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自民党赤枝議員「進学してもキャバクラ」発言と千田有紀教授の関連記事に寄せて

石渡嶺司大学ジャーナリスト

自民党赤枝議員が「女の子は進学してもキャバクラ」と発言

わざわざ言わんでも、という発言が飛び出てしまいました。

「進学しても女の子はキャバクラへ」自民・赤枝氏発言

自民党の赤枝恒雄衆院議員(72)=比例東京=が12日、子どもの貧困対策を推進する超党派による議員連盟の会合で、貧困の背景について「親に言われて仕方なく進学しても女の子はキャバクラに行く」などと述べた。

会合では支援団体の代表や児童養護施設出身の大学生が奨学金制度の拡充を求め、それに対する質疑応答の冒頭で発言した。

要望に対し、赤枝氏は

「がっかりした。高校や大学は自分の責任で行くものだ」

という趣旨の主張をした。

その上で

「とりあえず中学を卒業した子どもたちは仕方なく親が行けってんで通信(課程)に行き、やっぱりだめで女の子はキャバクラ行ったりとか」

と話し、望まない妊娠をして離婚し、元夫側から養育費を受けられず貧困になると持論を展開。

義務教育について

「しっかりやれば貧困はありえないと言いたいくらい大事」

と強調した。

赤枝氏は2012年に比例単独で初当選し、現在2期目。

産婦人科医で、会合終了後の取材に

「街角相談室でいろんな子どもの話を聞いてきた。子どもが十分教育を終えるまでは国が手厚く援助しないといけないが、高校も大学もみんなが援助するのは間違っている」

と説明した。

会合では、子どもの貧困問題に取り組む公益財団法人「あすのば」の代表らが、大学進学を目指す学生への無利子奨学金の拡充などを要望。

児童養護施設出身の大学生も「誰でも平等に進学できる社会を」などと訴えていた。(伊藤舞虹)

朝日新聞デジタル4月12日(火)20時27分配信

「通信制でキャバクラ」って、無理あるキャリア

赤枝議員のコメント、現在の中高生のキャリアとはかなりかけ離れたものです。

とりあえず中学を卒業した子どもたちは仕方なく親が行けってんで通信(課程)に行き

学校基本調査(平成27年度)によると、2015年の中学校卒業者は117万4529人。

このうち、高等学校普通科など本科への進学者は113万4037人。

通信制は2万3353人しかいません。

普通科にも商業科など専門科にも、そこそこいますけどね、「親に行けと言われたから」という生徒。

それを通信制に限定する根拠が不明です。

やっぱりだめで女の子はキャバクラ行ったりとか

どの時点で働くかは不明ですが、高校在学中ということでしょうか。

風俗営業法は18歳未満の労働を禁じています。

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律

(禁止行為)

第二十二条  風俗営業を営む者は、次に掲げる行為をしてはならない。

三  営業所で、十八歳未満の者に客の接待をさせ、又は客の相手となつてダンスをさせること。

違法なキャバクラで働かざるを得ない現状があってそれを変えるべき云々という趣旨の発言ならわからなくもないですが……。

義務教育について「しっかりやれば貧困はありえないと言いたいくらい大事」

中卒でも高年収の就職先があって「貧困はありえない」ということでしょうか。

平成27年賃金構造基本統計調査によると、

男性では、大学・大学院卒が402.5千円(前年比1.5%増)、高専・

短大卒が308.8千円(同1.6%増)、高校卒が288.2千円(同0.5%増)、女性では、大学・大学院卒が287.8千円(同1.1%増)、高専・短大卒が252.5千円(同1.4%増)、高校卒が207.7千円(同1.0%増)となっており、

となっています。

中卒は、なぜか「学歴別」の項目にはありませんが、統計表にはあり、

男性26万1900円、女性18万1000円

となっています。

これほどの格差が大卒と中卒にはあるわけですが、「しっかりやれば貧困はありえない」と言い切る根拠は何なんでしょうか?

民主党もとい民進党や野党だけでなく、政府・自民党・公明党も、高等教育支援の拡充をどうするか議論していこう、というときにこういう発言をされてしまうのは、残念です。

赤枝議員と「呆れた」記事の千田教授、趣旨は同じ

この赤枝議員発言、Yahoo!個人でも、誰か先に記事を書くだろうな、と思っていたら、千田有紀・武蔵大教授でした。

児童擁護施設出身大学生の要望に「進学は自己責任」「女の子はキャバクラに行く」という赤枝議員発言の意味

この発言には何重にも呆れる。

と、お怒りのご様子。

確かに赤枝議員の発言は軽率です。

が、この赤枝議員の発言の中で、

「がっかりした。高校や大学は自分の責任で行くものだ」

これ、千田教授の記事

「大学というブラックビジネス 人生のスタートから借金漬けになる学生たち」

のこの部分と、どう異なるのでしょうか。

これほどの借金を背負ってまで行く価値のあるものかと問われると、歯切れは悪くならざるを得ない。(中略)大学を出たからと言って、職があるという保証もない。この奨学金は、運よく一流企業に就職できたならば返還できる額だろうが、そうでなかった場合には、マイナスからのスタートである。'''まさに博打としか言いようがない。

'''

奨学金批判をして、大学進学の価値について、

「歯切れは悪くならざるを得ない」

「まさに博打としか言いようがない」

とコメントされています。

まして、記事タイトルが

「大学というブラックビジネス」。

これ、赤枝議員の、

「高校や大学は自分の責任で行くものだ」

とどう異なるのでしょうか。

根本は違うかもしれないけど、高校生に悪影響は同じ

千田教授としては、赤枝議員と同列に論じられることはご不快か、とは思います。

一応、千田教授の名誉のために付言しておけば、高等教育支援では赤枝議員と千田教授は根本から異なります。

赤枝議員は、

「高校も大学もみんなが援助するのは間違っている」

と、高等教育支援の拡充には否定的です。

一方、千田教授は、Yahoo!個人記事「私が大学教授を辞めない理由 奨学金制度を批判する自由と義務」でこう書かれています。

奨学金や授業料そのものを批判していたのですらない(大学が授業料をとること自体は、批判できないだろう)。そういった「状況」がもたらされる社会のシステム、制度構築のありかたについて考察していたつもりなのだが。

根本は大きく異なりますね。

千田教授の以降の記事も含めて、ざっくりまとめれば、

赤枝議員は、

「高校や大学に行くのは生徒の自己責任。それを国が援助するのは間違っている」

千田教授は、

「奨学金をめぐる現状はおかしい。だから、高等教育支援をもっと拡充すべき」

というところでしょうか。

高等教育支援拡充政策の前に高校生はどうすればいい?

私も高等教育支援の拡充については賛成です。

奨学金についても、日本学生支援機構の現状が素晴らしくて、変える必要が全くない、とは思いません。

ですが、千田教授をはじめ、奨学金批判論者の問題点は、過剰なまでのバッシングが高校生とその親に悪影響を及ぼしていることです。

高校生やその親からすれば、高等教育支援の拡充という政策自体には賛成するでしょう。

が、いつ実現するか分からない政策よりも、自分自身(もしくは我が子)の進学をどうするか、そちらの方が重要です。

その高校生とその親からすればどうなんでしょうか?

奨学金への過剰なバッシングから、大学がブラックビジネスとまで言い切り、進学の是非について、

「歯切れは悪くならざるを得ない」

「まさに博打としか言いようがない」

と、言われたら、どう思うでしょうか。

博打とまで言い切るのと、「自分の責任で行くもの」。

高校生からすれば、同列としか思えないですよ。そんなの。それで、

「だったら、博打を打つほど責任を持てないから、大学進学はやめよう」

と考えてもおかしくはないのでは?

奨学金を借りてでも大学進学は価値あるもの

そこまで言うなら、お前はどうか、と言われるでしょう。

私の回答は単純です。

'''「奨学金を借りてでも、大学進学は博打などではなく価値がある」

「奨学金を借りずに、高卒就職や専門学校進学をする方が、貧困に陥る可能性が高い」

「就職は、大企業でなくても、高年収のところはいくらでもあり、きちんと返済できていく」'''

詳しくは、以前の記事をどうぞ。

新入学予定者が知っておきたい奨学金の「大誤解」~利子比較から就職の話まで

大学進学の是非については、こんな冷静な記事も出てくるようになりました。

行くべきか、行かざるべきか、それが問題だ:高等教育進学か?就職か?(古谷有希子)

とはいえ、こういう冷静な記事はまだ少数派です。

奨学金への過剰なバッシングから、大学進学を躊躇する高校生に悪影響が出ていることを千田教授などの批判論者は理解されていません。

では、奨学金をどの程度、借りて、どの程度の就職先なら返済可能か。

実はそのデータをいま揃えて準備中です。

これについてはもう少々お待ちください。

私は、今後も、奨学金の是非についても、大学進学の価値についても、感情論だけでなく、データも含めて、高校生はじめ読者の参考になるよう、記事を書いていく予定です。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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