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閣僚の80%が会見で原稿棒読み、ボディランゲージは危機的状況 海外なら炎上しかねない

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:つのだよしお/アフロ)

9月16日、菅義偉内閣が誕生してから2か月が経ちました。真夜中の就任記者会見に付き合い、全大臣のスピーチ力、メディア対応力、表現力を比較したところ、面白い発見がありました。その後も各大臣の記者会見を追いかけて観察をしてきました。今回は、元パリコレモデルでウォーキングやボディランゲージなど体を使った動きの指導歴が約30年のウォーキングディレクターの鷹松香奈子さんに解説していただきます。

80%の大臣が原稿棒読みで危機的状況

石川:今回の批評にあたって、新大臣達を2か月追いかけていただきましたが、意外な発見はありましたか。

鷹松:石川さんに比較してほしいと言われたときには、果たして特徴が見いだせるのかと思いましたが、面白い発見がたくさんありました。一人ひとりですと時間がかかるので、私はパターン別に整理をしました。最も驚いたのは、下を向いて原稿を読んでいるだけの大臣が予想以上に多かったことです。多いだろうとは思っていたのですが、80%以上だったのは予想以上。議員の方々ですからもっと顔を上げて話をするだろうという期待が強かったからだろうと思います。下を向いて話してしまうと、まず姿勢が悪くなり、声が前に出ません。姿勢をよくするという意識が大切でしょう。

石川:原稿は読んでもいいけれど、区切りの部分では顔を上げた方がいいですね。テーマが変わってもずっと目線が下だと全く印象に残りません。外資企業では、役員になった方には人前での話し方、記者対応のための「メディアトレーニング」を行うことを義務づけているケースが多く、日本でも上場企業でようやくメディアトレーニングは定着しつつある状況です。2015年に策定されたガバナンスコードに「取締役・監査役のトレーニング」が盛り込まれたことも後押ししていると私は思います。今回の全体評価・分析から考察すると、多くの大臣がメディアトレーニングを受けていないということでしょう。ある意味危機的状況です。

上から目線態度とは

鷹松:次は、上から目線のタイプです。麻生副総理は皆さんもお馴染みでこの上から目線にはいい加減に慣れていて、もう仕方ないといった諦めがありますが、意外だったのは、岸信夫防衛大臣です。就任記者会見では、原稿を読んでいるタイプと見えましたが、防衛省の会見を見ていたら、質問する記者を人差し指で示す上から目線の態度に豹変したので、驚きました。

石川:質問する記者を指名する際には、指ではなく、手全体で指し示すのがマナーですよね。嫌な質問をする記者であっても、背後には国民がいますから、上から目線の態度は国民にダイレクトに伝わってしまいます。外国人記者が多数いる会見場であれやったら大変。日本の評判を落としてしまうでしょう。

加藤官房長官のモデルウォークに注目

鷹松:頑張っているのは、加藤勝信官房長官。会見場の演台に向かって歩く姿を見てください。歩幅がとれていて、膝がピンとして、背筋が伸びて顔が上がっています。ウォーキングディレクターの私としては褒めてさしあげたい。このように堂々と会見場に登場すると気持ちがいいですし、話を聞いてみよう、という気持ちになります。質問する記者に対しても、顔だけではなく、きちんと体の向きを変えて対応している姿が好印象です。

石川:加藤官房長官、私も注目しています。記者対応も丁寧で感じがいいです。歩く姿を改めて確認しましたが、確かに膝が伸びています。まるでモデルウォーク!(座談会でその姿を紹介)

河野大臣は体の使い方に課題、腹筋ない?

鷹松:ちょっと頑張っているタイプとしてもう一名。河野太郎特命担当大臣です。国民にとっても親近感が持てる方ですが、ボディランゲージという観点からすると、やや課題があります。確かに使っているのですが内容とちぐはぐな時があるのです。演台のない時の挨拶を見たのですが、仁王立ちになるのが怖いらしく、手持ち無沙汰が不安になって言葉と関係のない内容で手を挙げていました。どうしてかなと観察しました。この方の場合、演台にいつも手を乗せていますのでこれが原因かもしれません。演台に手を乗せるのはいいのですが、手を開いて体全体を乗せてしまうので、猫背になってしまい、相手に圧迫感を与えます。演台に体重を乗せることで安定感を作っている、だから演台がないと体が不安定になり、ボディランゲージも取ってつけたようになる、という悪循環が生まれているのでしょう。このように全体重を乗せるのは、決してかっこいいという姿ではありません。演台の手の付き方を変えた方がよいでしょう。運動しているように見えますが、意外と体幹ないのかもしれない。体幹を鍛えて、体の使い方をもう少し工夫した方がよいでしょう。

石川:自分を大きく見せたいという気持ちが強い方なので、やはり体の動きに出るのでしょう。案外腹筋が弱いのかもしれませんね。菅総理のように毎日100回腹筋して鍛えた方がいいのでは。演台に全身を乗せてしまう癖があるので、いつまでも自分の軸で立てない。演台の使い方としては、手を乗せてはいけないわけではなく、少し添える程度がよいでしょう。

ボディランゲージが上手いのは、田村大臣と小泉大臣

鷹松:お手本になる方を二人紹介します。田村憲久厚生労働大臣と小泉進次郎環境大臣です。田村大臣の会見をたくさん見たのですが、とてもうまくて驚きました。原稿を読んでないわけじゃないけれど、きちんと自分の言葉になっています。原稿3割で後はずっと顔を上げています。だから、伝わり方が半端ない。自分の気持ちが文章の上にのっているので、ドスンとこちらに入ってきます。目線もジェスチャーも的確なのでとても感心しました。自分がどう見えるのか、想像力を働かせることが大切だと思います。小泉大臣は、皆さんもよくご存知ですが、うまいですよね。役者一家でもあるので、客観的に自分を見る力がもともと備わっているのかなと思います。

石川:田村大臣は、読み上げていても顔を上げる頻度が高いと思います。顔を上げたときに目線も一点だけではなく、2か所に目配りしています。1点ばかり見てしまう方が多い中、目配りができていると感じます。小泉大臣は、ある講演で語っていましたが、最初は誰も自分のスピーチを聞いてくれなかった、そこで落語の研究をするなどして努力を重ねたとのこと。結構努力家だと思いました。ですので、他の大臣も努力してボディランゲージ力をつけていただきたいですね。

顔のあちこち触るのはタブー、武田大臣

鷹松:最後は絶対やってはいけない癖を持つ人を発見しました。武田良太総務大臣、結構雰囲気がいいので期待していたのですが、ボディランゲージを追いかけていたら、会見中に顔のあちこちを触るという癖を見つけてしまいました。とても残念な発見でした。茂木俊充外務大臣は、たまたまだった可能性はあります。武田さんの場合は、耳触る、頬触る、両方の頬を触った後に鼻を触る、触る。髪の毛触るのもタブーなのに顔触るかなと。ああ、もう不潔な印象になります。本当に残念。

石川:自分で気づいていないでしょう。こういった癖は、気持ちを落ち着かせるためだったりしますから、別の癖にしていくとよいのでしょう。癖は気づけば直せますから。

鷹松さんの解説面白かったですね。いろいろな発見がある企画でした。この記事を読んだ大臣達が、適切なボディランゲージ力をつけてくださることを期待したいと思います。

<動画による解説>

メディアトレーニング座談会(広報リスクマネジメント研究会 NPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会)

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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