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Youtuber起用で大学広報は変わるか

石渡嶺司大学ジャーナリスト
人気Youtuberヒカルさんの動画から。左がヒカルさん、右はラファエルさん

Youtubeは大学広報の手段の一つに

大学冬の時代と言われる中、大学の宣伝方法は多様化。その方法の一つとしてYoutubeが使われています。

Youtubeの大学利用自体はそう目新しいものではありません。すでに多くの大学が利用をしています。

たとえば、大阪経済大学は227本、東京経済大学は191本、国立の神戸大学は146本の動画を掲載(いずれも2017年5月7日現在)。

岐阜聖徳学園大学は系列の小中高のものも含めると772本もありました。

他の大学でも、数本掲載の大学や、学科ないしゼミ単位での掲載となると、相当数にのぼるもの、と見られます。

Youtubeの利用、と言われても、何を今さら、という大学関係者が大半でしょう。

では、有名Youtuberが大学PRに関わる形で登場した動画はこれまでにあるでしょうか?

人気Youtuberヒカルの動画に山野美容芸術短大、登場

今年4月24日、人気Youtuberのヒカルさんの動画として、「大学に潜入?現役の生徒に混じってラファエルと授業受けてみた」が公開されました。

ヒカルさんは、人気Youtuberであり、4月には地元の祭りのくじを約15万円購入。当たりがないことを明らかにして屋台店主を問い詰める動画を公開。2017年5月7日現在、約1200万回再生を突破。

普段の動画(毎日更新されています)でも、毎回100万回以上は再生回数が突破するほど人気を集めています。

動画に登場している、もう一人のYoutuberは、ラファエルさん(仮面をかぶっている方)です。

元自衛官で矢を素手で止めるなど体を張った動画が特徴。こちらも人気です。付言しますと、私はヒカルさん、ラファエルさん、両方ともYoutubeでのチャンネル登録をするほど好きです。

このお二人が山野美容芸術短大を紹介する動画を公開されたのですから、時代も変わったな、と感嘆した次第です。

動画の推定費用、宣伝効果は?

動画では「依頼が来まして大学をPRしてほしい、と」とあります。

これはYoutuberのいわゆる企業案件。つまり、この動画だと山野美容芸術短大側がYoutuber(またはその事務所)に費用を払いPR動画を作って公開、というものと推定されます。

その費用ですが、動画の中でラファエルさんが「僕、案件代500万なんで」というくだりが終盤に出てきます。

別の動画ではヒカルさんが3,4月は

「僕はYoutubeだけで月4000万~5000万くらいは3月、4月、両方稼ぎました。企業案件と広告収入だけでね」

とコメントしています。

さらにラファエルさんの動画ではラファエルさんがヒカルさん(と思しきイラストを提示)の企業案件数について4月は8本としています。

企業案件の料金が1本500万円とすれば、ヒカルさんのコメントとほぼ符合します。

まあ、安くても300万円程度。高ければ500万円より上というところでしょうか。

山野美容芸術短大の動画にはヒカルさん、ラファエルさんの2人が出ているので単純に考えれば500万円の2人分で1000万円!

さて、500万円なのか、1000万円なのか(それとも企業案件ではなく、無料出演だったか)、わかりません。

そこはおくとして、ですね。

今後、別の大学が有名Youtuberに500万円払って動画を公開したとして、どれくらい効果が見込めるのでしょうか。

今回、ヒカルさんの動画に出た(あるいは依頼した)山野美容芸術短大を例に考えます。

動画公開が4月24日。そこから2週間経過した5月7日現在、閲覧PV数は188万8000回。

視聴者の大半が高校生以下であることが推測されますが、それを考えれば宣伝効果は大きかったと言えるでしょう。

他の広告媒体と比較してみた

では、この有名Youtuberによる動画での宣伝が500万円だったとして(実際は動画製作料やYoutuberの知名度などでも前後します)。

500万円という金額が大学の他の広告に比べてどうか、まとめてみました。

新宿アルタビジョン…360万円(15秒を1時間につき4回・30日)

読売新聞(全国版)…928万円(5段1/2)

週刊ダイヤモンド…130万円(4色1ページ)

・ムックのカスタム出版…推定1000万円程度

・合同進学会イベントのブース出展料…10万円~50万円(推定)

・進学情報雑誌…50万円~100万円(推定)

・野球場の内野フェンス広告…800万円~2000万円(推定)

日本テレビ(関東ローカルCM)…40万円~75万円(15秒)

※いずれも製作費は別。TVCMは一定期間、出稿することが条件。

こうしてみると、どれもいい金額ですね。

一長一短ですが、有名Youtuberの案件代500万円~1000万円という金額、100万回再生以上行くのであれば、それほど高い金額、というわけでもないようです。

Youtuber起用の落とし穴は?

大学教職員に山野美容芸術短大の動画を見せたうえで、有名Youtuberによる動画製作について聞くと賛否が分かれました。

肯定派は、案件代が500万円でも1000万円でも安い、とのこと。

「交通広告などは受験生などに届くか、と言えば微妙なところ。進学情報雑誌もリクルート、マイナビ、河合塾など大手・中小が乱立しており効果がどれほどかわからない。要するにどの手法も手詰まり感がある。そんな中、Youtuber起用は妙手。高校生以下のユーザーがよく見ているのであれば効果も期待できる。他大学がやっていないなら、うちもやってみたい」

一方、炎上リスクなどから時期尚早とする否定論も多くありました。

「面白そうなんですが、頭の固い教授会を説得する手間を考えると、うちでは無理そうです…」

「Youtuberって、炎上リスクで面白動画を作っていく人たちですよね?うちの動画で問題なくても、他の動画で炎上した場合、うちにもとばっちりが来そう。そのリスクを考えると500万円は高すぎる」

炎上リスクですが、そこは否定できません。

炎上リスクを抑えつつ、宣伝効果を上げるとしたら、その大学が宣伝したい学部や内容に合っていそうなYoutuberを起用することでしょう。

たとえば、外国語学部・グローバル系学部なら、吉田ちかさん(バイリンガールちか)、あるいは、大学生らしさを出したいのであれば、水溜りボンドさん。水溜りボンドさんなどなど。

宣伝効果を考えれば、Youtuber起用に踏み切る大学があったとしても不思議ではない、と私は考えます。

近未来にはYoutube入試も?

単発の動画1本で500万円が高い、ということであれば、いっそ、Youtuberを自前で養成する、という方法もあります。

まず、Youtube型AO入試とでも題して、入試の条件として動画を作成させ、これぞ、という受験生には合格を出します。

授業料を免除する代わりに、大学広報に関連する動画を定期的に公開することを義務付ける、と。

もちろん、実施している大学はありませんが、これ、全くの絵空事、ではありません。

まず、大学広報のYoutube自体、学生の広報スタッフが関わっている大学は相当数あります。

冒頭で挙げた大学だと東京経済大学は「東京経済大学の広報課に所属する学生記者が撮影、編集した動画を公開しています」としています。

それから、授業料相当額の奨学金を給付(返済義務なし)、代わりに大学広報に従事させる大学は国立の電気通信大学などいくつもあります。

この2つにAO入試を組み合わせるだけです。

大学広報のツール、それから入試の審査基準にYoutubeが加わるだけですから、実現に至るハードルはそれほど高くありません。

もっとも、有名Youtuberと違い、それほど宣伝効果は期待できない可能性があります。

再生回数が増えて宣伝効果があればあったで、Youtuberの学生がプライベートで相当な制約を受けそうです。

実際、過去に学生Youtuberが人気の高さの反動で自宅に視聴者が押しかけるなどのトラブルが発生しています。

当然ながら、それが大学教育としていいのか、という議論も出てきます。

まあ、Youtuberになろうとしているのであれば、そういうトラブルも織り込み済みだろうから、知名度が上がったスポーツ選手などと同じで学生本人次第、という議論もありそうですが。

それにしても、大学広報にYoutube、そしてYoutuberも入り込む時代となったわけです。

果たしてYoutuberの大学広報案件が大当たりするか、それとも大炎上するのか、今後に注目です。(石渡嶺司)

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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