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トヨタ社長就任から12年、変化続ける豊田章男氏 プレゼンでの魅力と課題は

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

2月に過去最高の営業利益を発表したトヨタ自動車。豊田章男社長は、日本自動車工業会(自工会)会長としても、このところ頻繁に発言しています。菅義偉内閣が2050年までに炭素中立を実現する目標を宣言し、「グリーン成長戦略」で、30年代半ばまでに乗用車の新車販売でガソリン車をゼロにすることを掲げたことへの警告。あらゆる場面で存在感を増しています。2009年の就任からご自身もどんどん変化し、表現力が豊かになり目が離せません。しかし、何も言うことがないかといえば、いえいえ、そういうわけにはいきませんので、魅力と課題に迫ります。

言葉選びが直球、心に響く

私が最初に豊田章男社長に着目したのは、2010年大規模リコール問題における米国公聴会でのスピーチでした。「全てのトヨタ車には私の名前が入っております。私にとってクルマが傷つくということは、私自身の体が傷つくということに等しいのです」と全身でこの問題に向き合う姿勢を見せてからです。その後の2019年のバブソン大学卒業式スピーチは、自虐的視点で3代目の苦悩を上手く取り入れつつ、ドーナツのたとえ話で学生を沸かせる内容でした。スピーチライターがついているのでしょうが、社長とよく討議して作成していると推察できます。

最近驚いたのは、就任して11回目の株主総会でのスピーチ。「リーマンショック直前のトヨタは勢いに任せて拡大路線を取り、人材育成がおろそかになった。それが後の大規模リコールにつながった」と原因に言及。「2009年に社長就任後、リコール問題、東日本大震災に直面。大幅な赤字に転落。最初の3年間は十分な成果は得られなかったというのが自己評価」と振り返りました。「トヨタは大丈夫といった企業風土の改革が必要だった」と当時の思いを吐露。さらに「当時は、私が取り組む改革に社内ではお手並み拝見、少しでもうまくいかないとそれみたことか、といった空気が蔓延していた。とにかく利益を出すしかないとがむしゃらだった」。ここまで言ってしまうのか、と直球すぎるほどの印象でしたが、言葉が心に響きました。原稿がある時の章男社長はジェスチャーはありませんが、心に残るのは、自らの体験談、感じたことを正直に語っているからだろうと思います。

全身の体使いが上手いが、座り方に課題

では、ウォーキングプレゼンテーション力はどうでしょうか。YouTubeに上がっていた、2018年に発表されたソフトバンクとの共同記者会見、2019年社員向けメッセージ、2020年の「コネクテッド・シティ」プロジェクトの英語によるプレゼンテーションでは全身を上手く使っていました。具体的には、両腕を使ったジェスチャーがダイナミック、歩く際にも脚を伸ばし颯爽とした姿、左右の重心移動も自由自在。この重心移動のスマートさには感心しました。私も6年ウォーキングのトレーニングをしているのですが、この横の重心移動は前後重心移動よりも難しい。かなり動きのトレーニングを積んでいると推察できます。

スマートアクトディレクターの鷹松香奈子さんは、「全体的にはとても動きがスマートです」と褒めつつも、「前かがみなので少し姿勢が悪くみえてしまいます。ゼスチャーが両腕を広げるスタイルが多く、ややワンパターン化している点が惜しい」と課題も指摘。座り方もやや気になります。舞台での対談で足の置き方が不安定。他の動画も同時にチェックしたところ、自工会では、机の高さがやや高いのか、首が埋もれてしまっています。立ち姿とのギャップがありすぎるようです。机の高さに合わせて椅子の高さを調整するといった工夫がほしい。

ゼスチャーは私もさまざまな動きを研究していますが、胸に手を当てる、こぶしを振り上げるといったバリエーションを言葉と一緒に作ると効果的です。人間の手はとても表現力が豊かですから、これを使わないともったいない。

顔の表情変化ももう少しバリエーションがほしい。表情がわかりにくい眼鏡だからかもしれませんが、目の周り、眉毛の上下運動が足りないと感じます。しかしながら、章男社長の最強テクニックは、自虐ネタで会場を沸かせる点です。「ソフトバンクの孫さんはいつも笑顔なのに、私の写真はこのように口がへの字で不機嫌そうです」。自分の弱点も笑いネタで魅力に変換するとは高度なテクニック。菅総理もここは見習った方がいいスキルでしょう。というか、表情のなさをカバーするために眼鏡をかけるのも一考。

自己演出プロデューサーの山口和子さんは、「章男社長の見た目は一般的日本人男性の姿。典型的というのでしょうか。どこにでもいるおじさんのように見えますが、舞台ではとても魅力的に自己演出をされています。多くの方の励みになるのでは」とコメント。自分にもできそうだ、と思わせる親近感が持てる点が何よりの強みなのかもしれません。

【メディアトレーニング座談会】(石川慶子MTチャンネル)

YouTubeで配信されている動画を見ながらより詳しく解説しています。

トヨタ自動車 豊田章男社長<前半>

ウォーキングプレゼンテーションのみどころ

トヨタ自動車 豊田章男社長<後半>

座り方には課題か

https://www.youtube.com/watch?v=GKklsKd6VMI

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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