「懲役40年」と「死んだ目」のあいだにあるもの~就活生と新社会人は自転車を思い出そう

就活セミナーに参加する学生。新社会人も就活生も不安感は大きい

入社式の日、「懲役40年」がトレンドワードに

4月1日から本日3日にかけて、入社式が各社で開催されました。

新社会人はこれから長い社会人生活が続くことになります。

これを揶揄した、「懲役40年」がTwitterのトレンドとなりました。

Yahoo!でも一時は上位に
Yahoo!でも一時は上位に

最初は、うまい表現だなあ、と。新社会人の不安をうまくまとめているからこそ、トレンドになったのでしょう。

Twitterやネットでは、「本当に懲役みたいなもの」という肯定論から、「いや、社会人、楽しいよ」「懲役なんてセンスが悪い」などの否定論。あるいは、「懲役40年ではなく50年」「そんなに一か所に長く勤められるか」「フリーの方が大変」「社会人生活が苦痛」というキャリア論まで様々な反応が出ています。

一応、ここでは「懲役」=社会人生活全般(企業、公務員だけでなくフリーランスも含む)とします。

西日本新聞「死んだ目」コラムにも通じる不安感

この「懲役40年」が話題になったのが4月3日。その少し前、3月29日にYahoo!ニュースにも配信された西日本新聞経済電子版のコラムも話題になっていました。

【学生の刺さった一言】「ブースにいた社員の目、死んでたよ」

会社説明会を回って、どの会社がいいか話す学生グループ。

自己資本比率の高いところ、事業内容などで盛り上がる中、グループの1人が鋭い発言をします。

西日本新聞経済電子版コラム。なかなか読ませる名コラム
西日本新聞経済電子版コラム。なかなか読ませる名コラム

これまで黙って聞いていた1人が、話の流れをひっくり返すような発言をした。

「俺はその会社の社員の顔を見るね。さっきブースにいた社員の目、死んでたよ」

 彼は会社説明会の様子を振り返っていたようだ。複数の企業が集まる合同説明会だったらしく、三つか四つ企業の出展ブースを回り、社員たちから話を聞いたようだ。

 「あの顔、もう完全に疲れ切ってたね。ブラックって顔に書いてあった。あんなとこ入ったら、俺も将来、死んだ目になるかも…」

雄弁に語っていた3人を含め、全員が黙り込んだ。

(中略)

4人の男性は、それから誰も笑わなくなった。これから自身に降りかかってくるかもしれない大きな不安に覆われていたようにも見えた。

「懲役40年」「死んだ目」どちらも背景は新社会人の不安感

「懲役40年」と「死んだ目」コラム、方向性はやや違うかもしれません。

が、どちらにも共通して言えるのは、学生・新社会人の社会に対する不安感です。

もともと、新社会人が社会に出るときはいつの時代でも誰でも不安です。

そこに現代はネット社会。昨今では、ブラック企業がどうこう、ブラック研修がどうこう、社畜がどうこう、とネガティブな情報はいくらでも出てきます。

もちろん、法律論・制度論などをまとめたものなどは、何かあった時のセーフティネットとして機能します。

それでも氾濫する情報には新社会人が不安感を増幅させるに十分、と指摘せざるを得ません。

「自転車嫌い」と同じ構造

この社会人生活への不安感に対して、

「社会人は楽しい」

「フリーランスに比べれば、企業勤務はまだまし」

と、呼びかけても(その論が正しくても)、新社会人や学生の心にはなかなか響かないでしょう。

不安感に対して、「フリーランスよりは、まし」と論じても、フリーランスも企業勤務もイメージでしか考えられないのですから響かないのも無理ありません。

私は、学生・新社会人の不安感は、彼らが子どもだった時点の出来事と同じ構造、と見ています。

それは、他でもない自転車です。

自転車の練習をする子ども。就活も社会人生活も基本は同じ
自転車の練習をする子ども。就活も社会人生活も基本は同じ

学生や社会人で自転車に乗れない人はそうそういません。

では、学生や社会人が子どものとき、それが4歳かもしれませんし、6歳かもしれない、7歳だったかもしれませんが、最初から自転車に乗れたでしょうか?

私は確か6歳のとき、何度も転んで、何度も泣いて、何度も怒られて、そのうちに乗れるようになっていました。

読者の方も、それが4歳なのか、5歳なのか、7歳なのか、年齢に若干の違いがあるだけで、基本は同じ。最初から乗れる人はそうそういなかったはずです。

さて、自転車に乗れなかった子どもは、乗れない時点であれこれ言うわけです。

「無理に自転車に乗らなくていい」

「乗る方が危ない」

とか、なんとか。

でも、それって、単に乗れないから負け惜しみで言っているだけ。子どものころから理屈っぽい私も、似たようなことを話していた覚えがあります。

が、乗れるようになると、「乗る方が危ない」と言っていた口で今度は遠出するように。

学生や新社会人が就活や社会人生活に対する不安感と構造が同じ、と思うのは私だけでしょうか。

自転車と同じ、案外慣れるのが社会人生活

子どもの自転車と構造は同じ、とお伝えしましたが、もっと言えば、学生や新社会人のほとんどは自転車に乗ることができます。

自転車だけではありません。幼稚園、小学校、中学校、高校、あるいは大学と新たな環境での新たな生活は、最初からすべてが順調だったでしょうか。最初はうまく行かなかった、馴染めなかった、という人もいるはず。

それでも、結果的には程度の差こそあれ、順調に行ったからこそ、就活を迎え、あるいは新社会人となっているわけです。

一言でまとめれば、自転車も含めて、大半の学生・新社会人は、乗り越えた経験があるのです。

乗り越えた経験のある人が今度は社会人生活を迎えるわけです。ここで、

「自転車や小中学校のような気楽な世界と社会人は違う」

とする、異論があることは認めます。

ですが、繰り返しますが、構造は同じです。

最初からうまく行かず、何度も失敗して、何度も泣いて。気が付いたらうまく行くようになる。そうした構造は全く同じです。

どうか、就活中の学生や新社会人には、法律論とかブラック企業・研修とか社畜とか、そういうのを抜かせば、基本的には失敗を前提としてください。失敗を繰り返していくうちにうまくいくのではないかな、と思うのです。

失敗したら恥ずかしい?

大丈夫、先輩社会人も、ほぼ全員、自転車に最初から乗れたわけではありません。何度も転んで、何度も泣いて。

その繰り返しがある、と分かっているからこそ、失敗も含めて認めてくれるはず。

臆することなく、就活、あるいは社会人生活を迎えてください。(石渡嶺司)

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。2018年は肩書によるものか、バイキング、ひるおびなどテレビ出演が急増。ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。主な著書に『大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ)『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)『女子学生はなぜ就活に騙されるのか』(朝日新書)など累計30冊・62万部。2021年1月に『就活のワナ』(講談社プラスアルファ新書)を刊行。

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