国際教養大があれこれけなされている件

グローバル大学ということでずっと注目されてきているのが、秋田の国際教養大です。

入学後1年間の寮生活と1年間の留学が必須、外国人教員が約55%など、グローバルな人材を育成する教育を展開。

2004年の開学ながら、総合商社や大手メーカーなどに人材を輩出する大学となっています。

2014年には、「スーパーグローバル大学」に採択されました。同大以外に採択されたのは37校。一橋大、神戸大、同志社大などの伝統校も落選する中での採択ですから、それだけグローバル教育が評価されてのことです。

この国際教養大がここ数年、ネット上ではあれこれと非難されているようです。一部の専門家もこれに同調し、講演先の高校でも

「秋田の国際教養大、大丈夫なの?」

との話も出るように。

せっかくの機会なので検証してみました。

●その1:受験生が激減している!

2011年:2249人

2012年:1965人

2013年:1971人

2014年:1409人

2015年:1362人

※人数はいずれも一般入試・4月入学の志願者数の合計

なるほど、2011年の2249人からすれば、志願者数・倍率は落ちています。

しかし、2011年前後、国際教養大は多くのメディアで取り上げられていた時期。

その過熱報道が落ち着けば、志願者数が減るのも無理ないところ。開学1年目の2004年こそ1436人でしたが、その後、緩やかに減少し、2008年には797人まで落ちています。

その後の過熱報道等で、受験生が集まりすぎ、それが落ち着いた、と見た方が正しいでしょう。

それと、有名になりすぎて、受かりそうにない、と志願しない高校生も多いようですし。

次にご紹介する学費値上げを受験生減少の理由とする方もいますが、そうかなあ。

そもそも、他の国公立大外国語・国際系学部と比較した場合、国際教養大の競争倍率(受験者数÷合格者数)、それほど低いわけでなくむしろ高い方。

2014年データで比較してみます。

※左が2014年データ、右が2013年データ

※出典は『蛍雪時代臨時増刊 全国大学内容案内号2015年版』(旺文社)

東京外国語大言語文化学部 2.7倍/2.5倍

東京外国語大国際社会学部 3.2倍/3.4倍

大阪大外国語学部 2.9倍/3.1倍

新潟県立大国際地域学部 2.6倍/2.6倍

愛知県立大外国語学部 3.1倍/3.3倍

神戸市外国語大外国語学部 2.7倍/3.2倍

北九州市立大外国語学部 2.4倍/2.3倍

国際教養大国際教養学部 5.1倍/7.9倍

落ちたと言ってもこの程度なんです。

●その2:学費を大幅に値上げした

開学当初の2004年、初年度納付金は80.2万円でした。

それが現在は県内104.8万円、県外118.9万円。

県外出身者は38.7万円もの値上げで、これは公立大文系学部の県外(設置地域外)出身者の初年度納付金では全国トップ。

これが受験生減少に悪影響した、との意見もあるようです。

私も、大学の学費は少ない方がいい、とは思います。

ただ、それは志願者や私のような部外者の言い分であって、大学を運営する立場からすれば、良質な教育を維持するためには相応の学費を、と考えるのは無理からぬところ。

それに、国際教養大は秋田県の公立大(正確には秋田県が設立した公立大学法人)。

なのに、870人の学生のうち、秋田県出身者が118人と13.6%しかいません。

そりゃあ、秋田県外出身者から高く取ろうと考えるのも自然です。

別に国際教養大以外の公立大でも、県外・県内出身者で10万円前後の差を付ける大学は多いですし。

それと、この学費も国立大はまだしも、公立大外国語・国際系学部と比較した場合、どうでしょうか。

国立大・標準額 81.7万円

新潟県立大 県内81.7万円、県外109.9万円

愛知県立大 81.7万円

神戸市外国語大 市内81.7万円、市外95.8万円

北九州市立大 市内95.7万円、市外109.8万円

※いずれも外国語・国際系学部/同窓会費などは除く

まあ、国際教養大(118.9万円)は高いことは確かですね。

しかし、新潟県立大・北九州市立大の県外・市外出身者の初年度納付金との差は約10万円。

この金額差が今後も受験生減少に影響し続けるかどうかははなはだ疑問です。

●その3:国際教養大出身者は使いづらい

2013年に週刊プレイボーイ記事で「企業からは『使いにくい』の声も……。"エリート養成校"国際教養大学の問題点」が掲載されました。この中で人材コンサルタント・常見陽平さんが

「中身は本当にそれ相応なのでしょうか」

「AIUの学生は、そこが心配。実際に企業側からは『使いづらい』という手厳しい評価もある」

とのコメントを出しています。

これに、当の国際教養大生が反発し、一時、ネットをにぎわせていました。

この手の批判、注目されている大学・学部ほど、ネタになりやすいです。

1990年代だと慶応SFC、2000年代前半だと早稲田大国際教養学部などがネタにされていました。で、今度は国際教養大の番、と。

批判内容もほぼ同じですね。

「教育の中身がない」

「使いづらい人材になっている」

ま、こういう記事、標的、もとい、ネタとなった大学の学生や出身者に不満を持っている採用担当者などを1人でも捕まえられれば成立してしまいます。

で、かつてネタにされていた慶応SFCや早稲田大国際教養学部の評価が2015年現在、落ちているか、と言えばそんなことはありません。

国際教養大には、今も、名だたる企業が学内説明会を開催しています。

その数が激減した、というのであればまだしも、今はそういう話が一切ありません。

●その4:4年卒業率が極端に低い

確かにこれも低いです。『大学の実力2015』(中央公論新社)によれば、中退率は3.5%とそこまで高くはありません。

そして、卒業率(4年間で卒業できる割合)が48.8%。2人に1人は留年している計算になります。

この数値は公立大国際・外国語系学部だと高いと言えば高いし、こんなもの、とも言えます。

新潟県立大国際地域学部 82.1%

静岡県立大国際関係学部 61.3%

神戸市外国語大外国語学部 40.3%

北九州市立大外国語学部 54.7%

国際教養大や他の公立大でもよく聞くのが、留学が大変というよりも学生の自主的な留年です。

つまり、留学すると、勉強不足、教養不足に気づくとのこと。

そこでもう1年、大学でちゃんと勉強してから、と考えて留年する学生が多いそうです。

国際教養大にしろ、神戸市外国語大にしろ、北九州市立大にしろ、留年したから学生の評価が低いか、と言えばそんなことはありません。

採用担当者にも聞きましたが、

「留学して、それでさらに勉強を深めようとして留年?それが3年、4年と長ければ困るけど1年ならいいんじゃない。それだけしっかりした人材に育っているわけだし」

気にすると答えた採用担当者は皆無。そして、実際に国際教養大や神戸市外国語大などは就職で評価されない、ということがまずありません。

中退率が20%と高いようならそこは気にした方がいいでしょう。

しかし、留年率が40~50%だったとしても、そこは気にする必要は全くない、と私は考えます。

警察官養成しかやらない(やれないとも言う)潰れかけの私大が留年率40%、いや、20%でも、それはひどいよ、と思いますが、そういう大学とは全く次元が異なります。

●その5:秋田県が人口減少→財政難でいずれ経営難に

ネットには、「2040年に秋田県の人口は半減」などとありました。人口が減ればそれだけ財政難となり、公立大の国際教養大も経営難となる、という次第。

秋田県の人口減は、週刊ダイヤモンド2015年3月21日号「いざ都市対決!」によると、3か年社会増減率がマイナス0.7%。これは全国ワースト3位。

ネットの半減云々というのは、『地方消滅』(中央公論新社)あたりからでしょうかね。

「2040年の半減」云々が現実になるかどうかはまだ不明です。が、今のところ、秋田県が極端な財政難というわけでもなく、20年後の仮定の話を元に、是非を論じても始まらないでしょう。

自治体の大学支援策の不安定さは、私も立命館アジア太平洋大(大分県)について、感じてはいましたし、一時はこの点で批判もしていました。

ただ、立命館アジア太平洋大の場合、別府市の地域おこしに一役買っていますので、大分県の支援策はトータルではプラスだったと言えます。

※この点においては、私が間違っていたことを認め、立命館アジア太平洋大・大分県関係者にはお詫びする次第です。

また、他の公立大も、財政難などを理由として、複数ある大学を統合するケースは過去にありました(東京都→首都大学東京、静岡県→静岡県立大、大阪府→大阪府立大、広島県→県立広島大など)。

が、財政難を理由に廃校となった公立大は今のところありません。

それどころか、公設民営で設立した私立大を公立大化する流れが続いています。

高知工科大、静岡文化芸術大、名桜大、鳥取環境大、長岡造形大などがそうで、今後も山口東京理科大などが続く見込みです。

この公立大化の流れに対して、自治体の大学運営・支出を非難する方もいます。その文脈から、国際教養大を批判する方もいますが、それとこれと話は別のはずです。

●その6:不祥事が起きた

昨年秋、男子学生が女子トイレに侵入して、逮捕されるという事件が起きました。

もちろん、こうした不祥事を起こした学生は非難されて当然です。

が、一定規模のある大学であれば、学生が不祥事やトラブルを起こすことは避けられません。

この一件をもって、「だから国際教養大はダメ」と決め付けるのは無理があるように思います。

以上、6点にわたってみてきましたが、いずれも非難するには、やや根拠としては薄弱なものばかりです。

もちろん、今後、国際教養大に問題点などがあれば、私は中立な立場の人間として、それを指摘ないし批判していきます。

ですが、現時点においては、なぜネットであれこれ非難されるのか、理解に苦しみます。

今後、国際教養大を進学先にするかどうか考えている受験生や保護者、高校教員の方には、どうか、こうした非難・批判に惑わされないようお願いします。

あれこれ非難している方には……、まあ、これはいいか。

国際教養大の学生や関係者からすれば、国際教養大が国際教養大である限り、不愉快な非難は今後も続くことでしょう、残念ながら。

有名になった大学・学部の宿命とも言えますが…。

不快な思いをされているであろう、国際教養大の学生・関係者には、次の言葉をお贈りします。

このことをよく覚えておきたまえ。

もし他人が君を憎んだとしても、

君が相手を憎み返さないかぎり、

彼らが君に打ち勝つことはないんだよ。

~アメリカ37代大統領 リチャード・M・ニクソン

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。2018年は肩書によるものか、バイキング、ひるおびなどテレビ出演が急増。ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。主な著書に『大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ)『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)『女子学生はなぜ就活に騙されるのか』(朝日新書)など累計28冊・55万部。

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