医療崩壊に備えて皆さんに考えてほしい「命の選択」

イタリアの集中治療室(写真:ロイター/アフロ)

まずはオーバーシュートの予防が肝心

 新型コロナウィルスの感染者が爆発的に増えた時の医療崩壊を避けるために緊急事態宣言が全国に発令されました。今、感染症専門家が1番恐れるのは医療機関が壊滅的なダメージを受けるオーバーシュートで、なんとしても阻止する必要があるのは充分理解できます。しかし、不幸にもオーバーシュートが起こった時にはどうすればよいのでしょうか?

まずは受け入れ先を増やすこと

 大都市圏では新型コロナウィルスの感染者で無症状や軽症の方はホテルや自宅などで隔離するようになりました。自宅での隔離に関しては一人住まいの方は食事などの手配が大変でしょうし、家族のいる方は感染のリスクがあるのでホテルなどに滞在するほうが良いと思います。

 大阪では十三市民病院を丸ごとコロナ感染症病院にする計画が進んでいます。そこでは中程度の患者さん、具体的には呼吸困難があり、酸素投与が必要、しかし、人工呼吸器までは大丈夫というイメージです、を受け入れるようです。

 そして、指定機関病院は救急の受け入れを停止し、空床が目立った病棟を合併し、感染症病棟を増やして重症者に対応する予定です。そして、重症患者のケアに慣れている余剰の医療関係者が対応するようです。

軽症だからと油断しないで

 ホテルなどで待機している人も油断は禁物です。指定されたホテルには看護士さんが常駐され、医師の診察もあるようですが、呼吸困難がひどくなれば速やかに指定病院へ搬送することが大切です。

 肺の換気機能が徐々に落ちて、突然呼吸困難が現れるように思いますが、肺には予備能力があるので、自覚症状だけに頼ると手当が遅くなる恐れがあります。肺の換気状態を観察するには皮膚を通して動脈の酸素飽和度がわかるパルスオキシメーターという器具があります。これはネット等でも販売されていますし、集中治療室では必ず装着します。

 正常の方は96~99%位を示しますが、喫煙者は若干低く出ます。このようなモニターができれば自覚症状があまり変わらなくても、動脈の酸素飽和度が悪くなれば早めに治療を開始することができるでしょう。

機器の整備と人材確保が課題

 人工呼吸器等の機器の不足以上に深刻なのは集中治療室の医療関係者不足です。日本呼吸療法医学会,日本集中治療医学会, 日本救急医学会の3学会合同 日本COVID-19対策ECMOnetの有志の先生は集中治療の経験が少ない医療関係者に向けて人工呼吸教育ビデオを作成し、公開しています。

 今後はある程度人工呼吸器を扱ったことのある、比較的余裕のできた一般内科医や外科医にも新型コロナウィルス患者さんの治療を要請されるかもしれません。ある大学病院では眼科の医師にもPCR検査をするようにとの指令が出ているようです。

医療関係者の感染予防が最重要課題

 さらに重要なのは医療関係者の感染を制御することです。防御服などが足りなくなっているために、大阪ではレインコートの寄付を一般に呼びかけたところ早くも100,000枚の寄付が集まったようです。

 もちろん、速やかに防御服やマスクなどを専門医療機関に供給することが最重要課題だと思います。新型コロナウィルス感染症患者さんの最前線でケアをしている医療関係者は大変でしょうが、大阪のように行政がバックアップすることによりある程度スムーズな診療ができるのではないでしょうか?

ECMOに過大な期待をしないでほしい

 それでも重症患者さんが爆発的に増えた場合は人工呼吸器や人口肺(ECMO)が足らなくなるでしょう。人工呼吸器はある程度余裕があるとは思いますが、ECMOに関しては機器も少なく、管理できる医療関係者が少ないなどで、いくら機器を増やしても使用できるのは限られた人になるでしょう。その為にその適応に関しては十分な配慮が必要です。

 世間では最後にはECMOが何とかしてくれるとの認識があるようです。実際、日本集中治療学会が4/12の集計ではこれまでのECMO 治療患者 75 名中、回復 25名、死亡 11 名、治療継続中 39 名です。患者さんの年齢や合併症の有無に関して私が調べた限りわかりませんでした。ざっくりと良くても半数が回復するとの認識があるようですが、出血。血栓や感染症などの危険も増えますし、長時間の使用は厳しいのです。

命の選択は限定的に行われている

 あまりにも患者さんが爆発的に増えると、重症者も増えてECMOや人工呼吸器などをどの患者さんに優先すべきか?という「命の選択」に迫られる場合がおきるでしょう。

 一般の方にはなじみが少ないでしょうが、心臓移植は65歳、腎移植も70歳が一般的に適応限界年齢とされています。ECMOの適応に関しても日本集中治療学会が「COVID-19急性呼吸不全への人工呼吸とECMO 基本的注意事項」を公表しています。以下はその抜粋です。

ECMOの適応については慎重かつ総合的に判断すべきとされ、具体的にはECMOの禁忌・適応外として

・不可逆性の基礎疾患  ・末期癌.

・慢性心不全、慢性呼吸不全、その他重度の慢性臓器不全の合併は予後が悪い.

・年齢65-70才以上は予後が悪く,一般的には適応外. とされています。

 つまり深刻な合併症がある方や70歳以上のECMO使用には慎重であることとされていますが、世間ではどれくらい周知されているのでしょうか?ECMOの撤退(中止)に関しても肺傷害の進行 により肺の繊維化が抑えきれない場合や、不可逆的な多臓器障害を来した際には、複数医師を含めた医療チームでの終末期判断が必要となる場合がありますとしています。

残念ながら死亡者・重症者の大半は高齢者

 東洋経済の新型コロナウィルス国内感染の状況の年齢別感染者数から計算すると、全死亡者184名中、80歳以上は94名(51%)、70歳代は56名(30%)、60歳代は21名(11%)です。重症者と死亡者を合わせても、80歳以上、70歳代共に約30%、60歳代は21%です。このように、残念ながら高齢者が重症化しやすく、死亡率が高いのは皆さんご承知の通りです。おそらく、我々高齢者は若く見えても免疫力は確実に衰えているようです。

医療関係者を励ましていただく前に考えてほしいこと

 世界各地では第一線で頑張っている医療関係者を励ます運動が広がっていることに関しては、うれしく思います。多くの医療関係者は治療に関しての過酷な業務に関してはある程度受け入れる心の準備はあると思います。しかし、「命の選択」に関してはかなりのプレッシャーがあるのではないでしょうか?

 以前、震災時のトリアージに関しても「緑」タグをつけられた超高齢者がその後死亡したとして、家族が当時対応していた医療機関を訴えています。ECMOに過剰な期待がかかれば、装着時や撤退時にトラブルが起きることは予想されます。トラブルを少なくするには一般市民、特に70歳以上の高齢者に関してはECMOの適応や撤退に関して理解してもらい、いざという時のことを家族と話し合ってほしいと思います。