91位~106位
91位~106位
106位~112位
106位~112位
121位~132位
121位~132位
132位~142位
132位~142位
142位
142位
142位~161位
142位~161位
161位~172位
161位~172位
172位~183位
172位~183位
183位・注釈
183位・注釈

強い関連があったのは定員割れ、学費、低賃金リスク

ランキングを作成した結果、加味した4点については以下の結果となりました。

定員割れ:該当139校

高学費:該当171校

賃金:低い(730円以下・17県)24校、中(731円~760円・10県)22校、やや高(761円~800円・11県)39校、高(801円以上・9都道府県)115校

低賃金リスク:該当115校

一番、該当校が多かったのは学費。医歯薬・医療・芸術系学部や理工系が高いのは当然なんですが、家政系や文系学部も意外と高く。

考えてみれば、心理系学部・学科は実験機材なども必要です。

そうでない文系学部でも、特に定員割れ大学であれば学費値上げで対応、ということもあるのでしょう。

次に多かったのが定員割れ。2016年入試の結果をもとにしていますが、私立大から公立大に転換した福知山公立大、名桜大はどちらも私立大時代は定員割れの年もありました。この2校に、過去、定員割れだった大学も合わせるともう少し多いかもしれません。

3番目の低賃金リスク。ここは大学の責任、というよりは職業・業界の構造、それからそれを理解しない学生の自己責任とも言えます。

まず、教育系学部は「就職に強い」という各大学の宣伝はウソではないにしても、非常勤講師(非正規雇用)としての採用の可能性があります。

数年、非常勤講師として勤務、それから正規雇用に昇格、ということであればキャリア設計も立てやすくなります。当然ながら奨学金返済の計画も無理なくできるでしょう。

が、実際は全く先が読めません。すぐ正規雇用かもしれない、数年で正規雇用に昇格かもしれない、10年やっても非正規のままかもしれません。そうなると、奨学金を多く利用した場合、返済できなくなる可能性が出てしまいます。これが、本稿で言うところの「低賃金リスク」です。

福祉系学部を卒業した後の福祉業界も労働条件が良いとは言えないでしょう。心理系学部は公務員(家庭裁判所調査官など)や民間企業就職ならいいのですが、問題は心理カウンセラー志望です。大学院進学が必要なうえ、今のところ、学校カウンセラーなど非正規雇用が多く、こちらもリスクが高い、と言わざるを得ません。

芸術・体育系学部は、フリーランス志向が多い学部です。それから、体育系学部だと、専門を生かそうと、教員志望が多くいるのも特徴です。

という低賃金リスクですが、こちらは115校が該当。

一方、関連性が低かったのが地元の最低賃金です。考えてみれば、地元からの進学、かつ、地元での就職希望が多い大学なら関連性は高いはず。ですが、そうでなければ特に関係ない、とも言えます。

延滞率ランキング、受験生・高校関係者はどう見るべきか

この延滞率ランキングですが、怖いのはやはり数字の先行です。

たとえば、名桜大学と福知山公立大学は現在は公立大ですが、かつては私立大でした。

私立大時代に定員割れで苦しんだ時期もあり、その悪影響がこの延滞率ランキングに影響しています。

今後、公立大として受験生を集めていけば、それだけ就職状況も好転。その分、奨学金延滞も改善されていくでしょう。

同じことが他の私大にも言えます。

112位の大阪観光大学は関西国際空港に一番近い大学であり、観光の単科大学です。定員割れが続いていますが、年々改善傾向にあります。外国人観光客が2000万人だ、いや、3000万人だ、という時代に必要な人材を育成する大学でもあり、就職状況も好転していくでしょう。

実際、延滞率は2013年度末時点では4.1%でしたが、それが2.8%に減っています。

172位の梅光学院大学も、かつては定員割れに苦しんでいました。が、現在は大学改革に成功、就職状況も大きく好転しています。

こうした大学は現時点で公表された延滞率が大学の状況を全て表しているとは言えません。

それから、高校生に意識してほしいのは、進学先の専門性を無理に就職につなげようとしないことです。本稿のランキングでは低賃金リスクのある大学として、教育、福祉、心理、芸術、体育の5学部・学科を挙げました。

このうち、教育・体育については、専門性を無理に生かそうとするため、教員志望の学生が多くいます。奨学金利用額が多いようであれば民間企業就職に変えるだけで、延滞リスクは相当減らすことが可能です。他の3学部・学科についても同様です。

大学関係者はランキングをどう見るべきか

大学関係者、特に、このランキングに名前の出た大学の方はご不快かもしれません。

延滞率の高さは大学教育すべてを表すものではなく、大学の責任が大きいとは私は考えません。

受験生ないし学生個人の責任もある程度影響している、と考えています。

が、一方で、無策でいいのか、と言えばそんなことはないでしょう。

奨学金のことをきちんと理解していない学生が入っている以上はしかるべき対応が求められます。

奨学金事務における学校事務での取り組みの好事例

奨学金延滞問題は、大学の責任だけでもなく、学生個人の責任だけでもありません。偏差値だけでもなく、入学金だけでもなく、定員割れ状況だけでも、就職状況だけでもありません。様々な要素が絡み合っての結果、と今回、ランキングを作成して強く感じました。

JASSO、あるいは、教育無償化などを議論するのはそれはそれで構いません。が、そうした課題解決までに時間のかかる話とは別に、目の前の問題、それも解決可能な細かいことでできることは何か、ぜひ、大学関係者にはお考えいただきたい次第です。(石渡嶺司)