命の選択を迫られた集中治療室の医師に必要な支援は法律の整備

イタリアの集中治療室(写真:ロイター/アフロ)

集中治療室の医師にのしかかる二つのプレッシャー

 新型コロナウィルスの蔓延によって集中治療室が要崩壊寸前まで追い詰められています。集中治療室で頑張っている医療関係者を市民の皆様が応援していただくのは大変ありがたいことです。

 現在、集中治療室で働いている医療関係者には2つのプレッシャーがあります。1つは自分が感染してしまうのではないかという不安です。これに関しては十分な防御態勢が必要です。

 もう一つのプレッシャーは重症患者さんが増加し人工呼吸器や人工肺(ECMO)などが足りなくなったときに判断する命の選択です。

 人工呼吸器やECMOを装着するかどうかの判断と治療継続しても見込みが厳しい場合に中止するかどうかの判断が辛いと思います。さらに命の選択をした時に、後ほど遺族から訴えられるのではないかと言う心配があります。

医療崩壊の原因となった福島県立大野病院産科の出来事

 15年ほど前に医療崩壊が起こり大きな問題となりました。そのきっかけは2004年に福島県の大野病院で起きた産婦人科のトラブルでした。帝王切開中に大量出血を起こし妊婦さんが亡くなったのは大変悲しい出来事です。しかし当時執刀していた医師が民事訴訟ならともかく、刑法業務上過失致死傷罪と医師法違反の容疑で2006年に逮捕されるという医療関係者にはショッキングな事件となりました。 

 後ほど担当医は無罪になりましたが、これにより少数でがんばっていた産婦人科医が一斉に大きな病院に移ったり、転職したりしました。また同様に同じような立場に置かれる救急医等も小さな施設から引き揚げたり、退職したりしました。

 この出来事をきっかけに産婦人科や救急医療を担当する医師が極端に少なくなり医療崩壊が起きた事は皆さん記憶にあると思います。

震災時のトリアージでも訴えられる

 東日本大震災時、病院に搬送された超高齢者を比較的安全であるとして、緑色のタグをつけて様子を見ていたのですが、後日脱水症で亡くなられました。遺族はトリアージのときの判断が不適切だと担当の病院を訴えています。災害時のトリアージでの判断を訴えられるという事態に日本災害医学会や弁護士等は災害時の医療に関してのトリアージに免責規定が必要と、立法処置を訴えてきました。厚労省は「緊急避難として違法性は問われないのではないか」と立法化には積極的ではありません。

救急医療は訴訟リスクも高い

 当然のことですが救急医は命の危険がある患者さんをたくさん治療します。適切な治療をしても残念ながら亡くなれる方もいらっしゃいます。中には治療が不服として訴える方もおられるので、救急医はいつも訴訟リスクと隣り合わせで仕事をしなければなりません。

 新型コロナウィルス感染症が蔓延し長期化すれば、集中治療室で命の選択を迫られる場合があるかもしれません。適切に判断しても後で訴えられることがあれば、リスクを恐れて離職する医療関係者が続出する可能性があります。

集中治療室の医療関係者を守るためにはもう整備は必要

 いくら医療機器や防御服を整備しても肝心の担当する医療関係者がいなくなれば取り返しのつかない医療崩壊となります。

 もちろん市民の裁判権は保証されることは前提です。市民の皆さん方の医療関係者の応援はありがたいですが、このような緊急時に苦渋の判断をした医療関係者を守る法整備に関しても考えていただきたいと思います。