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<北朝鮮内部>2月の対中輸出はたった10億円 制裁で前年比95%減の衝撃「食えない」と職場離脱始まる

石丸次郎アジアプレス大阪事務所代表
往来もなく閑散とした朝中国境の連絡橋。2017年10月撮影石丸次郎

3月23日に中国税関当局が発表した2月の対北朝鮮貿易統計には驚いた。北朝鮮から中国への輸出は942万6000ドル(約10億円)で、2017年同月比で、なんと94.6%も減ったのだ。

中国からの輸入は1億266万5000ドルで前年同月比32.4%減、貿易総額は1億1209万1000ドルで、同65.8%減だった。言うまでもなく、昨年7月以来上書きされて来た強力な経済制裁のためである。

中国の貿易統計2018年2月速報(中国語)

北朝鮮の主要輸出品は石炭、繊維製品などの加工貿易、海産物、鉄鉱石などの鉱物資源で、2016年にはざっと3000億円を稼いでいたが、これらが全て止められた状態だ。経済制裁の影響が北朝鮮国内にどう現れているのか。筆者の北朝鮮国内の取材パートナーたちの調査をいくつか紹介したい。

◆国営鉱山で職場離脱始まる

咸鏡北道の茂山(ムサン)郡。ここから中国に輸出される鉄鉱石は、かつて輸出額第二位の品目であり、2014年には2億2190万ドル、2016年には7441万ドル相当を中国に輸出した。(出所:Global Trade Atlas)。北朝鮮の外貨稼ぎの優等生である。だが、昨年夏以後の制裁で輸出は完全に止まったままだ。

茂山鉱山の労働者は1万人程度だと思われる。彼らの状況はどうなのか。茂山郡に住む取材協力者は3月中旬、次のように知らせてきた。

「3月に入ってやっと前月分の配給が出たが、それも一人トウモロコシ6キロ(職場によって若干差があるとのこと)。労働者は出勤しない者の方が多い」

北朝鮮では、成人は原則的に国が配置した職場に勤めなければならない。保安署が毎朝職場に行って出勤簿をチェックして無断欠勤者を取り締まる。茂山鉱山では欠勤者をどう扱っているのか?

「出勤率がガクンと下がったのは、職場に行っても給料も配給も出ず食べられないのだから仕方がない。保安員が出勤させるために訪ねて来るのだが、家の中の困窮した様子を見てすごすご引き返す有り様だ」

労働者たちは、商売や別の稼ぎ口を探すめたに職場離脱しているという。

 

二本の川を挟んで朝中国境は約1400キロメートルに達する。
二本の川を挟んで朝中国境は約1400キロメートルに達する。

3月下旬、北部の両江道恵山市にある銅鉱山の実情を、別の取材協力者に調べてもらった。銅鉱山は中国との合弁事業だったが、経済制裁にもとづいて昨年8月末で契約が解消されたという。

「約800人いる労働者には、それまでは一カ月に白米14キロと食用油20-50キロが支給されていた。食用油は、中国側の合弁相手が、売って現金化せよと給与の代わりに支給していたものだ。2月からそれらが一切なくなった。それでも労働者は出勤を強要されていて、食べていくために家族の誰かが商売している状態だ」という。

中国への輸出で潤っていた貿易会社や軍隊にも制裁の影響が現れている。燃料価格が高騰したため運搬車両を動かせない部隊まで出ている。また将校の待遇も悪化して妻が商売に出るのが普通になっているという。

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このように、経済制裁の影響が、人々の暮らしの中でも日増しに深刻になっているのだが、当局は各地で「間もなく制裁は緩む」「3月になったら経済は好転する」という根拠ない説明を繰り返している。

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アジアプレス大阪事務所代表

1962年大阪出身。朝鮮世界の現場取材がライフワーク。北朝鮮取材は国内に3回、朝中国境地帯には1993年以来約100回。これまで900超の北朝鮮の人々を取材。2002年より北朝鮮内部にジャーナリストを育成する活動を開始。北朝鮮内部からの通信「リムジンガン」 の編集・発行人。主な作品に「北朝鮮難民」(講談社新書)、「北朝鮮に帰ったジュナ」(NHKハイビジョンスペシャル)など。メディア論なども書いてまいります。

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