孫正義氏の決算説明会、後ろに控える謎の2人の役割は? 演出の武器と課題を考察
ソフトバンクグループ株式会社の2021年3月期の決算説明会が5月21日に開催されました。同社代表取締役会長兼社長執行役員の孫正義氏含めて3名がひな壇に。最初に目に飛び込んできたのが、孫氏のハイネック姿。おやっと思いながら、前回は白のハイネックだったことを思い出し、服装戦略変えたかな、と感じたのが第一印象でした。約1兆円の赤字から一転して5兆円の利益(当期純利益)で国内企業として最高益。2兆円だったトヨタ自動車をも抜きました。服装に個性を出して余裕を見せたのでしょうか。今回は、孫氏の特徴を座談会形式で討議。表情や声に詳しい自己演出プロデューサーの山口和子さん、立居振る舞いに詳しいスマートアクトディレクターの鷹松香奈子さん、スタイリストの高野いせこさんです。
特徴はインパクトのある出だし
石川:孫さんの決算説明会は、見ているとつい引き込まれますよね。これは何なのかとじっくり皆さんと分析したいと思います。自分のスタイルを確立しているということかなと思います。最初に振り返りのコメントを出し、業績の解説、投資しているユニコーン企業の紹介。組み立て方は毎回同じです。特徴的なのは、毎回一枚の絵や写真を用意し、短くわかりやすい言葉でまとめのコメントがあること。確実に報道の見出しを意識しています。今回の絵は、ソフトバンクが1981年に創業した地、雑餉隈(ざっしょのくま)の写真でした。業績がよかったことを「たまたまのたまたまのたまたまが重なりました」と3回も言葉を重ねてインパクトを強めた表現。2019年11月の赤字の時には「ボロボロです」でした。擬声語や擬態語も多用するので感覚に訴える力があると思います。大抵1時間たっぷり話をするんですが、飽きさせずに聞かせる力がすごい。山口さんはどう見ましたか。
最大の武器はリラックスと声
山口さん:私からは2点。孫さんについてはいろいろな動画を見ましたが、リラックスと声の質が最高の武器だと思いました。緊張して力が入ってしまい言いたいことが言えない人が多い中、孫さんはリラックスして話をしているから、伝えたいことが伝わる。伝えたいと思っている相手が見えるというのでしょうか。ちゃんと相手を見ているコミュニケーションだと感じます。それと何より声がいい。聞きやすい。尖っていない。歌手のスティングに似ています。何を言っても嫌な印象が残らない。
石川:耳当たりのよさは私も感じます。リラックスしているから押しつけがましく聞こえないのでしょう。声の質はなかなか真似できませんが、力を抜くのは訓練すればできます。
鷹松さん:聞き取りやすさのつながりで私が着目したのはマイク。襟の両側にマイクがついていました。ウォーキングプレゼンテーションをしていると顔が左右に動くので、片方だけだと遠くなります。両方にマイクは、なかなかいいアイディアだと思います。両方につければしっかり音を拾ってくれるので、聞き取りやすくなっているのでしょう。
石川:これは真似ができますね。
服装戦略はわかりにくい
鷹松さん:力みがない孫さんのプレゼンはジェスチャーにもよく出ています。けっして動きは大きくないのに、言葉と連動しているのですっと入ってきます。自然に手がついている。これができる日本人はなかなかいません。戦略的でわざとらしくなかった。服についても言わせてください。今回孫さんは黒のハイネックでまとめてきましたのでほっとしました。2月は白のハイネックでしかもたるんで休日感満載で違和感がありましたから。それに比べるとよかったと思います。ただ、背景が真っ黒のシーンでは、顔だけ浮かんでしまっていたので、バックに光を当てるとか服の色をもう少し明るめにするとか、工夫がほしかったですね。
石川:私も2月の決算説明会で白のハイネックには驚きました。業績がよかったから、気持ちも休日ムードになったのだろうと受け止めました。業績悪い時に白のハイネックであれば相当反発されるでしょうね。スタイリストの高野さん、この白のハイネックはいかがですか。寒かったのでしょうかね。
山口さん:室内ですけど、、、
高野さん:寒かった?(苦笑)、、それ言ったらもう話が終わりますよ。孫さんの前に、登壇者3名について言わせてください。服装がみなさんばらばらで統一感がないのが気になりました。事前に話し合いをしていなかったのでしょう。会社としての服装戦略はなさそうです。少しだけ言わせていただくと、取締役専務執行役員の後藤芳光さん、スーツがジャストサイズではありません。常務執行役員経理総括の君和田和子さんは、インナーがグレー。ちょっと清潔感に欠けて見えてしまいます。グレーの着こなしは結構難しいんですよ。
石川:後藤さんはジャストサイズではないので皺が目立ちますね。君和田さんはカーディガンのように見えます。全体的にリラックスモード。
高野さん:孫さんのタートルネックの問題点は、何と言ってもたるみがあることです。せめてチーフを入れればもう少し公式感が出たと思うのですが、そもそもこのスーツ、胸ポケットがないようです。ここに孫さんのメッセージがあるようにも見えます。普通あるものはつけない、余分なものはつけないといったことなのでしょうか。公式感が高い色は紺なのですが、黒なのかグレーなのか不明、モード感を出したいのでしょうか。今ひとつわかりにくいと思います。
ワンマンショーが玉に瑕
石川:孫さんは気の向くままやりすぎることがあります。服装も気分で決めているように見えます。他にもそれは垣間見えます。2月の決算説明会では、金の卵をポコポコ産む動画に合わせてチャイコフスキーの音楽を流し、ご本人もそれに合わせて指揮。これはさすがに品がない。自分に酔いすぎ。やりすぎ感がありました。もう一つわかりにくい演出があります。毎回、後藤さんと君和田さんは同席しているのに彼らの声を一度も聞いたことないのです。説明から質問まで孫さんがするなら、ひな壇にいなくてもいいのではないでしょうか。孫さんからするとペースが崩れてしまうから発言してほしくないのだろうと思います。それなら、せめてカメラを浴びない位置に座ればいいのではないかと。全く発言しない、挨拶の声すら発しない人がずっと前で座っていることへの違和感は半端ないです。役割が謎。孫さんのワンマンショーぶりを誇張させてしまいます。
孫正義さんのプレゼン力の魅力をまとめると、インパクトある出だしと組み立て、感情に訴える平易な言葉の選択、リラックスした話し方。課題としては、わかりにくい服装と着こなし、ワンマンショーで自分に酔いすぎてしまうことがある点、でしょうか。表現の面白さに変わりはなく、目が離せない注目リーダーであるのは確かです。
<参考>
〇石川慶子MTチャンネルでは、表現リスクについての解説、改善トレーニングを配信しています。毎日更新。ぜひチャンネル登録を。メディアトレーニング座談会はヤフー記事と連動。記事よりも少し早めに配信します。
メディアトレーニング座談会<決算説明会シリーズ>
ソフトバンク孫正義氏①全体戦略を通して
ソフトバンク孫正義氏②服装に焦点を当てて