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日本は「調査後進国」なのか 道新や三菱電機、不祥事での調査不足の問題とは

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:アフロ)

組織における調査の弱さを露呈する事件が相次いでいます。オリンピックでは、音楽制作チームメンバー小山田圭吾氏が過去、障がい者へのいじめ告白を得意気に語っていたことが暴露されました。元お笑い芸人の小林賢太郎氏は、過去、ユダヤ人大量虐殺を揶揄していたにもかかわらず全体ショーのディレクターに抜擢されていました。これらは事前のリスク調査が十分できていなかったことを露呈しています。寄せ集めの組織だから仕方なかったのでしょうか。いやいや、寄せ集めではない、立派な組織でも同じことが起こっています。

三菱電機、社内調査不足で社長辞任に

三菱電機の品質不正問題では、2018年に発覚した際、社長がリーダーシップをとって調査したにもかかわらず不正は発見できず、今年6月に改めて30年以上続けられてきたことが判明し、社長が辞任する事態となりました。30年前からの不正を現在の社長が責任を取る必要があるのだろうかといった声があるかもしれません。7月2日の杉山武史社長の会見では、「昨晩辞任を決めた。3年前に調査をした自分が今回も調査をすることはよくないのではないかと考えた」と説明。調査を徹底して行うことができなかった責任を取るということです。2018年7月の調査は社内調査であり、今回は外部による第三者調査とするとの説明でした。社内調査では限界があることを物語っています。調査不徹底が社長辞任にまで至ってしまったケースとなります。

北海道新聞は直後の対処について調査・説明不足

調査の甘さは企業だけではなく、不祥事を報道するマスメディアでも同じことが起きています。北海道新聞が7月7日に発表した旭川医科大学取材で新人社員が逮捕された件の社内報告書は、危機管理広報の観点からすると肝心なことが書かれていませんでした。調査報告書が新聞の読者会員登録者でなければ閲覧できないため、解説をします。

国立大学法人旭川医科大学では、パワハラ問題で吉田晃敏学長の解任をめぐって学内で6月22日に会議が行われていました。逮捕された記者は、上司の指示を受けて構内に入り、無断録音し、職員に発見された際にすぐに身分を明かさず、警察が駆け付けた際に記者証を見せたものの逮捕となり、24日に釈放されました。本件について北海道新聞は、「記者は午後4時25分ごろ、会議が行われている可能性のある4階へ向かうよう指示されました。電話や無料通信アプリLINE(ライン)で複数のやりとりがあったため、キャップがこの指示を出したのか、別の記者なのか、はっきりしません」と責任が曖昧な説明文。ラインであれば明らかに指示者はわかるものを。。。「キャップや別の記者から、校舎内で身分を聞かれても、はぐらかすように言われていたことも影響しました」ともあります。常にキャップと記者がセットになっている点が不自然でキャップの責任明文化を避けた表現に見えます。

さらに加えると、新人社員が22日に逮捕されてから24日までの48時間、会社として警察にどう交渉したのか、すぐに釈放するよう交渉したのか、肝心なことが書かれていません。逮捕された記者は、旭川医科大学を取材するのはこの日が初めてだったという入社したばかり、22歳女性の新人記者です。上司、会社命令での取材であれば、上司や社長がすっ飛んで行って釈放交渉しなかったのでしょうか。社員教育に問題があったとするコメントよりも前に、発覚した際に会社としてどう行動したのか、あるいはキャップの報告が遅かった、ヒヤリングに手間取ったのであれば、そのことも含めて初動の反省をする調査報告書を作成し、公表する必要がありました。

このような過ちは意外と多く見られます。事実経過として「起きるまでの経過」のみを説明し、「起きてから会社としてどう行動したか」を書かないのは、報告書として不十分です。危機管理広報の視点からしても説明責任を果たしたと言えません。

トップは保身を克服して責任取る覚悟で調査を

調査は難しい。本来は原因を探っていかなければならないのですが、「誰がやったのか」と責任追及型になってしまいがちだからです。人間は保身の塊です。自分が一番かわいいわけですから、自分に不利な情報は開示しないのです。危機発生時に何度も立ち会った筆者の経験から言えるのは、現場に厳しい罰を科すのではなく、トップが責任をとる覚悟を示して実行することです。辞任を表明した三菱電機の杉山社長は、7月13日、最後のお願いとして社員向けに「不正行為を自ら申告した社員は懲戒処分の対象外とする」としました。遅ればせながら、辞任の覚悟を決めてようやくやるべきことが見えたのでしょうか。9月に第三者による調査報告書が発表されるとのこと。信頼回復の第一歩となる調査報告書を期待したいと思います。北海道新聞も今からでも遅くはありません、新人記者逮捕直後から釈放までの48時間について会社としての行動を発表するべきではないでしょうか。

「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(日弁連)が発表されたのは2010年。10年以上経っていますが、今だに「調査後進国」。先進国入りはいつになるのでしょうか。

〇記事と連動した解説動画

リスクマネジメント・ジャーナル 第106回 

北海道新聞社員逮捕に見る脆弱なメディアの不祥事対応

(日本リスクマネジャー&コンサルタント協会)

https://www.youtube.com/watch?v=bY8IRu7oP_c&t=601s

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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