なぜ引きこもり・8050問題は深刻化するのか?高額な引きこもり支援ビジネスを一概に非難できない理由

 6月に引きこもりと思われる中年男性が起こした無差別殺人事件では、「一人で死んでほしい」とのコメントに様々な論議が起きました。被害にあった家族にとっては当然の感情かもしれませんが、引きこもり支援団体からは慎重な対応を望む声が上がりました。その事件に続いて引きこもっていた長男が周辺住民とトラブルになって戻ってきた後に、小学校の運動会の騒音に殺意を示したことに危機感を覚えた父親が殺害した事件がさらに波紋を起こしました。これらの事件を契機に引きこもりや8050が深刻な社会問題として一般の方にも知れ渡るようになりました。

深刻な8050問題

 内閣府の調査によると中高年(40-64歳)の引きこもりが推計61万3千人いるとされ、15-39歳の引きこもりの推計54万1千人よりも多いことがわかりました。関係者の感覚ではもっと多いのではないかともいわれています。中高年の引きこもりが多い背景には、就職氷河期、リストラなどの要因があげられています。中高年の引きこもりには大きく二つのタイプがあります。一度社会に出てから引きこもるタイプと社会に出る前の若い時(学生時代)からずっと引きこもっているタイプです。一度社会に出てから引きこもる原因は、業績至上主義、過重労働やパワハラなど社会のストレスからうつ病や不安障害などで退職し、その後なかなか復帰ができない場合が多いように思えます。若い時からの引きこもりは学校での人間関係やいじめなどが要因と言われていますが、実は原因がわからないことも多いのです。

引きこもりは病気なのでしょうか?

 中高年の引きこもりは対人関係や過剰労働が原因のうつ病や不安障害が背景にあることはよく経験しますが、ストレスのない状況においてはほとんど大きな問題はありません。しかし、仕事など社会と接する時に大きなストレスを感じて結局引きこもってしまう場合が少なからずあるようです。若い人の場合も自閉症スペクトラム障害や統合失調症のような精神疾患も原因として考えられますが、私が接している患者さんではそのような疾患はかなり稀です。どちらかというと神経質で過敏ですが、特にこれと言った精神疾患が背景にある人は少ないように思えます。社会に出にくいことから社交性不安障害などが当てはまる方も少なくありませんが、最近注目されているHSCやHSP(ハイリー・センシティブ・チャイルド、またはパースン)という性格が背景にあることが多いように感じます。HSCやHSPに関しては別のコラムで詳しく解説したいと思いますが、要するに非常に敏感で気を使うがあまり、多くの人と接するのが苦手になり、引きこもるようになるのです。最近はHSCやHSPがよく話題になっていますので気になる人はネットなどでチェックしてみてください。結構当てはまる人も多いと思います。実は私もある程度当てはまります。つまり引きこもりという病気があるわけではなく、そのような状態であると考えてください。

引きこもりはだめなこと?

 社会との接触が少なくなると何かと不自由な生活になりますので、保護者は「引きこもりはだめなこと」と考えがちです。確かに引きこもることで一般的に収入はなくなり、周辺住民との最低限の約束事も守れずにトラブルになる場合もあります。しかし、ほとんど家にいて株の取引きやソフト制作で十分すぎるほどの経済活動をしている人もいます。家族にとっては引きこもって、不登校になったり、社会と距離を置くことが大きな問題と考えるばかりか、恥ずかしことだと感じる人が少なくありません。この感情が引きこもりがなかなか解決しない大きな問題だと私は考えます。特に日本人は普通であることを大事にしようとしますので、多数派にいることで安心します。今でこそLGBTは社会的に認知され、少しは生きやすくなりましたが、当事者の方たちは大変つらい思いを抱えて生きてきたことでしょうし、今でも少なからず偏見は残っています。

 同じような考え方をしている男性が中心となって高度成長期を引っ張ってきましたが、グローバル化が進む中で、多種多様な考え方や視点が求められ、「ダイバーシティ」という概念が広がりました。そのような流れの中で「引きこもり」も同様の視点を持って考えるべき時が来ているように思えます。

引きこもりの何が問題なのでしょう?

 引きこもりの問題は、経済的活動があまりできていないことのように私は感じます。前述したように株の売買やプログラム作成などで生活費を稼いで、他人に大きな迷惑をかけていなければ何の問題もないと思います。経済的活動ができていない方は「お金」に強く執着してしまいます。現在も将来も収入の当てがないとなると不安を強く感じて「お金」に執着する気持ちは理解できます。そのために私の診察の目標は「ある程度の経済的活動」です。保護者の方には「引きこもっている人のゴールはアルバイトができること」と思ってくださいとお話しています。もちろん肉体的・精神的な問題からアルバイトすら困難な方もおられるでしょう。その時は各種の社会保障制度を利用することも必要になるでしょう。親にある程度の資産があって、高齢化した時には早めに弁護士や司法書士に相談して「成年後見人制度」などを利用して、引きこもっている方を経済的に安心させることも必要だと思います。

引きこもり支援の困難さ

 引きこもりを恥ずかしい問題ととらえずに、主に経済的な問題をどうするか?という視点で支援をしていくことが私は望ましいと思います。しかし、現実的に引きこもっている人に就労してもらったり、後見人制度を利用してもらうことはかなり難しいことだと感じます。対人関係に疲れて引きこもっている人が多いために、容易に面談をしていただけません。そのために専門家は一様に辛抱強くコンタクトをとることが大切だと力説しています。実際に何度も自宅を訪問している専門家や支援団体の方もたくさんおられます。私も、今のところそのような方法しかないのではと感じています。

 専門家に早く相談することも大切ですが、私のかかわっているケースのほとんどがすでに専門家に相談しています。相談されるところによって対応はまちまちかもしれませんが、何度相談しても全く状況が変化しないことから、出口のないトンネルに入ったような気持ちになります。最初は引きこもり本人も相談されたようですが、これと言った解決方法がないために「どこに相談しても同じ!」と考え、我々の面談を拒否されます。そのために、最初に相談に応じた方の責任は重いですが、いくら専門家と言っても簡単に解決する妙案はありません。病気が疑われる場合は医療機関を紹介することもできますが、多くの方が特に病気を思わす状態ではありません。そのために、辛抱強いカウンセリングが必要となりますが、埒が明かないために次第に相談から遠ざかるようになります。そのために保護者の方が定期的に集まる会を主宰している民間団体も沢山あります。

支援団体の運営は苦しい?

 ネットで探せば引きこもりの支援団体はたくさんあり、専門家も色々なアドバイスをしていますが、事態は深刻化する一方です。あまり語られていませんが私は支援する方の経済的な問題が大きいように思えます。辛抱強い支援が必要なことは言うまでもありませんので、専門家が定期的に家庭訪問や電話で本人とコンタクトを取るようにしますが、すぐにコンタクトが取れる例は稀で、長期化します。対応する方の辛抱強さも大事ですが、全く収入にはなりません。支援団体では保護者から会費をいただいたり、補助金を申請したりしていますが運営はどの団体も厳しいでしょう。熱心な専門家が頻回にコンタクトを試みられていますが、専門家の多くは大学などの教育職です。給料は大学から出て、引きこもりが自分の専門であるのでフィールドワークとして熱心に仕事をされています。熱心に学生たちとサポートされている姿には頭が下がりますが、いざ大学を離れて民間で同じことをするのは経済的な問題からかなり困難です。同じような仕事・研究を大学でされていた先生が、退職して同様の方法で活動を継続していると「経済的にしんどい。大学だからできたことだ!」と今までの自分の活動を一般化できないことを悔やんでおられました。

 では公共団体が行えばいいではないか?と思われるでしょう。多くの都道府県は既に引きこもりの専門窓口を設けています。一般的なアドバイスや適切な団体を紹介していただけるとは思いますし、時には熱心に担当していただける職員さんもおられるでしょう。公共団体の場合は定期的な移動がありますので、新しい担当者に変わった時は折角築き上げた信頼感を一から構築しなければなりません。また、熱心な職員さんが体力的・精神的に参ってしまう場合もあります。このような様々な理由から引きこもり問題の解決が困難であると私は感じます。

医療者のかかわりの重要性と問題点:高額な引きこもり支援ビジネスを一概に非難できない理由

 病気のために引きこもっている人には医師の診察は有効ですが、多くの場合はこれと言って問題はなく、どちらかというと引きこもりによるうつ状態や不安感が問題となります。またイライラするとか寝られないなどの問題がある場合は医師の処方する薬が有効な場合もあります。たとえ、優秀なカウンセラーの方でも本人がイライラしたり、うつ状態になっていては十分な改善効果は得られませんので、医師の診察と組み合わせることが重要だと思われます。思春期外来を立ち上げて不登校や引きこもりに対応していただける精神科の先生も増えてきましたが、医師やスタッフが熱心に家庭を訪問していただけることは稀です。当たり前ですが、医師は診療をして料金をいただきますので、診察が始まるまでは全く収入にならないのです。引きこもりの方と本気でかかわるためには継続的なかかわりとそれに伴う費用が必要であることは間違いありません。それが保証されない限り本人・保護者や支援者のかかわりが長期間続かなくなり、長いトンネルに入り込むように思えます。そんな時に、ネットで見つけた自立成功率が高い支援団体に藁をもつかむ思いで相談に行く保護者がいても不思議ではありません。辛抱強い訪問でも全く反応しない、暴力をふるうなど切羽詰まった保護者が自立の可能性が高いという支援団体を頼るのは無理もない話です。私自身はそのような支援団体とかかわったことはありませんが、ある程度説得の後に自立支援の施設に連れていく、高額な費用を請求するなどの問題点がマスコミで指摘されています。このような方針は1980年前後に大きな問題となった引きこもり支援の戸塚ヨットスクールと重なるものを感じます。主催者の戸塚氏は傷害致死で有罪となり、服役の後にまたヨットスクールを再開しています。確かに死亡者まで出すやり方に批判の声も多かったのですが、意外なことに擁護する声も少なくありませんでした。少し乱暴と思われる方法でも少なからずの人が改善しているのも事実でしょう。マスコミで報道される費用は少し高いと感じますが、辛抱強い支援を期待するならある程度の費用は必要でしょう。先般の事件を受けて、政府も何らかの対策が必要であると感じていると思いますが、本当に実効性のある対策にするためにはかなりの予算処置も必要かと思います。