スーパーボランティア:尾畠春夫さんに学ぶリタイア男性の生き方

(写真:アフロ)

 山口県周防大島町で8月12日から行方不明になっていた2歳の男児が15日にボランティアで捜索に加わっていた大分県在住の尾畠春夫さんに発見され、無事に母親のもとに届けられたことは、猛暑にぐったりとなっていた国民に久しぶりの明るいニュースでした。

爺さんに始まり爺さんに終わった救出劇

 爺育を推進する立場で見守っていましたが、無事に発見されて安心したと同時に救出した尾畠さんの行動力に驚かされました。報道からすると一緒にいた祖父にちょっと油断があったようです。同じような年代の孫がいる立場から思うと、3歳児と2歳児の二人を慣れない祖父が連れて行くのは若干危険だったかもしれません。今回のように祖父が家から約400メートル離れた海に二人の孫を連れて行こうという気持ちは、全てを祖母や母に任せきりにする祖父に比べると素晴らしいと思います。しかし、100メートルほど行ったところで行方不明になった理稀ちゃんが「行きたくない」とぐずったので、一人で引き返したのが発端です。祖父もある程度まで見守っていたのでしょうが、残った孫も3歳ですのでそれほど聞き分けが良いとも限りません。

 二人がぐずって混乱することは私もよく経験することです。そんな時も一人だけに集中すると、もう一人を見逃す可能性があるので注意が必要です。逆に3歳児をその場において、理稀ちゃんを連れて帰るもの危険です。面倒でしょうが、二人を連れて、いったん帰って理稀ちゃんを預けて、再び海に向かえばよかったのでしょう。しかし、現実はそう簡単にはいきません。家に帰るという選択をした時点で、海を楽しみにしていたお兄ちゃんは不平を言うでしょう。時には座り込み、泣き出すかもしれません。これが複数の幼児を抱えた時のまた裂き状態です。二人にぐずられると慣れない祖父はパニックになり、判断を間違う可能性もあります。私も何度も大変な目に合っていますのでよく理解できます。幼児の数が増えるに従いこのようなリスクが大きくなるのは当然です。もし、理稀ちゃんが無事ではなかったら、悲しみとともに家族内で大きな亀裂が生じていたかもしれません。それを救ったのが理稀ちゃんの祖父よりも一回り(12歳)上の尾畠さんだったのです。今回はまさに爺さんに始まり爺さんに終わった救出劇でした。

見直した方が良い高齢者の定義

 孫を見失った方も尾畠さんもお爺さんと呼ぶにはまだまだ若々しいので失礼ですが、お二人ともお孫さんがおられるということは共通しています。私も孫がいるということでは爺さんですし、実際に保育園のボランティアでは“お爺ちゃん”と呼ばれています。

 平成29年10月1日の総務省のデータによると65歳以上人口は約3515万人と前年に比べ約56万人の増加となり,その割合は27.7%で過去最高でした。75歳以上人口は約1748万人と前年に比べ約57万人増加しました。一方15歳未満人口は約1559万人と前年に比べ約19万人減少し,その割合は12.3%で過去最低でした。これが言わずと知れた日本の大きなリスクである“少子高齢化”です。

 内閣府が2014年度に行なった「高齢者の日常生活に関する意識調査」によりますと自分が高齢者であると考える人の割合は65歳~69歳で24.4%、70歳~74歳で47.3%でした。75歳~79歳でようやく66.2%と半数を超えますが、逆に4人に一人は高齢者ではないと感じているようです。85歳以上の6.2%が高齢者ではないと感じているのには驚きです。そのために日本老年学会/日本老年医学会では65~74歳は「准高齢者」と位置付け、仕事やボランティア活動といった多様な社会参加を促す提案をしています。

高齢男性は家庭・社会のお荷物?

 高齢者の男女比は若い時は男性の方が若干多いのですが、60歳前後から女性の方が多くなり、80歳以降になると急激に女性の割合が高くなります。それでも60-80歳くらいの80-90%は男性です。しかし、我々の講演会やボランティアに参加される方は圧倒的に女性が多いのです。

 確かに60歳以降も仕事をしている男性も多いので、平日の講演会やボランティアに参加できないかもしれませんが、2017年の調査では65歳以上の就業者は男性483万人、女性324万人で人口比にすると高齢男性の約32%、女性は約16%です。これは超高齢者も含めての数字ですので、元気な男性の半分近くは何らかの仕事をされているようです。それでも仕事以外の社会活動に関わっている男性は少ないと感じます。

 ではリタイア男性は何をしているのでしょうか?リタイア後の男性の多くは社会活動から離れ、家に引き籠りがちになります。四六時中家にいると妻が嫌がるのでしぶしぶ出かけ、ジム・図書館・公園などで過ごす人が多いようです。ジムでは競技大会に出るような目標もなくひたすら体を鍛えています。図書館に来られる高齢者は教養を身につけるというよりは、新聞を隅から隅まで読破し、次の新聞が誰かに読まれていると図書館の職員に苦情を言うようなトラブルが多いといいます。

 公園のベンチの真ん中で所在なく座っている高齢者もよく見かけます。一人ぼっちで、仲間もなく、会話もありません。あまりにも長く座っていると多くの人が利用できないことにもなります。このように我々高齢男性は下手をすると家庭でも社会でもお荷物になってしまいます。病気を患ったり、身体が不自由になれば仕方ないとは思いますが、見た目健康そうな高齢男性が社会に貢献するどころか、お荷物になるのは実にもったいないと思います。

「残りの人生を社会にお返しさせてもらおう」の精神でボランティア

 そのような方々にボランティア活動に参加してはどうですか?とお声がけしても、荷が重いとか年だからとなかなか重い腰をあげません。最近は地域の社会福祉協議会の方と連携してリタイア男性にボランティアに参加してもらう活動をしていますが、具体的にどのようにすればよいのか思い悩んでいたところに今回のニュースが飛び込んできました。

 その中でも、尾畠さんの「残りの人生を社会にお返しさせてもらおう」の言葉が心に響きました。尾畠さんは若いころから登山歴があり、山道の整備などのボランティアをされていましたが、66歳で鮮魚店を引退して本格的なボランティア活動に入られたようです。その間、日本列島を徒歩で縦走したり、新潟県中越地震や東日本大震災でも活躍され、若い人からは師匠と呼ばれていたようです。ボランティアなどの社会活動を躊躇されているリタイア男性には「尾畠さんを見習ってください」というのが一番心に響くのでないでしょうか?78歳の尾畠さんの活躍は、年だから無理と考えている高齢者に勇気を与えてくれるに違いありません。

高齢男性の特性を生かそう:頑固と孤独、そして時間 問題は自活

 今回のニュースで少し愉快に思ったのは、警察が来ても「直接母親に渡す」と拒否した尾畠さんの頑固な態度と心意気です。その後は助けてもらった家族の方が風呂を勧めたり、傘を差しだしたりしても、断固拒否されました。そのボランティア精神は実にご立派で、高齢男性のよい意味での頑固さがカッコよかったと思います。さらに驚いたのは完璧な装備と自活できる自家用車です。誰にも迷惑をかけないというボランティア精神を頑固なまでに貫く精神とそれを極めるオタク的なプロフェッショナリズムは男性に備わった特性でもあります。

 それよりも大切なのは一人で行動ができることです。一匹狼的ではありますが、集団の中ではしっかりとコミュニケーションが取れることも大切です。趣味でもボランティアでも仲間が誘ってくれれば重い腰を上げる方はいらっしゃいます。釣りやゴルフでも仲間がいる間は楽しむのですが、一人・二人と抜けるともうお手上げになり、自分は元気でも釣りやゴルフに行かない人も少なくありません。仲間で楽しんだり、行動したりすることも重要ですが、相手の都合を考えると敏速な行動ができません。孤独というのは悪い意味にも捉えられますが、単独で行動できる勇気と考えればよいと思います。そして、我々には苦痛になるくらいの自由な時間が有り余るほどあります。尾畠さんにはこれらの要素がすべて備えられ、まさにスーパーボランティアの名にふさわしい方だと感服いたしました。

終生、亭主元気で留守がよいが熟年夫婦の理想?

 熟年世代は日本の高度成長期を支えた世代です。仕事があまりにも忙しいので結婚すれば男性は仕事一辺倒で、女性は専業主婦にならざるを得なかった時代です。子供が生まれても、忙しい夫は子育てを妻に任せきりで、いわゆるワンオペ育児で夫婦の亀裂が入ることは以前コラム(国家と家庭内の安全保障問題)で紹介させていただきました。そして定年後に一緒に毎日顔を突き合わせることで妻の体調が悪くなる(夫源病)ことも先日のコラム(お盆に注意したい夫源病と孫疲れ)で紹介いたしました。その予防には適当な夫婦の距離感をとることです。尾畠さんのように忙しくボランティア活動をするのは理想的かもしれません。

 一般の方にはとてもまねはできそうにありませんが、夫婦ともに別々に仕事や趣味などをして、なるべく顔を合わせないのが良いでしょう。仕事をしてある程度の収入が入ると心のゆとりも生まれます。仕事はしたくないという男性は孫育てやボランティア活動をしたらどうでしょうか?

 私たちも微力ですが、高齢者が自転車を漕いで発電して元気になるための組織(日本原始力発電所協会)や孫の世話に関する愚痴や情報を交換するサイト(孫育のグチ帳)を立ち上げ活動を続けています。孫の世話をしたいと思っても、思い込みが強く、人の言うことを聞かない私と同じような祖父は多いかもしれません。今回はお孫さんが無事に戻ってよかったですが、これを教訓に直接言いにくい爺育の危うさや注意点を我々に教えていただければありがたいです。