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森喜朗氏の謝罪会見、「謝罪」感じられない訳 最初から最後まで続いた失敗

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長の森喜朗氏が2月3日評議員会で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる。誰か一人が発言すると自分も言わないといけないと思う」と発言。この発言が女性蔑視と受け止められ、批判が広がりました。この発言についての謝罪会見を2月4日14時に開きましたが、謝罪に見えない謝罪会見になってしまいました。どこに問題があるのか、詳しく解説します。

心理学では、謝罪の気持ちを伝えるために必要な要素として、事実認識、後悔、反省、償い、二度としない決意の5つが必要とされています。組織におけるクライシスコミュニケーション(危機管理広報)の考え方の視点に立ち、私は2つの要素を加えています。最重要ステークホルダー、被害者といった対象者を認識していること。さらに、言い方や表情、態度、服装といった「見え方」「伝え方」を加えた、合計7つの要素が入っている必要があると考えています。では、森喜朗氏の謝罪会見はどうだったのでしょうか。

まずもって、自分の何が国民を怒らせたのか、「私が語ったことの詳細は申し上げません」と事実の言葉を省略してしまった出だしがよくありませんでした。どの言葉についてどう反省しているのか不明確になってしまいました。つまり、自分の発言に向き合う姿勢に欠けているのです。その部分が抜けたまま、文章を読み上げます。

「昨日、日本オリンピック委員会評議員会での私の発言は、オリンピック・パラリンピックの精神に反する不適切な発言であったと認識をしています。深く反省をしております。発言を撤回したい。不愉快な思いをされた皆さんにお詫びしたい」

なぜ、ここで「皆さん」になってしまったのか。「特に女性の皆さんに」と加えなかったのでしょうか。最重要ステークホルダーである「女性」が抜けていました。「皆さん」というのは逃げ言葉であり、最重要ステークホルダーを認識していないことが露呈しています。

「男女平等が明確にうたわれています。アスリートも運営スタッフも多くの女性が活躍しています。大変感謝をしています。私達組織のことを言ったわけではないことは皆さんもご承知のことと思います。オリンピックまであと半年。関係者は頑張っています。責任者である私が皆さんの仕事に支障があるようなことがあってはいけない。そう思うことから、訂正してお詫び申し上げます。発言の訂正、撤回をします。オリンピック・パラリンピック精神に基づいた大会が開催できるよう献身していきたい」

「発言の撤回」はありましたが、最初に「どの発言か言いません」と言っているので、そもそも一体どの発言なのかが明確ではありません。発言を恥じているといった「後悔」の言葉もありません。「皆さんの仕事に支障があってはならないから謝罪する」ということでは、スタッフのために謝罪するように聞こえてしまい、せっかくの反省がここで帳消しとなりました。また、二度と致しません、といった決意表明がありません。表明したのは「献身」するという決意のみ。

質疑応答はというと、写真からわかるように書類で記者を指す態度できわめて上から目線。質問には憮然とした表情で対応。「面白くしたいから聞いてんだろ!」と粗い言葉遣いで逆ギレ。反省の気持ちが微塵も感じられませんでした。加えて、服装は、華やかな赤と白のストライプネクタイ。紺のネクタイにすべきでした。

このように分析していくと、「反省」の言葉はありましたが、憮然とした態度でそれが帳消し。「事実認識」「後悔」「償い」「二度としない決意」「最重要ステークホルダーへの言葉」がなく、服装も態度も×なので、7つが全て不足。ダメダメ会見としか言いようがありません。

謝罪文書はスタッフが作成したのでしょうが、謝罪文には必要な要素が抜け落ちており、かつ、服装も態度も謝罪モードではありませんでした。これでは、危機管理としてのダメージコントロールになっていません。せめて、周囲の広報スタッフが、謝罪文を隙のない完璧な文にする、派手な服装を避ける、この2点は準備できたはず。さらに、逆ギレしない訓練をしていれば、ここまでお粗末にはならなかったでしょう。

森氏の失言は今回が初めてではありませんが、癖だからといっていつまでも許していると、同じことが繰り返され、日本の評判を落としてしまいます。事実、昨日はロイターからも取材を受けコメントせざるを得ませんでした。世界中を駆け巡って日本のイメージそのものを落としてしまうことを危惧します。

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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