国家と家庭内の安全保障問題

離婚届へのサイン(ペイレスイメージズ/アフロ)

国家と家庭内の安全保障問題

 新年あけましておめでとうございます。昨年から北朝鮮情勢が緊迫し、いつ戦争が起きるのか?という緊張したなかで新年を迎えました。新年早々に北朝鮮のミサイル実験も予想されています。このような緊迫した情勢で日本の安全保障に関する議論が盛んになっていますが、一個人では心配する以外にどうしようもない問題でもあります。

 さて、日本の安全保障問題と同等、いやそれ以上に深刻なのは増加する”熟年離婚”問題です。厚労省の調査では同居20年以上の離婚は40年前の3倍(約18%)になっています。最近、熟年離婚はあまり増加していませんが、深刻化するのは家庭内別居です。熟年期になって離婚できるのは、一人になっても経済的になんとかやっていける夫婦であり、ある意味”離婚できるだけましな経済状態にあるといわれています。離婚予備軍がどれだけいるのか定かではありませんが、経済的に離婚もできなくて、冷戦状態が続いている夫婦はかなり多いと予想されます。特に定年制度があるサラリーマン家庭が崩壊の危機に瀕しています。

熟年夫婦の危機は長寿と電化製品の普及、核家族化

 少し前までは平均寿命は短くて、熟年離婚は大きな問題にならなかったのでしょうが、定年後20-30年夫婦が一緒に生活するという、人類が初めて遭遇する事態になりました。50年以上夫婦生活を続けている動物はほとんどいないでしょうから、これはまさに”未知との遭遇”です。最近はワイドショーなどでこの問題が繰り返し特集され、事態の深刻さが伺われます。長寿に加えて、電化製品の発達も大きいように思えます。昔は日常生活を維持したり、家事が大変で、バタバタしているうちに一日が終わりました。その為に夫婦がお互いを意識する時間も少なかったと思われます。今や、電化製品が進化し、洗濯や掃除、皿洗いは全自動で自由な時間が増えました。しかも空調が発達したので部屋で快適な生活ができます。核家族化が進み、親の介護や孫の世話をする機会が減ってきています。夫婦で向き合う時間は増えますが、これといった話題もなければ、二人でいることが苦痛になります。

 まだ、夫が自分で食事や洗濯・掃除などができて自立していれば、妻も自由に出かけることができますが、すべてを妻に依存すると、妻が夫の世話で拘束され、次第にストレスが溜まって心身の健康を壊しかねません。私はこのような状態を”夫源病“と名付けて、世の男性から顰蹙を買っていますが、実際このような状態に陥った女性は少なくないようです。こういう場合は妻だけを治療しても改善することは少なく、夫婦でカウンセリングをして、少し距離を置くことが一番の治療になります。どうしても難しい場合は最終的に別居や離婚になりますが、妻の体調は間もなく回復します。

熟年離婚のきっかけは子育て期の産後クライシス

 さて熟年離婚のきっかけはどこにあるのでしょうか?浮気・酒癖・暴力・借金などは男性の方にも自覚症状がある原因です。しかし、それ以上に多いのは家事を手伝わない、暴言を吐くなどの上から目線、いわゆる妻を家政婦のように扱うことへの不満が爆発するようです。

 その不満は結婚して歳月とともに溜まるのかと思いきや、結婚直後から始まります。それが明らかになったのが2012年のNHK「あさイチ」で取り上げられた、出産後の妻が、子育てや家事への夫の関与について、強く不満を抱いて夫婦の危機となる「産後クライシス」でしょう。産後クライシスの原因が、夫の育児・家事への無関与・無理解のみから起きるわけではないという指摘もありますが、私が中高年の女性の聞き取りをしていると、程度の違いこそあれやはり子育て時期の不満が一番強いように感じられます。

 最近の岡山大学の調査では、出産後約半数の女性が産後クライシスを経験し、約6割が調査時点でも持続しているといいます。このように若い夫婦には熟年離婚の話なんか今は関係ないと思いがちですが、子育て期間の夫の関与や理解が遠い先の熟年離婚の予防に重要だと感じます。

働き方改革で変わる家族像:危険なフラリーマン

 電通での過労自殺問題以後、過重労働に関して監視の目が厳しくなってきました。労働基準監督署もブラック企業をどんどん摘発し始めました。我々が働いている病院はもともと過重労働で、医師もそれが当たり前だと感じていましたが、最近では多くの病院が摘発され、指導を受けているようです。その為、多くの企業では定時退社を勧めています。しばらくの間の労働力不足は心配されますが、勤労者の生活の質を守るには良い傾向だと思います。

 折角定時退社してもすぐに家に帰らないサラリーマンも少なくないようです。退社後にゲームセンターやネットカフェなどで時間をつぶしてから帰宅する人をフラリーマンと呼ぶようです。早く帰ると妻が嫌がるというのが主な理由です。夫婦関係がギクシャクして、破たん予備軍の可能性は高いように思えます。

 早く帰ると嫌がられるのは、妻にとっては子供の世話の上に、夫の世話が負担になるからでしょう。早く帰宅して、子育てや家事を分担すればどうでしょうか?最初は邪魔だと感じていた妻も、早く帰宅すると喜ぶようになるでしょう。さらに、子育てや家事を夫婦で分担できるようになれば、妻も働きやすくなります。定時退社で確実に超過勤務手当は減るでしょうから、共稼ぎも視野に入れる必要があります。おそらくこのチャンスを逃したら、熟年離婚や別居はかなり確率が高くなると考えたほうが良いでしょう。

定年前後は熟年離婚予防の最後のチャンス

 “亭主元気で留守が良い“からまだ辛抱できていた妻が、夫の定年後に大きな危機を迎えます。特に家事や食事を完全に妻に依存しているような夫は要注意です。現役時代なら朝食を食べると出勤し、妻は帰宅後の夕食を用意するだけです。掃除や洗濯は全自動になり、子供たちも巣立って自由な時間を満喫していた妻が、定年後に夫の世話で拘束され、心身共に疲れ果てます。特に毎日の昼食を作ることでうつ状態に陥る(昼食うつ)人もいるようです。

 熟年離婚の表向きの理由は「愛情が冷めた」と言われていますが、私の医院に相談に来る方の多くは「夫と一緒にいると心身が持たない」という深刻な理由です。その為に夫は自分の身の回りのことをある程度できることが大切です。掃除や洗濯など毎日する必要のない家事よりも、3度・3度の食事を何とかしてほしい、特に昼ご飯だけでもなんとかして!という声はよく聞きます。

 まずは昼食だけでも自分で用意してみたらいかがでしょうか?この時注意するのは後片付けです。食事ができても、台所が汚れていれば妻の仕事は増えますので、後片付けが楽な簡単な料理が良いと思います。例え料理ができなくても、コンビニやファストフードなどに行って自分一人で食事ができれば合格です。しかし、毎日外食では出費も馬鹿になりませんし、メニューに限りがあります。高齢男性では社会活動が認知機能低下の予防になるといわれ、料理も予防効果があるのではないかと期待されています。その為に我々は大阪を中心に中高年男性のための料理教室を10年前から展開しています。専用の料理教室も完成し、新年から活動を開始しています(詳しくは男のええ加減料理を参照)。

 男性も生活自立ができると妻のストレスが減るばかりか、自分の健康にもよい影響があります。それでも妻の産後クライシスの後遺症は大きい時は、その当時に負担をかけたことをひたすら謝るしかないでしょう。下手に反論すれば、火に油を注ぐ様なもので、熟年離婚の火種が再燃しかねません。もし、妻が孫の世話などで忙しくしていたら、積極的に手伝うことも大切です。自ら子育ての重労働を体験することで、妻に感謝の気持ちが生まれ、熟年期の夫婦関係の修復にもつながると思います。次回はイクメン・爺育についてお話しする予定です。

 男性読者の皆様には「なんで男性だけがそこまでしなきゃいけないか!」とお怒りの方もおられると思いますが、これも熟年期の夫婦生活の安寧のためとご辛抱ください。