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進路相談22・医療系学部の新設校の見分け方はある?

石渡嶺司大学ジャーナリスト

質問:医療系学部で新設が相次いでいますが、見分け方などはありますか?

大学経営がぱっとしない近年、受験生集めの切り札が医療系・看護系学部です。

これさえ作っておけば、定員割れ大学もあら不思議、地域の人気大学に早変わり。こいつはいいや、どんどん作ってしまえ、ということで医療系学部、看護系学部が異様なまでに増殖中です。

困るのは高校生、そして進路指導をする高校の先生方です。

何しろ、どこが良くてどこが悪いのか、実にわかりづらい。

そこで、

「まさか医療系学部、看護系学部であれば大外れはないだろうからどこでもいい」

「新設大学は全部信用ならん。生徒に行かせるのは伝統校だけ」

など極端に走りがちとなってしまいます。

ポイントは前身を含めた伝統と実習先、そして入学者数です。

言うまでもないことですが、医療系学部は医療関連職を養成する学部。

看護系学部は看護師を養成する学部です。

医療関連職、看護師を養成するためには病院での実習が欠かせません。

しかし、仮に病院での実習先が足りなかった場合、少ない実習先を多数の学生で分け合うことになります。

となると、本来受けられるはずの教育を十分に受けられません。

そのしわ寄せは国家試験受験にも影響するでしょうし、仮に合格・就職できても、今度は仕事がうまく行かずに早期退職してしまう可能性まではらんでいます。

医療系・看護系学部は10年で100校以上、急増していますのでこの実習先を確保できない、という問題は高校生・高校教員の想定以上に深刻な問題です。

この実習先の確保問題、伝統校(ほとんどは医大の併設)であれば問題ありません。何しろ、同じ大学の病院に行くだけなのですから。

ややこしいのは新設大学です。しかし、大学のホームページで「沿革」「特色・ポイント」「実習先」などを見ていけばわかります。

新設校であっても、前身がしっかりしたところや実習先をきちんと確保した大学であれば、そのことをきちんと書いています。

たとえば、2014年新設の京都看護大。

前身は58年の歴史と伝統を持つ京都市立看護短期大で、京都市立病院のすぐ隣がキャンパスです。

一度は佛教大に統合されることが決まり、その後撤回、と迷走はしましたが、実習先は短大時代と変わらずに確保されています。

もう一校、九州栄養福祉大リハビリテーション学部もご紹介しましょう。

こちらも設立は2011年。

前身は1966年設立の九州リハビリテーション大学校。

当時は国立病院だった九州労災病院の附属専門学校でした。

長い期間にわたって、リハビリテーション教育を担ってきたわけで、実習先は専門学校時代と同じく九州労災病院ですし、大学OBOGも多数存在します。

このように同じ新設校でも、伝統とそれにともなう実習先の有無、これは大きく分かれます。

そして、3点目の入学者数。大学は入学者等について情報公開をするよう義務付けられました。

大学のホームページを見れば、どこかに「情報公開」という項目があり、そこに掲載されているはずです。

ここで注目すべき点が入学者数。

少ないとダメな大学?定員割れだとダメな大学?

いえ、そうではありません。

ま、確かにずっと定員割れが続いている大学(しかも医療系学部、看護系学部で!)は、それはそれで問題です。

問題があるからこそ、定員割れが続いているのでしょうし。

ただし、定員充足率90%台であれば、それほど目くじら立てる話でもありません。

たとえば、定員100人の看護学部の場合、100人に合格を出して5人が辞退すればそれだけで定員充足率95%になってしまいます。

むしろ、気にした方がいいのは定員超過。

看護系学部はどこも人気ですし、そこそこの倍率になります。

と言って合格者数を出しすぎて入学者数が定員を大きく超えると、十分な教育が受けられません。

文部科学省の「設置計画履行状況等調査の結果等について」(アフターケア)というものがあります。

新設大学がその後、どんな状況か調べて、不十分な点があれば公表しています。

平成25年度版(2014年2月12日公表)には、医療系・看護系大学がちょこちょこ登場します。

日本保健医療大学:開設以降、入学定員100名に対し、毎年大幅に超える129名を入学させており、教育環境の悪化が懸念される(中略)平成26年度入学者については110名を目指すとのことであるが、入学定員100名に対して誤った認識である。

帝京平成大:実習について、特に3年後期と4年前期に期間が集中していること、及び保健師、助産師の実習も加わることから、講義を担当している期間に実習を担当する教員の研究時間の確保や実習の質に支障が生じないよう(以下略)

中部大:定員超過傾向が著しい

宝塚大:開設以降、入学定員を大幅に超える(看護学科)

日本保健医療大に対してはかなり厳しく指摘、はっきり言えばキレています。

大学も大学で2014年の新入生は116人。ケンカするのは勝手ですが、ちゃんと教育してくれるかどうか。

この定員超過問題、かなり教育に影響します。

伝統校であれば、どこまで合格を出して入学者を調整するか、考えられるのですが、新設校は難しいところ。

オープンキャンパスなどで確認することをお勧めします。

※『時間と学費をムダにしない大学選び2016』(中央公論新社)より引用、一部改変

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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