なぜアビガンは早期承認されないのか?

新型コロナウイルスの治療薬として期待されるアビガン(写真:ロイター/アフロ)

アビガンの5月中の承認を事実上断念

 新型コロナウイルス治療薬候補のアビガン(一般名ファビピラビル)の5月中の承認を目指していた厚労省は、月内承認を事実上断念しました。

 現在は富士フイルム富山化学の第3相臨床試験(企業治験)と、藤田医科大が進める特定臨床研究が進められているようです。当初は高い有効性が期待されていましたが、藤田医科大が進める特定臨床研究については学外の専門家による評価委員会から科学的に評価することは時期尚早とされたため研究は継続となりました。

 今のところ600以上の医療機関で観察研究として3千人以上に投与された実績から「問題となる新たな副作用報告はされていない」と強調するのみとなっています。

富山化学の第3相臨床試験の概要

 第3相臨床試験の対象は、非重篤な肺炎を合併した新型コロナ感染症、つまり酸素吸入が必要でなく、身体を動かしている時に呼吸困難を自覚する肺炎の患者のみを対象としています。

 患者さんを一般的治療に加えてアビガンを投与する群とプラセボ(偽薬)を投与する群に分けて、28日間でアビガンの有効性、安全性を評価し、目標とする症例数は96例ということです。

 その間に、体温、酸素飽和度、胸部画像所見の軽快、新型コロナが陰性化するまでの期間を評価する試験です。

藤田医科大が進める特定臨床研究の概要

 PCR検査で陽性となったパフォーマンスステータスが0又は1患者を対象としています。パフォーマンスステータスが0又は1とは激しい活動が制限されるレベルですから、富山化学の第3相臨床試験の対象患者さんとほぼ同様でしょう。二つの群に分けるのは同じですが、違うのは両方ともにアビガンを投与することです。一つのグループでは入院当日から10日までアビガンを服用、もう一方のグループでは入院後6日から15日まで同様に投与するので投与開始遅延群としています。主な評価は6日までのウイルス消失率ですが、11日までのウイルス消失率やウイルス量も評価するようです。

研究デザインがポイント

 本来なら治療者数や死亡者数を評価するのが望ましいのでしょうが、これはかなり困難なために、両者ともに症状の改善やウイルス消失率などを評価基準としています。

 研究を始める前に、そのデザインが重要です。特に薬の効果を判定するためには、より薬の特性が明確になるような患者さんの選択、薬の投与方法そして評価項目の設定が大切です。

 製薬メーカーは薬の承認で利益を得るわけですので、なるべくよい結果が出るような研究デザインをするでしょうし、一般の臨床医師もあまり差の出ないような方法は避けたいところです。

 いま世界各地で、新型コロナウイルスに効果があるだろうという薬が評価されていますが、ある国で効果的だった薬が、別の国では効果がなかったという事態が生じています。これは研究のデザインの差かもしれません。

研究の質の高さ

 新型コロナウイルスのように突然出現した病気に関しては、評価の定まらないが、効く可能性がある薬を現場の医師が使用することがあります。時にある薬を投与したら急速に症状が改善することがあります。そういう場合は症例報告がなされます。

 ただ、その患者さんはその薬でなくても改善していた可能性もあるので、標準的な治療に強い影響を及ぼしませんが、研究者や治療者のヒントにはなります。ある程度、良いかもしれないという薬があれば、今回のように臨床治験や特定臨床研究が開始されます。

 薬の治験の場合は二重盲検法という方法の質は高いと言われています。二重盲検法とは医師も患者さんも今投薬しているのが本物かどうかわからないという方法です。もし医師は実薬が誰に投与されているか知っていれば、報告書を書く際に「本物だから効果があるはず」というバイアスが生じます。患者さんが知っている時も同じでしょう。

 二重盲検法では「Aの一番」などの記号で割り付けされているので、医師も患者さんも実薬かプラセボかわからないので二重盲検と言います。藤田医科大の研究の場合は非盲検となっています。

評価が難しいわけ

 新型コロナウイルスは高齢者にとっては致死率の高い病気ですが、若い人にとっては軽症や無症状の方が多いのが特徴です。良く報道されているように約8割の方が特別な治療をすることなく改善するようです。8割の患者さんが無治療で改善する病気に対する薬の効果を判定するのはものすごく難しいことです。

 治療効果に関してよいデータを出すのは困難だと考えて症状の改善やウイルスの消失の期間を主な評価にしたのはよくわかります。しかし、この差を出すのもかなり厳しいように思います。

 少しの差しか出ないときは、対象となる患者さんの数を増やすことで差が出る可能性はありますが、幸いなことに現在は新規感染者がかなり減っていますので対象患者さんを増やすのも厳しいでしょう。

日本医師会の有識者会議の提言

 このような経過から5月18日に日本医師会の有識者会議は「アビガン」を念頭に、拙速に特例的な承認を行うべきではないと提言しています。国民の皆さんからすると希望に水を差す発言のように聞こえるかもしれません。

 しかし、科学的根拠の不十分で、催奇形性などの深刻な副作用がある薬を自然に回復する患者も多い新型コロナウイルスに拙速に承認することを危惧したことからの提言だと思われます。

 承認までの経過を我々も十分に見守る必要があると思います。