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進路相談7・公立大福祉系学部の就職内定率が低いところはダメ?

石渡嶺司大学ジャーナリスト

質問:ある県の公立大福祉系学部を志望校と考えています。ただ、親が「この大学、就職率が低いぞ」と新聞記事を見せてくれました。公立大で就職率の悪い福祉系大学、進学に値するでしょうか?

大丈夫です、安心してその志望校を受験してください。

その新聞記事、誤報とまでは言いませんが、それに近い記事だからです。

あなたの親御さんがあなたに見せた新聞記事、後日入手しました。その記事のポイントは3つ。

その1:掲載が11月

その2:対象は4年生で就職率は正しくは内定率

その3:その公立大の中では内定率が一番低い学部として掲載

このポイント、福祉業界関係者は読んだだけで、「そりゃそうだろう」と納得します。

ややこしい話ですけど、内定率は就職率とは違い、ある時点で就職希望の学生がどれくらい内定していたかを示す数値です。

つまり、卒業時点での数値でなく、途中経過とお考えください。

それで公立大、国立大、私立大の別に関係なく、福祉系学部はこの内定率が低く出る特徴があります。

「なーんだ、福祉系学部は就職がダメなんだ」

と誤解しないでくださいね。

言ったでしょ、「途中経過」と。

なぜ途中経過を示す内定率が低く出るか。

答えは簡単。

他の文系学部と違い、就活のスタートが遅いからです。

他の文系学部では、3年生の秋か冬あたりから就活が始まります。

就活スケジュールの後ろ倒し(2016年卒から)で公式には3年生3月からスタートなのですが、まあ大きくは変わらないでしょう。

この後ろ倒しの話はここでは省略。

一方、福祉系学部の学生のうち、福祉業界を目指す場合、4年生の5月か6月くらい。

なぜ、こんなにも遅いのか、と言えば実習などの関係でどうしても遅くならざるを得ないのです。

それと、福祉業界では大きな影響力を持つ公的機関、社会福祉協議会が主催する合同説明会が4年生の6月下旬ないし7月ごろに実施されます。

これを目安に就活を始める学生もいますし、もっと遅く12月ごろに始める学生もいます。

あ、3年生12月じゃなくて4年生12月ね。

他の文系学部で4年生12月に就活、というのは、就活でよほどボロボロ、負け続けたとか、留学などで極端に準備が遅れたとかそういう学生ばかり。まあ、少数派です。

一方、福祉系学部はそれなりにいるわけです。しかも、例年、結果的にどこかには就職していくわけで。

この、のんびりした雰囲気というか、独特の時間感覚、他の文系学部にはなかなかありません。

当然ながら、途中経過を示す内定率は低く出て当たり前なのです。

ま、高校生や一般人、あるいは高校の先生が誤解するのは無理ないところ。

ただ、その新聞はねえ…。

大学発表の内定率だから間違いないだろう、と踏んで

「この公立大の福祉系学部は内定率が低い。税金を使っている大学で就職状況が悪いのは問題だ、キー」

と思ったのでしょう。

誤報とまでは言いませんけど、福祉業界を少しでも取材すればわかる話です。

よい子の高校生のみんなはこういう大人にならないように。少しの努力を惜しんでいちゃあ、ダメですよ。どんな仕事でも。

※『時間と学費をムダにしない大学選び2016』(中央公論新社)より引用

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計31冊・65万部。 2023年1月に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)を刊行予定。

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