新学期に注意したい不登校・引きこもりの一因となるHSCとその対応策とは?

不登校の一因のHSCとは?(写真:アフロ)

若い時と中年期からの引きこもりは区別して考えたほうが良い

 引きこもりによる様々な問題が明らかになり、特に8050問題と呼ばれる中高年の引きこもりが大きな社会問題となっています。8050問題と言われる背景には学生の時の不登校が引き続き、長い間引きこもりになる例やいったん就職はできたものの様々なストレスで会社を辞めて引きこもりになる例があります。若い時に退職して長く引きこもる場合と、中高年になって疲れ果てた状態で引きこもる場合がありますが、両者は少し区別をしておいたほうがよいのかもしれません。

 若い人が就職して間もなく引きこもりになるのは学生時代からの引きこもりとある程度同じような原因と思われます。40-50歳で会社を退職して引きこもる場合は過重労働やパワハラなどの環境的な要素で多くはうつ病やうつ状態または不安障害が原因のことが多いようです。中年まで仕事をしていたので、結婚して子供がいる方も少なくありませんが、離職したとたんに収入が途絶えて別居や離婚に至るケースもよくあります。精神的に落ち込んで一人で暮らすのは困難なために実家に戻って両親と生活する人も多いでしょう。

男性更年期から引きこもりへ

 私の男性更年期外来には、働き盛りで精神的ストレスから仕事ができなくなって訪れる人が多いです。まだ休職中なら何とか復職できるように我々も頑張るのですが、すでに退職してしまった人が新しい職場を見つけるのは大変です。どちらにしても精神状態を立て直して仕事に復帰することが一番重要であり、何とか定年まで引っ張ることが我々の務めと思っています。定年、あるいは再雇用まで引っ張れば少ないながらも自分の年金でしばらく生活することは可能です。8050問題をはじめ引きこもりの大きな問題は経済活動ができないということでしょう。

子供の不登校・ひきこもりの一因となるHSCとは?

 さらに9月前には子供たちの不登校にも気を付けていただきたい。最近では啓発活動が進み、新学期に無理に子供たちを学校に行かせることが、大きなストレスとなり危険な行動になる可能性があることが周知され始めました。そして不登校や引きこもりの原因としてHSC(ハイリー・センシティブ・チャイルド)という概念が注目されています。一言でいうと周囲の刺激に敏感な子供たちのことで、大人になっても敏感な人はHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)と呼ばれます。HSCもHSPも病気ではありませんが、勉強や仕事などの社会生活が辛くなる場合があります。特に敏感なのは五感と気遣いです。

 HSCは人の多いにぎやかな場所が苦手、光やにおい・味に敏感で、人の気持ちを察しすぎるという特徴があり、幼い時にはちょっとしたことで泣いたり、睡眠が浅かったりします。気配りが上手で、繊細さがあることからうまく自分の感情をコントロールできれば社会でも優れた才能を発揮する可能性があります。性格なので病気ではありませんが、医師の診察を受けると発達障害や不安障害と診断されることもあります。

 HSCやHSPはエレイン・N・アーロン博士が提唱した概念です。日本では2015年に「ひといちばい敏感な子」(明橋大二訳)として紹介され、その後色々な専門家がHSCに関する本を出版しておられます。病気ではないので診断基準というものはありませんが、23項目のチェックリストなどが紹介されています。この23項目には少しわかりにくい設問もあるために、私が患者さんなどの聞き取りから、少し簡単なチェックリストを作ってみました。このチェックリストは特に広く認められていないものですのでこんなものかな?と考えていただければ幸いです。(8/19の関西のおはよう朝日でも紹介されました)

1 すぐにびっくりし、驚かされるのが苦手

2 服の布地がチクチク感じ、縫い目や服のラベルが気になる

3 しつけは、怒るよりも、優しい注意のほうが効果的

4 親や友人の心を読んで気を使う

5 においや音・光・痛みに敏感

6 慎重で、大きな変化にうまく適応できない 

7 細かいことに気づき、よく質問する

8 服がぬれたり、汚れるとすぐに着替えたがる

9 大勢より、一人で静かに遊ぶのを好む

 半分以上当てはまればHSCまたはHSPの傾向があるかもしれませんが、あくまでも目安と考えてください。まだ十分に検討していませんが私の男性更年期外来の患者さんの約半数が昔はHSC的、いまもHSPであると言います。またそのようなご両親から引きこもりや不登校の子供たちの相談にも応じてきましたが、かなりの子供たちがHSCに該当します。HSCは遺伝するというわけではありませんが、親子の性格が似るために、親子で生きづらい状態になっている人は少なくありません。

現代社会では敏感な人は生きにくい

 昔からHSC/HSPの方はおられたと思いますが、最近大きな問題になってきた背景はなんでしょうか?色々な要素があると思いますが、私は世の中が情報であふれかえり、良いことではありますがコンプライアンスが重視されきちんと生きていくことが重要な時代になってHSC/HSPのような敏感な人が生きにくくなったように思えます。特に過敏なだけで社会生活に支障がなければ問題はありませんが、少し人と違っているなと感じた時にはまず本人や保護者がHSCを自覚し、先生や友人など周囲の人に理解してもらうことが必要です。周囲からあまり理解されないと、学校に行くことや友人関係に疲れて不登校や引き籠りになる可能性もあります。自分がHSC/HSPとわかるだけで気が楽になる人もいます。

 多くの方がHSCやHSPに対しての知識があり、それなりの対応をしていただければ大きな問題は起こりませんが、それはあまり簡単なことではありません。特に小学生くらいの子供たちにそんな配慮を求めるのは難しいことです。そのために友達や先生の心無い発言や態度に心が傷つき不登校にいたる敏感な子供たちは少なくありません。言った本人ですらいじめと意識しないような言葉でも心が傷つく子供たちはいます。引きこもりや不登校の原因には明確ないじめは比較的少なく、友人関係や体調不良が大きな原因と言われています。実際に調査をしても明確ないじめがない場合も多いですが、友人の何気ない言動に敏感な子供が傷ついている場合があります。

HSCを理解する以外の対応策とは?

 周囲の理解を十分得ることができないときは対応の方法はないのでしょうか?以下の対応方法は私の大学での研究成果と臨床の経験からのお話で一般的ではないことはご了解いただきたいと思います。

 非常に敏感ということは少し鈍感になれば楽になるはずです。性格的に鈍感になるように指導するのは結構大変ですので、私は少し鈍感になる薬を処方することしています。そんな薬はあるのでしょうか?それは私もよく服用しているベータ遮断剤です。ベータ遮断剤の主な適応は高血圧ですが、中には頻脈(脈が速い)、片頭痛、本態性振戦(手先が細かく震える)などにも効果が認められている薬もあります。HSCの方は大概上記のような症状がありますので、処方することは可能です。ただ気管支喘息のような呼吸器の疾患が疑われる場合は使用できないこともあります。向精神薬ではないので依存の心配もほとんどありません。薬である程度過敏な感覚が緩和すると学校や社会で過剰に気を遣うことがなくなり症状が改善することが多いです。視覚や聴覚は10歳代で、味覚や嗅覚も20歳代で、鈍感になりますので、多くの方は年とともに薬を必要としなくなります。

 HSCは豊かな感性や思いやりの心で社会に貢献できる可能性を秘めていますが、引きこもりや不登校が長期間続くと社会生活が困難になる恐れもあります。HSCそのものは病気ではありませんが、社会生活に支障をきたすのであれば専門家に相談する(実際は理解できる専門家が少ないのも問題ですが・・)ことも考えてもよいのではないでしょうか?