センター試験で替え玉受験は可能か?
試験と言えばカンニングに替え玉がつきものですが……
中国・隋の時代から始まった科挙制度(官僚登用試験)。
合格すれば出世が約束されたということもあり、当時からカンニングや替え玉受験が横行していました。
以降、試験と言えばカンニングや替え玉がつきもの、となります。
というわけで今回は、センター試験で替え玉受験が可能かどうか、まとめてみました。
なお、言うまでもなく、私は替え玉受験を非難するものであります。
当記事も、替え玉受験を勧めるものではないので、念のため。
10年間の不正は65件・67人
時代は下って、現代日本。
大学入試センターによると、2006年から2015年までの間に起きた不正行為は65件・67人。うち、替え玉受験は2件あったとのこと。
替え玉受験がばれるとどうなる?
これまでの事例から考えると、センター試験の場合、本人と替え玉役は、該当科目だけでなく、受験科目すべてが得点ゼロとなります。
事実上、国公立大や私立大センター試験利用入試への出願ができなくなります。
さらに悪質な場合、本人や関係者が有印私文書偽造罪などで起訴される、替え玉役が大学生の場合は所属大学が退学ないし停学処分、となります。
センター試験以外での替え玉事件は、発覚したものでは、以下のものがあります。
1975年 津田塾大事件
女装してばれない、という発想がまず驚きです。
津田塾、当時は2日間受験だったのか…。
1991年明治大事件
去年、「しくじり先生」に出演したときにも話していた、なべやかんの、替え玉受験事件。
芸能人の息子がかかわった、ということで、当時、父子と明治大がかなりバッシングされていました。
この事件では、替え玉受験を主導した野球部監督、相撲部監督、職員が逮捕されています。
また、替え玉役となった学生は起訴猶予となったものの、各大学で処分され、12人中、8人が退学処分、4人が停学処分となっています。
なべおさみは、当時、人気の俳優・コメディアンでしたが、この事件の責任を取る形でワイドショーを降板。
なべやかんは、事件後に見かねたビートたけしが、たけし軍団入りを勧め、入団。
その際、替え玉受験先が商学部2部、つまり、夜間学部ということもあり、それにひっかけて「なべやかん」という芸名になりました。
2009年中央大理工学部事件
合成写真という新手が飛び出したのが、この事件。
受験時は判明しなくても、その後に判明するのは、やはり、合成写真では無理がある、ということでしょう。
替え玉受験防止は二重三重に
ここまで替え玉受験の過去を見てきましたが、では、替え玉受験は可能でしょうか?
結論から言えば、かなり難しいでしょう。
まず、受験申込の時点で顔写真が必要となります。
眼鏡をかければ印象が変わる、と思うかもしれませんが、その分、試験監督のチェックが厳しくなります。
大学入試センターのQA集にはこうあります。
試験時間中に眼鏡をかけるのですが,受験票・写真票に貼る写真は眼鏡をかけずに撮ってしまいました。この写真を貼ってもいいですか。
→監督者が受験者の顔を確認する際に確認が難しくなりますので,写真を撮り直して,眼鏡をかけた写真を貼ってください。
普段はコンタクトレンズを使用していますが,試験当日に眼の具合が悪い場合は眼鏡をかけて受験します。その場合,受験票・写真票に貼る写真はどちらの写真にすればいいですか。
→試験時間中に眼鏡をかけない予定であれば,受験票・写真票には,眼鏡をかけていない写真を貼ってください。なお,試験当日に急きょ,眼鏡をかけて受験する場合には,本人確認のため監督者から一時的に眼鏡を外すよう指示されることがあります。
受験票を試験当日、無くした、と言い張ってもこれはこれでチェックされます。
やはり、大学入試センターのQA集から。
【1月10日から試験当日まで】
再発行した受験票が,試験前日までに届かないおそれがありますので,試験当日は仮受験票で受験してもらいます。そのため,試験当日は,学生証又は身分証明書と写真(縦4cm×横3cm)3枚を持参し1時間ぐらい早めに試験場に行き,試験場本部で「仮受験票」の発行,「受験票」の再発行の手続をしてください。
なお,受験番号,試験場コード,試験場名及び道順については,志願者問い合わせ専用電話(03-3465-8600)に問い合わせてください。
中央大理工学部事件のように、合成写真を学生証や身分証に使う、という手もあるかもしれません。
それで仮に替え玉受験が成功したとしても、今度は入学手続き、という関門が待ち受けます。
どの大学でも2次試験入試の受験票(こちらも写真添付)とセンター試験の受験票、両方の提示が求められます。
おそらく、中央大理工学部事件のときは、ここで判明したのではないでしょうか。
このように、替え玉受験は、受験生が思っている以上に、二重三重にチェックされています。
替え玉受験に成功しても入学後にばれる?
仮に、そこまでやって、替え玉受験にも入学手続きにも成功したとしましょう。
問題はそのあと。
入学してから、卒業するまで、塞げないのが周囲の学生・教員の疑問、それから本人の口と手です。
入学すれば、受験の話にもなるでしょうし、その際、話が合わないと、
「あいつ、ちょっとおかしい」
となります。
さらに、大学教員だと、レポートなどから答案の筆跡を観察する機会はいくらでもあります。
替え玉自体には成功しても、筆跡まで変えることはほぼ不可能。
まして、あまりにも違い過ぎれば、
「これはもしかして」
と、教員側が考えてもおかしくはありません。
意外なところでは、「本人の口」。
うっかり、犯罪自慢のついでに話してしまい、そこから、どう漏れるかはいうまでもありません。
卒業間際でも容赦なく退学
今から50年前の1965年刊行で『カンニングの研究』(徳永清、光文社)という本があります。
著者は明治学院大学生課長で、自称・カンニング研究者。
著者の調査によると、当時の学生の81.6%がカンニングをしていた、とあります。このあたり、かなりツッコミどころがあるのでおくとしますが、替え玉受験についてはこんな事例を掲載していました。
ある学生(榎本君)が就職に必要な書類作成を教務課に依頼すると、期日までにできていません。その抗議の様子を見た教員がその場をとりなして学生を帰らせ、職員に話を聞くと……
教務職員が書類の束をかかえて、相談に来た。
榎本君の生年月日が、おかしい、というのだ。
戸籍抄本と在学証書の、その日付が一日ちがっている。
「なるほど、おかしいね。でも、この場合は、客観的に、戸籍抄本のほうが、ものをいうだろうね……。」
そう言いながら、戸籍抄本にくっついてとじてある入学願書の写真を見て、
「あっ!」
と驚いた。ちがうんだ。
この写真の人物は、榎本君ではない。
似ているところもあるが、どうも違う。
もう一度、はじめから、綿密な調査が行われた。
当時の入学試験の答案の筆跡と、入学後の答案の筆跡が、明らかにちがうという鑑定の結果も出た。
この重大問題を、どう処理するかの、緊急臨時教授会が招集されることになって、あわただしく速達や電報が出された。
二日後に、会社と話をつけてきたらしい榎本君が、意気揚々と、教務部の窓口に現れた。
「証明書、できましたか。」
しかし、彼が連れていかれたのは、部長室だった。
「榎本君ですね。」
「はい。」
「これを見てください。」
部屋のなかのただならぬ空気を察して、榎本君の目に、ちらっと不安な影が走った。
教務部長の机の上にならべられた写真や答案の証拠を見て、榎本君は、一瞬、息をのんで、棒のようになった。
ついで、さあっと、顔色が青ざめていくのが、はっきりわかった……。
「………」
しばらくは、ぴーんと張りつめた、重く、堅い時間が流れた。
やがて、その空気を裂くように榎本君のふりしぼるような、うつろな声が聞こえた。
「おそれいりました。」
「………」
大盗賊が縛につくようなせりふだが、その時代がかった表現は、この場面にいちばんふさわしいものに思えた。
※引用はいずれも『カンニングの研究』より
なんだか、池井戸潤の小説にでも出てきそうな、緊迫したシーンです。この榎本君、いとこの「東×大生」に依頼したとのこと。
どう考えても、東大ですね。
結果、彼は卒業・就職を目前に控えながら、退学という処分を受けることになりました。
どうしても替え玉受験をしたい?
替え玉受験が在学中に判明した場合は、この50年前と同じく、退学処分が待っていることでしょう。
大学の期末試験でちょっとカンニングしようとした、という話ならまだ停学処分で踏みとどまる可能性もありますが、替え玉となると、温情論はなかなか通用しません。
それでも、どうしても替え玉受験をしたい、という受験生へ。
条件としては、
・替え玉、本人とも、替え玉受験の話を墓場に持っていけるほど口が堅い
・本人と替え玉がよく似ている
・年には念を、ということで本人と替え玉の合成写真を作成する
・筆跡鑑定をしてもばれないほど、筆跡を似せるように練習しておく
という4条件が必須となります。
まあ、この条件に当てはまる替え玉を探すのはほぼ不可能。
こんなバカなことを考えるくらいなら、英単語の一つでも覚えた方がまだ合格する確率が上がるってなものです。
替え玉受験やカンニングは、その労力の割に効果がありません。
最後はトルストイの言葉で締めるとしましょう。
知識は
記憶力によってではなく
自分の思想上の努力によって
獲得されたときにのみ
知識でありうる。
付記
センター試験については、
センター試験はトイレも行けない?~センター試験のトラブル、クレーム対応を考える
大学関連については、
「Fの悲劇」記事への反論~Fランク大学ってそんなにダメですか?
なども合わせてお読みいただければ幸いです。