女子力UPや保育園・幼稚園のバザーの陰に「女性は家事・子育て」という圧力

手芸や料理は女子力でしょうか?(写真:アフロ)

女子力とは?

 最近は「女子力UP」という言葉をよく見かけます。「女子力UP」とは女性としての魅力を高めようという意味でしょう。男性も女性も自身の魅力を高めるのは悪いことではありません。しかし、女子力という意味が料理・手芸・掃除や洗濯など日常の生活力を高める意味で使われることがあります。私が男女共同参画審議会の委員をしている地区で先日「女子力UP」 を表題にしている講座に疑問の声が寄せられました。その講座の内容は料理や手芸・整理整頓・美容に関するものでした。美容はともかく一般の家事を磨くのが「女子力」とすると、その裏には「家事は女性がするもの」という古典的な役割分担意識があり、男女共同参画推進にはそぐわないのではないか?とのご意見でした。

 もっともなご意見で早速「女子力」をそのような場では使わないように指導することにいたしました。特に公共機関が「女子力」と題して家事一般のスキルアップをすることは男女共同参画の視点から好ましくないと思います。私自身もこの「女子力」という言葉には以前から違和感を抱いていましたが、このようにはっきりとご指摘いただくことで根深い問題がまだ存在するのだと再認識いたしました。

 施設も講座に来るのは高齢者ばかりで、若い人たちにも参加してほしいとの思いで「女子力」を使用したということです。実際、女子力UP講座にしたところ若い参加者が増えたと言いますから、言葉の力は大きいようです。

 「女子力UP」講座には男性が参加できないという問題もあります。講座では男女とも参加可能としていますが、さすがに「女子力UP」講座に参加する男性はあまりいないようです。私は全くいないのかと思っていたら数人の男性が参加していたというので驚きました。

料理や手芸・洗濯などの家事は女子力ではなく男女とも身につけるべき生活力

 今回問題になった「女子力」のうち美容や個性を磨く以外は家事全般ですので本来男女ともに身につけるべきものです。つまりほとんどの「女子力」とネーミングされているのは「生活力」と読み替えることができます。このような生活力は主に小中学と高校で教育されていますが、受験にはあまり役に立たないので疎かにされている傾向があります。

 私が学生の時には男性は技術科、女性は家庭科と別のカリキュラムでした。その後に男子も家庭科の一部、女子も技術科の一部を学習する相互乗り入れを経て、1993年に男女同一カリキュラムになりました。つまり1970年後半までに生まれた男性はほとんど家庭科を習わなかった、逆に女性はほとんど技術を習わなかったということになります。つまり40歳後半の男性は家庭科を、女性は技術をあまり学習していなかったのです。男女共同参画の意識が低かった時代に生まれ育ったことや高度成長期からの仕事中心の生活で中高年男性の生活力は極度に低いようです。

 共稼ぎの場合は男女で家事を分担することが多いでしょうから、家事のできる男性は少なくないはずです。専業主婦は現役世代で25%程度と減ってはきましたが、家事を主体的にしている夫は多くはないでしょう。夫が現役で「亭主元気で留守が良い」時はそれでもよかったのですが、定年後に家事全般を妻に任せ「お茶、飯、風呂」と呼びつけていては熟年離婚の引き金にもなりかねません。離婚まで至らなくても妻がストレスから寝込む(いわゆる夫源病)とか、他界すると生活力のない夫は途端に途方に暮れ寿命が縮むというデータもあります。そのために家庭科をしっかり勉強してこなかった中高年男性が生活力を身につけることは大変重要です。

定年男性向けの料理教室は大好評

 定年後男性が生活自立できないと自身の健康だけでなく妻の健康にも影響する恐れがあるので、私は13年前から中高年男性向けの料理教室を開催してきました。当初は4人一組で始めましたが、料理の得意な人が仕切って、初心者は何もわからないまま終わって不評でした。そのために一人で一から十まで調理していただく講座に変えたところ好評で今では定員オーバーで抽選をするくらいです。調味料が多いと自宅で復習のために料理をするのが億劫になりますので、調味料はなるべく一つというシンプルなレシピにしました。関西では各地で私の料理教室を開催していただいていますが、あまりにも開催が多くなったので、料理教室に参加された方を勧誘して、サポーターを養成し、各地に指導に行っていただいています。あまりにも簡単なレシピなので失礼かもしれませんが興味があれば講談社から料理本を3冊出版していますので、見ていただければ幸いです。

 中高年男性対象の料理教室はある意味女性が参加できない逆差別的ですので、最近では料理の不得意な女性向けの講座の開設も考えています。私の簡単なレシピは料理が得意な方には物足りないと思っていたのですが、家事に忙しい女性にも好評です。まあ、女性は一般的に料理が得意という古典的な考え方はやめたほうが良いようです。

裁縫教室で分かった驚愕の事実

 さて、料理教室が軌道に乗ったものですから、今度は裁縫教室を計画しました。ある自治体で昨年開催した裁縫教室はかなり悲惨なことになったようです。テーマは簡単な袋を作ろうというもので、高齢男性と中年女性が集まりました。しかし、いざ始まると針に糸を通せない、玉結びができない、玉結びをしているうちに糸が外れるという負のスパイラルになり、最後まで完成した人がいなかったという悲惨な結果になりました。

 それにショックを受けた職員が今度は私に講師を依頼してきました。料理も素人ですが中高年男性向けに自分でアレンジしてなんとかうまく行った経験があるので、裁縫も実践的でシンプルなもの(ボタン付け、なみ縫い、祭り縫い、穴の繕いなど)にしました。針も糸通しが不要のワンタッチ針を使うことにしました。

 お前は裁縫ができるのかと疑問に思われるかもしれませんが、外科系の医師は縫うことは結構得意です。しかも私の実母は若いときに渡仏し、イブサンローランの弟子?として仕事をしていました。私は若いころから母の手伝いで裁縫をさせられたので、ミシンをはじめ針仕事はある程度できます。

 先日教室を開催したのですがなんと半分は女性でした。参加者の半分は中高年男性でしたが、まさか比較的若い女性がこんなにも参加するとは予想できませんでした(この考えがステレオタイプですが。。。)。幸い我々の簡単な方法で皆さん楽しく技術を習得いただけたのですが、参加した女性に聞くと一様に手芸は苦手(苦手だから参加しているのですが・・)で、保育園や幼稚園のバザーが困るというのです。最近では手作りの作品を要求する施設は少なくなっているようですが、「母親らしさ」を見せるために「手作り」をお願いされる施設もあるようです。

 女性は皆、手芸が好き、得意と思っているのではないでしょうか?これこそが「女子力UP」という圧力に他ならないような気がします。スタッフをはじめ、参加者に聞くとおばあちゃん(実母)に頼んだとかいろいろと苦労しているようです。ネットでそのような悩みを調べてみると「オークションサイトで買えばよい」とか「他の幼稚園のバザー品を買って使った」とか「テキトーでよいでしょう」とお気楽な回答がありました。

 保育園や幼稚園では衣類や持ち物すべてに名札を付けなければなりません。今ではネットで注文すればひらがなの名前をプリントされたシールが手に入り、アイロンで簡単に装着できます。昔は名前を縫い込まなければならなったので大変な苦労です。簡単になったとはいえ、いやむしろ簡単になったので若い人の裁縫の力は弱っているようです。

男も女も生活力アップを、さらにサバイバル力も必要

 さて私は夫源病の予防のために定年後男性に対して料理教室を開催し、現在は裁縫教室まで手を広げています。本当はプロの方が教えればよいのですが、専門家だとつい手の込んだことを教えてしまうので、中高年男性には難しいようです。私の料理教室を卒業すれば専門家に教えてもらうのが良いのでしょう。

 中高年男性の生活力向上にはある程度貢献してきましたが、女性の生活力が低下している印象があります。男女平等という観点から、同じレベルの生活力になるのは悪いことではありませんが、そのレベルが低いのは問題です。そのために今回取り上げた「女子力UP」という言葉が使われ始めたのでしょう。男性と同様に、女性の生活力向上に向けての対策も必要で、男女ともにレベルを上げる必要があるでしょう。そのためには小中高校での家庭科を充実させるとともに、就職前の大学や定年前の企業でも生活力を高める対策が必要かと思います。

 日本は地震や水害などの自然災害が多い国です。強固な防波堤などを作ることも大切ですが、ライフラインが途絶えた時に2.3日何とか生きていけるようなサバイバル術を小学校高学年から身につけることも必要でしょう。電気やガスが止まればお手上げではなく、火をおこし、水や食料を確保するような防災教育も必要ではないでしょうか?9月に入りましたので皆さんで「生活力UP」に関して少し考えていただければ幸いです。