新型コロナ特措法案で緊急事態宣言を出す前に考えて欲しい直接・間接損失

WHOが緊急事態宣言(写真:ロイター/アフロ)

緊急事態宣言を出す前に考えてほしいこと

 先日政府は新型コロナ特措法案を閣議決定いたしました。改正案が成立し、緊急事態宣言が発令されば私権が制約される可能性があります。このような未知のウィルスが蔓延した場合には個人的にはある程度の私権が制約されるのは仕方がないと思います。

 しかし、その前にもう少し考えてほしいことがあります。それは新型コロナウィルスによる直接損失と間接損失の関係です。9日の専門家会議でも長期化する可能性が示唆されています。長期化すれば経済が壊滅的打撃を受けますし、緊急事態をいつ解除すればよいのかの科学的根拠も不明です。

直接・間接損失とは?経済学者の意見も聞いてほしい

 直接損失は感染して発熱などで学校や会社にいけなくなることです。そしてもっと重大な被害は命に関わるような状況になった時です。医療経済学的には病院での支払いや病院までの交通費等を直接経費(損失)として考えます。しかし、病気によって仕事ができないなど本来健康であれば得られる利益を失うことを間接経費(損失)といいます。この間接経費(損失)は働いている方々は大きく、学生や年金生活をしている方は少ないのが一般的です。

 医療経済学では標準(基準的)賭け法時間得失法などの健康の効用の測定法が既に知られています。また、病的状態、障害、早死などの疾病負荷を総合的に示す障害調整生命年(DALY)も公衆衛生の分野で使われています。今回はそれぞれについては詳しくは述べませんが、人の命を経済的手法に換算するのはけしからんと憤慨される方もいらっしゃると思います。

 しかし、このような非常事態になった場合には直接的な損失と経済的な損失を冷静に勘案して、緊急事態宣言を発動していただきたいと思います。人の命は金に換えることができないので経済的な問題には目をつぶろうと言う風潮があります。そのために経済の専門家は意見が言いにくい状況になっていると思います。

経済が悪化すれば自殺者が増える

 ここからは自殺問題の専門家としての意見として聞いてください。1998年に自殺者が突然3万人を突破して、大きな社会問題となりました。自殺対策基本法が成立し、医師や弁護士、経済問題の専門家などが協力して対策に当たり、最近ではようやく自殺者が2万人を切ってきました。

 自殺と経済の関係は広く研究され、日本では特に失業率などと自殺率はかなり強い関係があると言われています。しかも働き盛りの男性にかなり大きく関係しています。経済が悪化することによりいろいろな問題は生じますが、男性については失業率が1%上昇すると100,000人あたり約25人の自殺者が増加すると言うデータもあります(Chen Choi,Sawada 2009)。緊急事態宣言で経済的なダメージが大きくなり、それを充分補填することができなければ、間接死が直接死を上回る可能性もあります。

 現在のところ、新型コロナウィルスはMARS、SARSやエボラ出血熱のような高い致死率ではなさそうとだと次第に明らかになっています。何度もコラムで繰り返していますが市中感染率を早急に把握し、正確な感染率・発症率そして死亡率のデータをとり、解析することが重要です。

死亡データの扱いに注意

 死亡率の算出においてストレスの専門家としてアドバイスがあります。クルーズ船や武漢の初期の段階では未知のウィルスが蔓延し、強制的な隔離をされたために患者さんだけではなく医療関係者も極度のストレスに襲われた可能性があります。「ダイヤモンド・プリンセス」で乗客の心のケアに当たった災害派遣精神医療チームはかなりのストレスがあったと報告しています。

 実際にストレスが多くの病気を重症化させる事は医療関係者なら理解はしていますが、厄介なのはストレスを数値化できないことです。時間の経過とともに新型コロナウィルスの正体や対応方法が次第に分かってきますので、死亡率の算定も初期の段階、ある程度経った段階、そしてある程度落ち着いた段階に分けて整理し、分析しないと判断を誤ることになります。

 そのためにはただただ死亡者数を発表するのではなく、経時的な分析も大切です。初期には重症者を中心に検査が行われ、ストレスも大きかったようですので、少し落ち着いて健常感染者の数も増えてきた現在とは違う可能性があります。

政府首脳には相互的な意見を聞いたうえでの英断が求められます

 政府にはいろいろな意見が届いていると思いますが、感染症対策だけでなく経済的な観点を持った意見も率直に聞いて判断をしていただきたいと思います。感染症の専門家はなるべく早く市中感染率、発症率、死亡率などのデータを収集し、分析してください。そして、日本だけの問題ではないので、WHOとしっかりと協議をすることが大切です。今、欧米は一月前の東アジアと同じくパニックになっていますが、幸か不幸か中国・韓国・日本ではある程度のデータが蓄積されています。政治的な対立を乗り越えて3か国が冷静に協議し、判断することが望まれます。