ワクチン接種、本当に医師は不足しているのか?

(写真:show999/イメージマート)

医療関係者ならだれでもできるワクチン接種の人手が足りない?

 いよいよ待ちに待った新型コロナウィルスへのワクチン接種が始まっています。ネット上ではよく医師不足との報道がなされますが、なぜなのでしょうか?新型コロナウィルスの最前線で人工呼吸器やECMOなどの操作にあたる技術を持つ医療関係者が不足しているのは理解ができますが、ほとんどの医療関係者ならワクチン接種はできます。医師以外にも看護師や歯科医師もワクチン接種が可能です。それなのになぜ医師が不足しているのでしょうか?

 新型コロナウィルスの蔓延において、医師を活用するシステムがうまく運用されていないような気がします。そこで一般の方にもわかりやすい医師の組織に関してお話をしてみたいと思います。

ワクチン接種の現状

 まず私の現状をお話しします。私は定年前に大学を退職し、妻の医院で非常勤として働いています。今年の4月ごろに医師会から5月のワクチン接種が可能な日程を知らせてほしいとの連絡あり、都合のつく日を伝えたところ1日だけ当番になりました。続いて6月の予定を尋ねられた時にも、多くの日程を候補に挙げました。なんと6月は14回も当番になりました。現在は7月の予定を尋ねられているところです。まもなくワクチン接種に参加しますが、残念ながら私自身はワクチン接種を受けていません。

 医師会からの要請の対象の多くの方が開業医です。大阪独特の習慣で、開業医は午前診と午後診の間に数時間の空き時間があります。例えば午前診察は9時から12時半まで、午後診察は16時から19時までという感じです。これは仕事が終わってからも診察に行けるように配慮したためといわれていますが、詳細は不明です。全国的には9時から18時頃まで診療し、昼に1時間ほど休憩をとるのが一般的です。そのために大阪では平日と土曜日は13時半から15時半の2時間が接種の時間になります。日曜日は午前中と午後の2時間ずつ接種をします。他府県の接種時間は分かりません。

 自分の医院を休んでまで接種に協力することは難しいのでこのような時間帯になったと私は理解します。私の場合は医院の開設者の妻が医師会員(A会員)で私がB会員です。私は妻の医院で非常勤として働く傍ら講演会などを行ってきました。新型コロナウィルスの蔓延で講演会がほとんどないために今は充分時間がありますので、積極的にワクチン接種に手を挙げた次第です。

日本医師会に全ての医師が加盟しているわけではない

 おそらくワクチン接種に関して政府は日本医師会に全面協力を依頼したに違いありません。しかし日本医師会の多くのメンバーが自分の医院を経営しているいわゆる開業医ですのでワクチン接種に十分な時間を割くことができません。そのために限られた時間帯が設定されたようです。

 しかし、日本医師会に所属していない勤務医もたくさんいます。たとえ開業していても医師会に所属していない医師も少なからずいます。現在日本の医師数は約32万人ですが、医師会に所属する医師は約17万人で、医師の半数くらいしか所属していません。開業医ばかりと思われるでしょうが、開業医と勤務医はほぼ半数ずつです。ただ幹部である代議員の多くは開業医です。

 現在新型コロナウィルスの重症者を診療している病院の多くは大病院です。日本の場合は大病院は国公立もしくは准公的組織の運営が主です。そこに勤めている勤務医の多くは日本医師会に所属していません。大病院の幹部は日本医師会に所属している場合もありますが、ほとんどがサラリーマン幹部のため、定年になると医師会との関係はなくなる場合もあります。

 医師会に所属していない大病院の勤務医にはワクチン接種の依頼がなかったように思います。確かに新型コロナウィルスの治療の最前線に立つ感染症や集中治療室の医療スタッフは大変忙しいでしょうが、逆に不要不急の手術などを停止しているために、その他の診療科は時間の余裕がある医療関係者が多いようです。小児科に関してはかなり患者さんが減って経営状態がかなり悪化している様です。

 そのような時間に余裕のある勤務医に声をかければ、かなりの人数が確保できると思います。当然主たる勤務先である病院の許可が必要でしょうが、この有事の場合、短期間なら許可が下りるのではないでしょうか?

 さらに最近では医師会にも属さず、大学や大きな病院にも属していないフリーランスの医師が増えています。また女性の医師は出産や子育てで一時的に職場を離れている方も少なくありません。また我々のように大病院を定年退職し産業医や老人施設などで働いている医師もある程度の時間的余裕があるはずです。そのような方を活用すればワクチン接種の医師不足は解決するのではないでしょうか?

やっと動き出した政府系の登録サイト

 そのように考えていたら5月15日に医療系のコミュニティーサイトからワクチン接種に参加する登録のお願いが来ました。今や医療系のコミュニティーサイトはM3やMedPeerなどたくさん立ち上がり、医師の就職やパートの仕事を多く紹介しています。それを活用している医師も少なくないはずです。私が登録しているサイトからも下記のような内容が送られてきましたので、私はすぐに登録しました。

 新型コロナワクチンの集団接種において、医師が不足している地域があります。

本事業では『厚生労働省 医療のお仕事Key-Net』と共にワクチン集団接種にご協力可能な医師を応援が必要な自治体へ紹介をいたします。

登録のサイトはhttps://medpeer.jp/data?did=155960

(厚生労働省推進事業 新型コロナワクチン接種医師確保事業 Save the town)

 医師の主な団体は日本医師会ですので、政府がワクチン接種の依頼をお願いするのは当然だと思います。しかし、多くの会員が自分の医院を経営しているために十分な時間が取れません。このような事は当初から予想されていたので、勤務医やフリーランスの医師を活用することも並行して行った方が良かったのではないでしょうか?

新型コロナウィルスの蔓延で露呈した日本の医療システムの脆弱性

 新型コロナウィルスの蔓延によって日本の医療システムの脆弱性が明確になってきました。多くの人は数千人の感染者と1000人前後の重症者で世界一の病床数を誇る日本の医療システムがなぜ破綻するのか?疑問に思っていると思います。

 1つの原因は小規模の民間病院が多く、新型コロナウィルスなどの感染症に対応できないことが挙げられています。しかし、もっと大きな問題があるようです。日本医師会は国民に自粛を強く呼びかけていますが、新型コロナウィルス対応の病床数を増やすことに力を入れていないとの批判も受けています。日本医師会の会員の多くが重症の新型コロナウィルス患者さんを診療できる施設では無いので、医師会長がお願いをしても増えるはずはありません。

 新型コロナウィルスを診療しているのは主に国公立病院や准公的病院です。病院は医師会とは別に病院団体を作っています。「一般社団法人日本病院会、公益社団法人日本精神科病院協会、一般社団法人日本医療法人協会、公益社団法人全日本病院協会」は四病院団体協議会(通称:四病協)を発足し、活動をしています。

 一般の方は国公立病院なら国や自治体の圧力で新型コロナウィルス病棟をもっと増やすことができるのではないかとお考えでしょうが、それほど甘い話ではありません。私立病院以外の大病院の幹部の多くは大学からの天下りです。昔は教授を務めあげた後に病院長として栄転できたのですが、最近では定年の問題もあり早めに教授をやめて病院幹部になるか、もっと若い時から部長等で就職し内部昇進で幹部になるのが一般的です。

 病院長になったからといってすべての診療科が命令に従うとは限りません。ほとんどの診療科は大学(いわゆる医局)の影響下にありますので、どちらかと言うと大学のほうに顔を向けています。そのために院長は強力なリーダーシップが取れません。

容易には解決しない日本の医療システム

 全国に57の病院を擁する独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)の理事長は現在感染症対策で活躍されている尾身茂氏です。そのトップですら思うように傘下の病院に新型コロナウィルス対策の病床数を増やすことができない状況なので、一般の皆様も少しはこのややこしい日本の医療システムが関係していると理解できるかもしれません。

 世界一の病床数があるにもかかわらずこのような状況になった背景には、日本独特の医療システムが関係してるように思います。