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のんきに自分達の未来を想っている場合ではない、ジャニーズ事務所の公式見解がダメな理由

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

 ジャニーズ事務所が創業者・故ジャニー喜多川氏の性加害問題について謝罪動画と見解書を出しました(5月14日)。内容は表面的で言葉が浮いて見えます。被害者目線が欠け、自己主張のみ。タイミングと形式も逃げの姿勢。スポンサー契約が打ち切られないと思っているのでしょうか。日本の上場企業を甘く見すぎています。企業は国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011年6月策定)に従って、サプライチェーン、バリューチェーンでの人権侵害の予防、軽減に努める必要があり、日本政府も遅ればせながら「ビジネスと人権」に関する行動計画を2020年10月に発表。2021年6月にはコーポレートガバナンスコード(企業統治指針)改訂で「人権尊重」が盛り込まれています。人権を踏み台にして利益を優先する企業は、もはや生き残れない時代になっているのです。

タイミングと形式が「逃げ」の姿勢

 発表は、5月14日日曜日の夜で、5月15日は新聞休刊日、報道体制が手薄な5月14日、日曜日をわざわざ選んだように見えます。カウアン・オカモト氏が記者会見をしたのが、たとえば5月12日の金曜日であれば、5月14日の夜、というのも理解はできます。しかし、カウアン氏が会見をしたのは1か月前の4月12日。すでに1か月以上経過。日曜日を選択する理由がありません。できるだけ注目されないタイミングを狙ったと見えます。このような狙いは広報戦略上はよく選択されますが、1か月後に使うのは感覚がずれているとしか言いようがありません。かえって姑息に見えます。

 そして、公式見解の形式がこれまでにないスタイル。記者会見ではなく、1分間の社長による謝罪動画とテキストによる質問と回答文。説明責任を果たす必要があると理解しているが、記者会見をしたくないことがあからさまにわかる形式でした。何の公式コメントもないよりは重要な一歩を踏み出したといえますが、内容をみると、信頼回復からは程遠い。見解書は0点。いや、マイナス点をつけたいほどです。タイトルは「故ジャニー喜多川による性加害問題について当社の見解と対応」。「疑惑」ではなく「性加害問題」と記載していることから事実を認識していることになり、評価することはできます。以下、一問一答を考察し、点数をつけてみました。

■動画解説(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会)

被害者目線と具体性の欠如が最悪

なぜ、すぐに会見を行わなかったのか?

ーまずは事実を確認し、責任を持って対応すべきだと考えました。

個人のプライバシーにも関わる非常にデリケートかつセンシティブな問題であったため、カウンセラーや弁護士など専門家の協力を得ながら、声をあげられた方とのご対面、社内調査、具体的対応策についての協議等を慎重に進めておりましたことから、広く皆様にお伝えするまで時間が経ってしまいました。対応が遅くなった点に関しまして、お詫びいたします。

→どのような社内調査をしたのか不明。調査委員会のメンバーが不明。いつだれがどのように何人体制で、何人に対して何時間調査したのかが書かれていません。これはつまりやっていないに等しい。会見をひらけば調査内容を聞かれます。調査について実名、数字が全くない回答は0点となります。

BBCの番組報道、またカウアン・オカモトさんの告発について、どのように受け止めているのか?

ー事実であるとすれば、まず被害を訴えておられる方々に対してどのように向き合うべきか、また事務所の存続さえ問われる、極めて深刻な問題だと受け止めました。

あらためて事実確認をしっかりと行い、真摯に対応しなければならないと思いました。

→真摯な対応をする場合、危機管理対策本部や調査委員会の設置をしますが、したのかどうか不明。真摯な対応の具体的記述がなく、思っただけで実行していないと見えます。危機管理広報の視点からすると0点の回答。

BBCの番組報道、またカウアン・オカモトさんの告発は事実か?

ー当然のことながら問題がなかったとは一切思っておりません。加えて会社としても、私個人としても、そのような行為自体は決して許されることではないと考えております。

一方で、当事者であるジャニー喜多川に確認できない中で、私どもの方から個別の告発内容について「事実」と認める、認めないと一言で言い切ることは容易ではなく、さらには憶測による誹謗中傷等の二次被害についても慎重に配慮しなければならないことから、この点につきましてはどうかご理解いただきたく存じます。

とは言え、目の前に被害にあったと言われる方々がいらっしゃることを、私たちは大変重く、重く受け止めております。

→「問題がなかったとは一切思っていません」、二重否定でわかりにくい表現ですが、二重否定は肯定。よって、問題を認めるコメントであることから、わずかな一歩といえます。しかしながら、どのような問題を認識していたのかが不明。「憶測による誹謗中傷等の二次被害」は事務所が調査をしないことが原因であることを自覚していない。調査をすれば憶測はなくなります。肯定したわずかな1歩に1点。

ジャニー喜多川氏の性加害を事務所、またジュリー社長は知らなかったのか?

ー知らなかったでは決してすまされない話だと思っておりますが、知りませんでした。

このことを説明する上では、当時のジャニーズ事務所がどのような意思決定で運営されていたかについて、ご説明する必要があると思います。

週刊文春から取材のあった1999年の時点で、私は取締役という立場ではありましたが、長らくジャニーズ事務所は、タレントのプロデュースをジャニー喜多川、会社運営の全権をメリー喜多川が担い、この二人だけであらゆることを決定していました。情けないことに、この二人以外は私を含め、任された役割以外の会社管理・運営に対する発言は、できない状況でした。また管轄外の現場で起きたことや、それに対してどのような指示が行われていたのか等も、そもそも全社で共有されることはなく、取締役会と呼べるようなものも開かれたことはありませんでした。本件を含め、会社運営に関わるような重要な情報は、二人以外には知ることの出来ない状態が恒常化していました。

振り返るまでもなく、その状態は普通ではなかったと思います。ただ、1962年の創業時からずっとこの体制で成長してきたこともあり、ジャニーとメリーの二人体制=ジャニーズ事務所であることを、所属する全員が当然のこととして受け入れてしまっていたように思います。私自身その異常性に違和感を持つことができなかったわけで、ただただ情けなく、深く後悔しております。

→前の質問で問題があったことを認めつつここでは「知りませんでした」となると矛盾します。自分の立場の弱さを語る部分は饒舌すぎます。被害者への言葉がなく、自分への同情を狙った回答はマイナス1点。

2003年の週刊文春との高裁判決で敗訴しているが、その時点でもまだ、性加害の事実を認めなかったのか?また何も対策をしなかったのか?

ーこの訴訟は、週刊文春の記事に対し「許しがたい虚偽である」とメリーが憤慨し、名誉毀損であるとしてジャニーズ事務所側が株式会社文藝春秋らを訴えたものでしたが、その詳細については私には一切共有されておらず、恥ずかしながら今回の件が起こり、当時の裁判を担当した顧問弁護士に経緯確認するまで詳細を把握できておりませんでした。

あくまで私の推測ですが、メリー自身もジャニーの問題とされている行為に対しては、心の底から「やっているはずがない、ありえない」そう思っていたからこそ、自ら民事裁判で訴えに出たのだと思っております。

最終的に私どもが一部敗訴し、週刊文春の記事が名誉毀損とまでは言えないと判断されましたが、当時の裁判を担当した弁護士、裁判に関わった役員へのヒアリングによるとその時点でもジャニー本人は自らの加害を強く否定していたこともあり、結局メリー及び同弁護士から、ジャニーに対して「誤解されるようなことはしないように」と厳重注意をするにとどまったようです。いずれにせよ 私個人としては、取締役という立場でありながら、積極的にその責務を果たせなかった点について、大きな落ち度があったと考えております。

→推測と伝聞のみで回答していますが、誰がどう言っていたのかを明確に説明することができる部分です。憶測は根拠がなく、推測には根拠があります。推測した根拠を示す必要があります。回答案を考えた弁護士が自分の名前を掲載させないように工夫した文面となっています。弁護士の保身を感じさせる内容で0点です。

再発防止策をどのように考えているか?

ー再発防止策を講じるにあたっては、初期の段階から弁護士をはじめ、様々な分野の有識者の方々から、会社としての問題点や改善策についてご指摘やご意見をいただいてまいりました。大前提として、私が代表に就任して以降は、エンタテインメント業界という世界が特殊であるという甘えを捨て、コンプライアンスの強化を進めており、「ホットライン(匿名相談窓口)の設置」、未成年に対する「保護者同伴の説明会の実施」、「コンプライアンス教育の実施」、「保護者宅からの活動参加」等を推進してまいりました。しかし今回の件を受け、二度と同じような事態を起こさないためにも、外部からの協力も得ながら「コンプライアンス委員会」を設置しており、これまで以上に取り組みを強化、徹底させてまいります。

さらには、企業のあり方や社会的責任として不安な点がないか、社内外に適切なコミュニケーションが行われているか、また社内の価値観や常識だけで物事を判断していないか等、外部の厳しい目で指摘する役割として、社外取締役を迎え入れて経営体制を抜本的に見直すよう、現在人選、依頼を進めております。新しい社外取締役については、確定次第改めて発表させていただく予定です。

→さまざまな有識者とは誰なのか不明。コンプライアンス委員会とはどういった体制で誰がメンバーなのかわかりません。通常は明らかにします。実名がないので本気度が伝わりません。0点です。

何故、第三者委員会を設置して徹底調査をしないのか?

ー当初よりこの問題は、社内のみで解決すべきではないとの観点で、第三者委員会の設置による実態の徹底究明のあり方についても、弁護士や外部の専門家・有識者を交えて検討いたしました。しかし調査段階で、本件でのヒアリングを望まない方々も対象となる可能性が大きいこと、ヒアリングを受ける方それぞれの状況や心理的負荷に対しては、外部の専門家からも十分注意し、慎重を期する必要があると指導を受けたこともあり、今回の問題については別の方法を選択するに至りました。

既に告発された方、また今後あらたな相談をご希望される方のために、外部のカウンセラーや有識者、弁護士や医師の指導のもと、相談をお受けする外部窓口を月内に設置致します。相談者の秘匿性を守り、客観的にお話をお聞きするため、外部の専門家の協力を得る予定です。

→徹底究明のあり方を検討した弁護士、外部の専門家とは誰なのか明らかではありません。となると、検討していないに等しい。調査を望まない人がいるから第三者委員会を設置しないというのは意味不明、説得力がありません。調査を望まない人とは誰なのでしょうか。知っていて止められなかった社長を含む関係者ではないでしょうか。調査を望む被害者目線が全くありません。0点です。

カウアン・オカモト氏とは会ったのか?会ったのであれば何のために会ったのか?

ーお会いしました。私が直接お会いして、長い時間お互いにお話をしました。今後このようなことが二度と起こってはならない。その為にも彼が声をあげられたということを深く理解しました。

一方でご本人以外の他人のプライバシーに関わる問題や、憶測を助長するようなご発言に関しては、私の見解をお伝えさせていただきました。

まだまだこれからではありますが、私たちが変わるきっかけを下さったと受け止めております。

→何のために会ったのか説明していません。憶測とは何のことを言っているのでしょうか。誰のどの発言が憶測なのでしょうか。カウアン氏の会見での発言が憶測だとクレームを言い渡したのでしょうか。それとも対話の中での発言が憶測だと指摘したのでしょうか。全くわかりません。

のんきに自分達の未来を語る

被害を訴えてきた方たちに対して、どのように向き合う予定か?

ーデリケートな内容であり、詳細については検討中ではありますが、被害を訴えておられる方々、精神的に苦しんでおられる方々に対しては、カウンセラーをはじめ、専門家の力もお借りしつつ、誠実に向き合ってまいります。それをやらずして、私たちに未来はないと考えております。

→どう向き合っていくのか具体的な計画を回答していません。いつまでに何をするのか。誠実に向き合うといいつつ、具体性がありません。自分たちの未来をのんきに語っている場合ではない。視点が常に自分たちの存続のみ。被害者の未来、後遺症について思いをはせていない。0点。

ご自身の経営責任をどう考えているか? また責任がある場合どう責任を取るとお考えか?

ー責任はあったと考えております。当時の私は、取締役とはいいながらも名ばかりとなっており、その職責を果たせていませんでした。また本件については自らも積極的に知ろうとしたり、追求しなかったことについて責任があると考えております。責任の取り方ですが、私が辞職する選択肢も考えました。ただ今すべきはこの問題から逃げることなく、被害を訴えてこられた方々に向き合うこと、さらにこれから先、二度と同様の問題が起こらないよう、既に着手し始めている経営改革、社内意識の抜本的改善をやり抜くことだと考えております。

あらゆる厳しいご意見も真摯に受け止め、所属しているタレントたちの今、そして未来への想いを尊重しながら対話を重ねていく、それが自分にできる責任の取り方だと考えております。

→厳しい意見とはどのような意見だったのかも記載なし。これまでの調査内容が不明瞭、今後の具体的な計画もなし、第三者委員会も設置せず、どのような経営改革ができるのでしょうか。辞職と書いているからには、事実を認めていることになりますが、検証もせず、過去の罪に向き合わず、未来を想っている場合ではありません。10代の少年達を深く傷つけ、歪ませ、踏みにじってしまったことへの深い反省がありません。過去に向き合わず未来を語る浮ついた表面的・形式的な言葉に不愉快を超えて吐き気さえ感じさせます。このような見解でスポンサーもファンも、新たなタレント志望者・保護者もついてくると思っている会社は存続できません。0点。

 「性加害」問題を二重否定であっても認めた点は加点しましたが、その後、知らなかったと矛盾する記載があり、マイナスとなりますので合計0点となりました。タイミング、形式も逃げの姿勢。内容は自分目線のみ。この企業にどう向き合っていくのか、今試されているのは私たち国民だといえます。

<参考サイト>

ジャニーズ事務所 見解書(2023年5月14日)

https://www.johnny-associates.co.jp/news/info-700/

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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