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<S・マザーに聞く>怒る北朝鮮の女性たち 男社会に反抗す(1)ダメ夫に離婚突きつける女性たちの本音

石丸次郎アジアプレス大阪事務所代表
鴨緑江で洗濯する北朝鮮の女性たち。2019年9月に中国側から撮影石丸次郎

今も社会主義を標榜する北朝鮮だが、男尊女卑の風潮は根強い。「女のくせに」、「女だから」…。北朝鮮の人たちや脱北者と話していて、しばしば出て来る言い回しだ。女性たちはずっと犠牲を強いられてきたが、過剰な新型コロナウイルス防疫策をきっかけに男中心社会への「反乱」が起こっているという。北部地域に住む取材協力者の女性に、最近の事情を聞いた。彼女は離婚経験のあるシングルマザーだ。第一回目は夫への不満を爆発させて家を出たり、離婚を突きつけたりする女性が急増していることについて。

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◆コロナで困窮しダメ夫に愛想つかす

「最近、夫を置いて逃げ出したり、離婚を突きつけたりする女性がとても増えました。一番の理由はコロナで生活が苦しくなったこと。男は国に配置された職場に無条件に出勤しなければなりませんが、ほとんど生産が止まっていて給料も食糧配給もありません。それどころか、職場では労働者に現金や薪、ガソリンなどの資材の供出を要求します。

妻は必死に商売して稼いでそれを準備するわけですよ。家族を食べさせながら。男は無断欠勤すると批判され、『労働鍛錬隊』に送られます。コロナ以降、統制が本当に厳しくなって容赦ありません。それでも、男はツケで酒を飲んだりするし、家事もやらない子育ても手伝わないというのが多い。一緒にいるのが嫌になるわけです」

※北朝鮮では職場で学習や動員に参加する「組織生活」が義務付けられている。「労働鍛錬隊」は、秩序違反などを理由に収容される短期の強制労働キャンプ。

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――男性も辛い立場ですね。

「稼ぎがないから家では妻に責められるし、職場では、上に命じられるまま下僕のように勤めなければなりません。ストレスで酒を飲んで妻を殴る男も多いんです。私の住んでいるアパートでも、夫婦喧嘩の声がよく聞こえてきます」

――北朝鮮では離婚は簡単ではないと聞きます。

「政府はなかなか離婚を認めてくれないし、最近は離婚しようという人が多くて1年くらいかかります。それも、賄賂を出さないと早く進めてくれない。裁判所の役人たちは、離婚を求める女性たちから受け取る賄賂で暮らしているようなもんです。家出して実家に戻っても、居住登録がなくて取り締まりの対象になるので長くいられず、また戻るしかありません。離婚が認められるまで、女性には長く辛い時間が続きます」

――男性は離婚を受け入れますか?

「いいえ、大半は承認しませんね。妻と別れると途端に暮らせなくなるから。離婚に応じる条件として子どもを渡さず、養育を口実にしてお金を要求する事例が多いです」

(続く)

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※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

アジアプレス大阪事務所代表

1962年大阪出身。朝鮮世界の現場取材がライフワーク。北朝鮮取材は国内に3回、朝中国境地帯には1993年以来約100回。これまで900超の北朝鮮の人々を取材。2002年より北朝鮮内部にジャーナリストを育成する活動を開始。北朝鮮内部からの通信「リムジンガン」 の編集・発行人。主な作品に「北朝鮮難民」(講談社新書)、「北朝鮮に帰ったジュナ」(NHKハイビジョンスペシャル)など。メディア論なども書いてまいります。

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