公立教育に黒船来航?~武雄市・花まる学習会記者発表

武雄市・花まる学習会の記者会見模様

賛否両論市長、今度は公立学校改革へ

佐賀県武雄市と言えば、樋渡啓祐市長。賛否両論分かれますが、病院の民間移譲、図書館の指定管理者移行(指定管理者はCCC)、ドラマのロケ誘致など様々な方策を仕掛けた方としても有名です。

この樋渡市長が今度は公立学校改革に乗り出しました。その骨子は日本初の官民一体型学校で、提携する民間企業は学習塾の花まる学習会。そして、運営に特別顧問として参加するのが、藤原和博氏(元・和田中初代民間人出身校長)、それから代田昭久・武雄市教育監(元・和田中2代目民間人出身校長)。

タブレット配布や反転教育などでも賛否両論を招く中、これもこれでさらなる賛否両論を招きそうです。

実際、文部科学省記者クラブでの会見(4月17日)では注目されたこともあり、主要メディアの記者が勢ぞろい。NHKでは夜7時のニュースで2番目に放送されるなど扱いとしてはかなり大きいものでした。

NHKニュースの動画

TBSの動画

では、官民一体型学校とは何なのでしょうか?

武雄市にできる官民一体型学校って?

武雄市・花まる学習会が進めようとしていることの概要は次の3点です。

●武雄市教育委員会は花まる学習会と連携する。

●武雄市立小学校と花まる学習会が官民一体型の小学校設立を目指す。公立でありながら民のノウハウ・活力を導入、生き抜く力を育む教育を展開する。

●教育課程は現行の学習指導要領に準拠する。

学習塾の花まる学習会のノウハウを公立学校に導入…、これだけだと塾が公立小学校を運営するとも読めますし、進学熱をあおるだけ、とも読めてしまいます。

公設民営(この場合は武雄市がお金を出して運営は花まる学習会が担当)の学校、とも読めますが…、どうもそうではないようです。

単なる進学塾ではない花まる学習会

まず、前提条件として、花まる学習会についての説明から行きましょう。

花まる学習会は代表の高濱正伸さんが母親層に絶大な人気を誇る学習塾です。

2013年12月現在、104か所244教室を展開、会員数が1万6000人を超えています。

進学塾部門(スクールFC)もありますが、どちらかと言えば幼稚園(年中・年長コース)~小学生(低学年コース・高学年コース)を対象とした人間力育成が主眼。

花まる学習会のホームページには、

数理的思考力・読書と作文を中心とした国語力に加え、野外体験を三本柱として、将来「メシを食える大人」そして「魅力的な人」を育てる学習塾です。

幼稚園児~小学生を対象とし幼児の本質を見据えた指導を行っています。

とあります。

授業の様子を流した動画もありますが、なるほど、確かに単なる学習塾・進学塾ではなさそうです。

公立小学校の一部参加はすでにあり

花まる学習会は、サマースクール、雪国スクール、サバイバルキャンプ、子ども海釣り王国など、野外体験学習も展開していますし、公教育への参加もしています。

長野県・青木小では「考える力を伸ばす授業」(月1回)を2006年度から実施。

長野県では北相木小(2011年度から「花まるタイム」を毎月、全学年対象)、南牧北小(年3回の授業)でも展開。

それから、2008年度から青木小で漢字の取り組み(花まる漢字テスト)を導入。これも北相木小、南牧北小でも展開し、さらに大岡小でも展開するようになっています。

長野県以外では、2013年より熊本県人吉市に花まる学習会社員が常駐、市内6校の小学2年生を対象に、放課後の時間を使った学習指導(人吉市花まる教室)を実施しています。

高濱代表は、もともと公教育への貢献を意識しており、記者会見でもこの話を強調していました。

公教育への一部参加は花まる学習会はすでに実施済みですが、武雄市との官民一体型学校は、一部参加というレベルではありません。

官民一体型学校の教育内容は?

「官民一体型の学校を武雄市から創設する」

「官とか民とかつまらないカテゴリーはやめにして一緒にやっていこうよ、ということです」

記者会見で樋渡市長はこのように強調しました。

では、その教育内容はどのようなものでしょうか。

記者会見で武雄市が配布した資料によると、

官民一体校の教育課程は現行の学習指導要領に準拠して行い、その上で「花まる学習会」の教育手法を大胆に取り入れ、それによって教育のあり方を変え、これからの生き抜く力を育む教育を行う。

●花まる学習会の「主要カリキュラム」を日常的に実施

●野外体験メソッドを生かした「青空教室」の実施

●「考える面白さ」を追求し、数理的思考力を鍛える

● 学習の定着を図る独自の「指導方法」の導入

● 信頼関係をつくる「学校マネジメント」の導入

とのこと。

もう少し、補足すると、朝学習の時間、一般的な公立小学校では朝読書などに充てていますが、これを「モジュール」という、花まる学習会の学習メソッドを導入したカリキュラムにします。

武雄市反転授業(スマイル授業)を展開するほか、総合的な学習の時間では、青空教室という花まる学習会の野外学習を展開。

さらに通常の教科については、今まで通り、公立小学校教員が教え、学習指導要領に準拠した内容を教えます。

ただし、教育手法などは花まる学習会側と研修する機会を持つとのこと。

記者会見に出席した代田昭久・武雄市教育監は、

「公設民営ではない」

と強調していました。

花まる学習会に丸投げ、というわけでもなく、学習指導要領に準拠した公教育が展開されつつ、花まる学習会も相当部分で関与する、直接教えない教科についても研修などで関与する、ということのようです。

運営はどうなる?

運営については、どうなるでしょうか?

小学校を一から新設するのではなく、既存の小学校において実施。

教職員は、これまで通り、県に費用で負担する教職員であることは変わりありません。

花まる学習会は、高濱代表はじめとして、武雄市教育委員会や研究開発校(武内小)職員と研修などを実施。本格導入後はアドバイザー、あるいは講師として参加します。

和田中の初代民間人校長だった藤原和博氏は、武雄市特別顧問となり、アドバイザ-として指導、助言していきます

※藤原氏については、無報酬!

花まる学習会との官民一体型学校は最初からすべての小学校で、というわけでなく、初年度は2~3校になる見込みです。

武雄市の小学校は現在11校。官民一体型学校とならなかった小学校、それから中学校についても、官民一体校の教育内容やノウハウを共有できるよう、組織・システムを2014年度中に検討するとのこと。

児童は武雄市だけでなく、全国から募集

官民一体型学校となった小学校については、該当校区の児童だけではありません。希望する保護者がいれば、全国から募集するそうです。

もちろん、無条件というわけではなく、該当校区への移住が条件。

募集人数などはまだ未定ですが、

「20~30人くらいになりそう」(樋渡市長)

花まる学習会の関与がどれくらいか、など、詳細が見えてくるにつれて応募状況などは変わりそうです。

応募には、不登校児なども含むとのことで、

「僕も不登校児でした。受け入れを拒むということはしたくない」(樋渡市長)

大学よりは期待できる定住者増加策

一応、自分の専門(大学関連)から言うと、これまで教育で地域おこしと言えば、大学新設です。

いわく、大学を新設すれば、全国から学生が集まって活性化する…。

まあ、確かに、全国から学生を集めている地方大はそれなりにあります。福島県の会津大、秋田県の国際教養大、高知県の高知工科大などです。

しかし、地域活性化につながって定住者人口の増加にまで至ったか、と言えばちょっと疑問です。

たとえば、会津大は、会津を日本のシリコンバレーにする、という構想の一環として設立されましたが、企業誘致はシリコンバレーになったと言えるほどではありません。

国際教養大は今でこそ、難関大、かつ良質な教養教育を展開する大学として有名ですが、元はミネソタ州立大秋田校という大学の地方誘致の失敗策が転じたものです。

高知工科大も、公設民営で私立大だった時期は受験生集めに苦戦。公立大学となったあとにようやく安定した経緯があります。

そして公立大学である以上、運営自治体の負担は相当重たく、それでいて、定住者人口は大学定員の4年分しか増えません。卒業すれば入学者と入れ替わるに決まってますし、1学年1000人以上のマンモス校を作るのであればまだしも、数百人程度だと定住者人口増加策にはつながりにくいのも無理からぬところ。

まして、私立大の場合、地域おこしを期待して開学したまではよくて、それからずっと定員割れ。ついには廃校に至った例もあります。今後も廃校する例は増えていくでしょう。

つまり、大学開設で地域おこし、というのは私立であれ、公立であれ、無理があります。

その点、小学校であればちょっと違います。今回の武雄市の場合だと、児童だけでなく、保護者の移住も条件。

1年生からだと、6年定住することになりますし、小学校が良ければ、中学校も。中学校が良ければ高校も、とのリクエストが出てくるでしょう。

そうなれば、最大で12年もの定住が期待できます。

まして、公教育がすぐれていれば、企業誘致などでも有利になりますので、より一層、定住者増加が期待できます。

「(中学校の)新設は考えていない。中学校は、保護者から(官民一体型学校へのリクエストが)巻き起こってくるのでそのときは積極的に対応したい。そういう声が上がるように我々も努力したい」(樋渡市長)

今後のスケジュールは?

スケジュールとしては、6月に市議会定例会で武雄市教育委員会が諮り、そのうえで契約・連携協定を締結。

研究開発校(武内小)の教育活動の中で「花まる学習会」と提携・融合できる領域について研究開発を実施します。

官民一体校については、今年秋より、地域及び学校の主体性を尊重した「手あげ方式」により決定。地域とは各校区にある区長会での決議などが必要とのこと。

そして、2015年度から2~3校が官民一体型学校となります。

仮に、希望する小学校区が多い場合は順次検討するとのこと。

魅力的なメシが食える大人に育てたい

高濱代表が著書でも講演でもよく強調しているのが、

「魅力的なメシが食える大人に育てる」

です。

今後、武雄市で展開される官民一体型学校でもこの思いが反映された教育内容が反映されていくでしょう。

日本初の官民一体型学校が教育界に大きな一石を投じたことになったのは間違いなく、今後の展開に注目したいところです。

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1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。2018年は肩書によるものか、バイキング、ひるおびなどテレビ出演が急増。ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。主な著書に『大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ)『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)『女子学生はなぜ就活に騙されるのか』(朝日新書)など累計28冊・55万部。

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