1日100万回接種も夢ではない

 菅総理の掛け声でワクチン1日100万回接種が現実的なものとなってきています。私の周囲でも5月はできるだけ早くワクチンを接種してほしいという患者さんが多かったので、妻の医院で週数回ワクチン接種ができるように体制を整えました。また地域の医師会と行政の要請で開設した接種施設にも月10回以上参加しています。

 しかし、6月になって流れが変わってきたように感じます。65歳以上の患者さんに「当院でワクチン接種できますが、どうしますか?」と声をかけたら多くの方が「もう接種は済みました」とか「予約が取れました」と言うのです。私の友人に聞いてもかかりつけ医がワクチン接種をしてくれたとか大阪の大規模接種会場で受けたとか言っています。政府は大学や企業でのワクチン接種を推進しています。順調に進めば1日100万回接種もあながち夢ではなさそうです。

本当にワクチン接種できる医療関係者は足りないのか?

 さて前回のコラムにも書きましたように私が違和感を抱くのは接種する医師が足らないというマスコミ報道です。接種する医療関係者が足らないために政府は歯科医師や救急救命士も臨時でワクチン接種ができるようにしました。本来は医師や看護師の領域である筋肉への注射を拡大することに関しては日本医師会が抵抗を示しましたが、政府に押し切られた格好です。そのために日本医師会は今や抵抗勢力と位置づけられています。

 ワクチン接種に関しては医師の最大団体である日本医師会にまず依頼したのは当然のことでしょう。日本には約33万人の医師が登録されていますが、日本医師会の会員はその約半分の17万人です。会員の約半数の8万人がいわゆる一般開業医です。約半分は勤務医と言われています。病院で勤務する会員にワクチン接種を依頼する事は難しいので、一般開業医にワクチン接種を依頼することになったのだと思います。そして自治体と地域の医師会が協力する形で地域の中規模接種会場が開設されています。

地域の接種会場の実態

 一般開業医は自身の医院でも診察をしなくてはならないので、空いている時間しか協力できません。我々の地区では平日と土曜日は13時半から15時半までの2時間が接種の時間です。日曜日は午前2時間、午後2時間が接種時間です。問診担当の医師5人、ワクチン接種の医師5人、そして接種後に問題がないか観察する医師1名、計11名の医師が参加します。その他にも看護師や薬剤師なども参加しています。事務作業には多くの行政担当者も参加しています。最初は超高齢者が多いので混乱を避けるためにも一日2時間で100名に限定しました。我々の地区では医療関係者が固定され、接種希望者が移動する方法です。介護が必要な高齢者が多いと動線が悪く、多くの方に接種するのは困難です。

 ある自治体では接種希望者は椅子に座ったまま、医療関係者はワクチンをワゴンに運んで次々と接種していく方法を採用しています。そこで接種を受けた人たちはかなりスムーズだったと言っています。お役所の仕事で慎重にならざるを得ないとは思いますが、医師11名と様々な医療関係者が参加して大きな会場確保しても1日2時間しか接種ができず、しかもあまり効率的では無いのでワクチン接種が進まないのは理解できます。

 我々もあまりにも効率が悪いので行政に相談したところ、医師の数を減らして、希望者を増やすと言っています。次回は100名から105名に増えるようですが、劇的に接種が進むわけではなさそうです。同地区の高齢者が約40,000人ですから週800人接種しても約1年かかる計算になります。これでは政府がせっかくワクチンを確保しても十分な効果が出せないと怒るのも無理はありません。

医師会を通さないワクチン接種がはじまる

 あまりにもワクチン接種が進まないので政府は防衛省に依頼して、大阪や東京で自衛隊所属の医療関係者が参加する大規模接種会場を開設しました。そこで接種を受けた方の感想は、かなりてきぱきと進んでいたようでした。それでも充分ではないので、大学や企業での接種も間もなくはじまります。自治体も独自に医療関係者を募集して大規模接種会場を開設しています。地元の大阪市はインテックス大阪、大阪府はマイドーム大阪に開設しています。

 インテックス大阪の会場では主に接種するのは歯科医師です。医師は問診や接種後の観察にあたると思われます。マイドームおおさかの接種者は未定のようです。

 現在医師は約33万人、看護師は160万以上、歯科医師は約10万人登録されています。ワクチン注射に関しては医師のほかにも看護師が担当できます。今回はそれでも足らないので歯科医師や救急救命士にも声がかかったようです。ワクチン接種会場に数人の医師(できれば救急処置ができる医師)がいれば、看護師や歯科医師でも接種可能なのです。接種する医療関係者が足らないのは主にシステムの問題ではなかったのでしょうか?

日本医師会だけでは無理?

 一般開業医をワクチン接種の主体とすることに無理があったように思います。日本医師会の会員は約17万人ですが、一般開業医は約8万人です。そのうちワクチン接種可能なかかりつけ医は約半数位でしょう。しかし、かかりつけ医でも面倒だとか救急対応できないなどの理由で、ワクチン接種をしていない医師もかなりいます。私の妻は眼科なので当初ワクチン接種を積極的には考えていませんでしたが、患者さんの要望も増えてきたので循環器医の私が手伝うことにしました。今は自分の医院で診療前の早朝や昼の休憩時間に細々とワクチン接種をしています。また医師会から依頼があった地区のワクチン接種会場にも参加しています。そのために私は週5回くらいワクチン接種を担当しています。

 自治体と医師会が運営するいわゆる地域の中規模ワクチン接種会場は当初はトラブルを避けるためにかなり接種を受ける人数を制限したのは仕方ありませんが、あまり効率の良いものではありません。そのため政府はまず自衛隊に依頼し東京と大阪で大規模接種会場を開設しました。また都道府県は独自に医療関係者を募集して、大規模接種会場設置しています。これらの予約の多くはネットで受け付けるために超高齢者がアクセスしにくいようです。地域の接種会場は高齢者を優先して接種していますが、大規模接種会場はインターネットを扱える65歳から70歳位の方が多数訪れているようです。

医療関係者はネットで集めることが可能

 大阪の接種会場は主に歯科医師が接種するようです。もちろん医師も問診や接種後の観察などの役割があります。看護師は医師の指導のもとで筋肉注射をしても問題ありません。今回は特例として歯科医師や救急救命士にも接種できるようにしましたが、医師会は歯科医師や救急救命士にワクチン接種をすることに難色を示していました。あくまでも医師主導でやりたいと言う気持ちはわかりますが、それがかなり非効率的である事は明白になってきました。

 自衛隊以外の都道府県が設置した大規模接種センターでは主に医療関係者をネットで公募しました。大阪市が1日50人の医師を募ったところ、4日間で1364人の応募があり、すでに募集は締め切っています。最近では医師会にも属さず、大学や大きな病院にも属していないフリーランスの医師が増え、出産・子育てで休職している医師もいますので、ネットで募集をするとすぐに集まるのでしょう。

 ワクチン接種を公募しているサイトに私も登録しましたが、未だ全く連絡がない状態です。おそらく十分に人手が足りていると推測されます。このように医師会を通じなくてもワクチン接種できる医療関係者が充分集まることが明白になりました。政府はさらにワクチン接種を進めるために大学や職域でのワクチン接種を推進しています。大学は多くの医師が在籍し、多くの教室があるためにワクチン接種としては最適な場所です。大学に所属している医師もほとんど医師会に入っていません。大企業では産業医が常勤として勤めています。その他にも看護師も数名いるはずです。それだけでは少し足りないときはネットを通じてワクチン接種の手伝いできる医療関係者を応募しています。これも早々にかなり応募があったようです。企業の常勤の産業医で医師会に所属している方もそれほど多くないと思います。中小企業の場合は地域の医師会に所属する開業医が産業医を兼ねている場合が多いですので、その医師がワクチン接種をする可能性があります。

ワクチン接種で見えてきた日本医師会の実力

 このように当初医師会主導でワクチン接種を進めていましたが、あまりにも効率が悪いために、政府は独自にワクチン接種をどんどん進めていくようになりました。一般の方はほとんどの医師が医師会に所属していると思っているでしょうが、所属しているのは医師の約半数、そしてその半数が一般開業医です。すべての医師が医師会の指示のもとで動くわけではありません。皮膚科や眼科の医師がワクチン接種しないのはまだ理解できますが、かかりつけ医の中にも面倒であるとか何かあったら怖いと言う理由でワクチン接種をしていない医師も少なからずいます。

 また多くの大病院はワクチン接種をしていませんが、最近では中小の病院がワクチン接種に乗り出しているようです。そのため患者さんの中には「友人のかかりつけ医はワクチンを打ってくれているのに私の先生は打ってくれない」と嘆いています。今回のワクチン接種で露呈したのは日本医師会の実力だったのかもしれません。