Yahoo!ニュース

留学生を「奴隷労働者」のように扱う日本 実態暴き「朝日の偽善」も斬る『移民クライシス』

石丸次郎アジアプレス大阪事務所代表
昨年12月に福岡で自殺したブータン人留学生ソナム・トブゲイ君(左、出井氏提供)。

◆日本に「食い物」にされる留学生

改正入管難民法が4月1日に施行された。安倍政権は5年間で最大約34万5000人の外国人労働者の受け入れを見込む。政府は否定するが、日本は実質的に移民国家となり、私たちは大量の外国人と同じ空間で暮らす時代を迎えることになる。

しかし、すでに単純労働に就く外国人は大量に日本に入って来ており、その多くが日本人が働かなくなった最底辺の仕事に就いている。

2018年6月時点で外国人技能実習生約28万5000人が農業や漁業、製造業などの分野で働いている。それを上回る約32万4000人の留学生が在留しているが、彼らの大半も低賃金労働に従事している。

技能実習生については、劣悪な境遇をマスメディアが報じるようになったが、留学生がピンハネと差別待遇の中で、借金漬けになって蟻地獄のような暮らしを強いられていることは、本書の著者・出井康博が告発するまで、ほとんどの日本人が知ることはなかった。

関連特集 「留学生」という名の奴隷労働者たち全4回 

私も、出井の前著『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)と、さらに取材を重ねた本書を読むまで、ここまでえげつない仕打ちを受けているとは知らなかった。出井は、実態を「奴隷労働」「人身売買」と厳しい言葉で表している。

◆留学生を食い物にするビジネスが盛況

人の大量移動にはプル要因とプッシュ要因がある。日本には安い労働力を求める吸引力があり、ベトナムなどの送り出し国には、貧困と若者に職がないという押し出し力がある。そこに、両者を結び付けて儲けようという勢力が出現する。

労働力不足を深刻にとらえる日本政府が留学生拡大策を採って吸引を支えることで、それはビジネスとして膨張してきた。「日本に行けば稼げる」という甘言を信じ、母国で日本への送り出し機関やブローカーに多額の借金をして来日する留学生たちは、その返済費用と学費、生活費を稼がなくてはならない。

こうして彼らは、日本人の働き手が来なくなった深夜の肉体労働などに送り出されていくのだ。

出井は多くのベトナム、ブータンなどの留学生と付き合い、日本語学校の職員と関係を作り、送り出すベトナムにも行って、「奴隷労働」「人身売買」の実態を赤裸々に描き出す。酷い日本語学校がある。

パスポートと在留カードを取り上げ、学費を支払うまで返さない。「一部屋に8人詰め込んで、一人から2万5000円を取っていた」という寮を使ったボッタクリ。自分は奴隷商人と同じだと、良心の呵責を日本語学校職員が告白する。

ベトナム人留学生4人が暮らす東京都内の日本語学校の寮。4畳半に二段ベッドが並ぶ。寮費は1人月3万円というボッタクリだ。2018年8月撮影出井康博
ベトナム人留学生4人が暮らす東京都内の日本語学校の寮。4畳半に二段ベッドが並ぶ。寮費は1人月3万円というボッタクリだ。2018年8月撮影出井康博

写真特集 出井康博が撮った留学生の闇 (7枚)

出井は、留学生ビジネスを展開する組織や学校、そしてキーマンたちに取材をかけ、その実名をはばかることなく記す。確かな取材を重ねている自信と、訴えられたり、攻撃されたりすることを覚悟している証しだろう。

そして出井の筆は、私たちが謳歌している「便利で安価な暮らし」に向けられる。24時間開いているコンビニ、そこで売られる数百円の弁当、ネットで簡単に注文すれば翌日届く宅配荷物の仕分け…。私たちの目に触れないところで仕事をしている外国人労働者の犠牲があって、「便利で安価な暮らし」は成り立っているとの指摘は重い。

◆朝日も新聞配達留学生に差別待遇

返す刀でメディアの偽善も斬る。外国人実習生に対する人権侵害を書く朝日新聞が、留学生を新聞配達員として使いながら、賃金の未払いや日本人従業員との差別待遇を放置していた実態も緻密な取材で暴く。

東京都内で新聞配達に従事する「朝日新聞」ベトナム人奨学生のファット君(仮名)。2018年1月に撮影出井康博
東京都内で新聞配達に従事する「朝日新聞」ベトナム人奨学生のファット君(仮名)。2018年1月に撮影出井康博

著者は英字紙記者をやめた後、経済、政界、米国現地ルポなど、幅広い分野で健筆を揮ってきた。筆致は主義主張や正義をふりかざすタイプではない。だが、この本は違う。ページを繰るとごとに、怒気が立ち昇ってくるかのようだ。

入管難民法の改正は国会でも論議されたが、留学生問題は無視された。メディアもほとんど報じない。日本社会は知らぬ存ぜぬを決めこんでいいのかという怒り。あまりの不条理と偽善を生み出し続ける政官財一体となった利権構造への怒り。

出井は巻末でこう記す。

「醜悪さもまた、他者を思いやる余裕をなくしてしまった、落ちゆく日本と日本人の姿そのものなのかもしれない」。

憂国の書でもある。

画像

※「本の旅人」2019年5月号に寄稿した書評を加筆修正しました。

アジアプレス大阪事務所代表

1962年大阪出身。朝鮮世界の現場取材がライフワーク。北朝鮮取材は国内に3回、朝中国境地帯には1993年以来約100回。これまで900超の北朝鮮の人々を取材。2002年より北朝鮮内部にジャーナリストを育成する活動を開始。北朝鮮内部からの通信「リムジンガン」 の編集・発行人。主な作品に「北朝鮮難民」(講談社新書)、「北朝鮮に帰ったジュナ」(NHKハイビジョンスペシャル)など。メディア論なども書いてまいります。

石丸次郎の最近の記事