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ゴーン氏会見、身振り手振り「眉ぶり」で猛烈アピール、レバノンで見せつけた巧みさ

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

 海外逃亡した元日産会長のカルロス・ゴーン氏がレバノンで1月8日22時から記者会見を開きました。第一印象としては、ゴーン氏らしい会見だったということです。理由は、キーメッセージが明確であった、身振り手振りが満載で眉毛もよく動いてアピール力があった、記者からの質問さばきも多言語対応で巧みであったからです。具体的に解説します。

キーメッセージが明確だった

 全体の流れを振り返ります。最初の1時間はゴーン氏による華やかなプレゼンテーション。家族・友人への感謝から始まりました。そして、日本の検察は人権侵害していることを強調。理由としては、公正な裁判が受けられない、99.4%が有罪になる、公判の日程も決まっていなかった、決まってもすぐに延期される状況で5年もかかると言われた、家族に面会できなかった。妻に会いたかったと情に訴えます。そして、今回の事件は日産幹部と検察によって仕組まれたもので、日産幹部のクーデターであるとし、実名を公表しました。その背景にある3社連合における自分の役割とその排除であったと説明。さらっと流していたのは、会社資産の使い込み疑惑の部分。証拠書類を表示しながら、海外の住宅は日産の所有物である、ベルサイユはスポンサーだったから無料で借りたと説明。最後に、東日本大震災で自分が真っ先に福島に入って再建に取り組んだ実績を強調。外出した際、日本人にはひどいことを言われなかった、励ましてくれた、私は日産を愛している、日本を愛している、と締めくくりました。

 内容に新しい情報はありませんでしたが主張が明確であったといえます。キーメッセージは日本の司法制度は人権侵害である、でした。無罪主張ではない点がこれまでと異なります。違法かどうかを焦点にさせない狙いがあるといえます。そもそも海外逃亡した時点で違法ではあります。日産幹部については実名を公表することで社会的制裁、反撃をしています。肝心の疑惑は証拠書類を見せるパフォーマンスがありました(正確性は不明なので検証不可能)。日本の政府は関係しているといいつつ、安倍首相は関係ないと明言し、日本政府や国民を敵に回さないための配慮がありました。告発、反撃、釈明、実績と猛スピードがまくしたてつつも、家族への感謝から始まって日本への愛というトーンで締めくくる流れはよく考えられていました。

身振り手振り眉ぶりで強烈にアピール

 記者会見は全体で2時間半。最初の1時間はゴーン氏からの説明。休憩をはさんで90分は質疑応答。質疑応答時間を若干多くしている点が心憎いです。各種報道によると、会見場に入ることができたのは、フランス、レバノンなど12か国60社、120席が満席で、日本の報道機関は3社程度。記者会見はフランスのPR会社が仕切り、「ゴーン氏が知り合いの記者らを招く懇親会的な位置づけ」と説明したようです。「会見」ではなく「懇親」とすることで批判をかわす狙いがあったことがわかります。

 質疑応答は、アラビア語、フランス語、ポルトガル語、英語など複数言語が飛び交いましたが、全ての言語でゴーン氏自らが回答しました。それだけで有能であることをアピールする効果はあったと感じます。

 ゴーン氏と親しい記者のみ集められたと報じられていますが、厳しい質問もありました。「日本で違法行為をしたからここに至る事態になったのでは」「レバノンは汚職まみれの国。この国で公正な司法制度があるとみなされていない。ここで本当に汚名返上ができるのか」「ルノーについて思うことをコメントしてほしい」。ゴーン氏の回答は、「検察は私より10倍違法行為している。情報漏洩という違法行為だ。日本のジャーナリストはみな検察から情報もらったといっている」「レバノンには有能な人がいる。腐敗で真っ先に浮かぶのはレバノンではない」「今日のテーマは日本のみ。ルノーについては語らない」。反論、ずらす、テーマ制限、と巧みでした。次々に質問者を指名して追加質問させない仕切りで自分のペースを作り出していました。

 身振り手振りだけでなく「眉ぶり」もよくエネルギッシュ。2019年4月のビデオメッセージと内容を比較するとよくわかります。ビデオメッセージはネクタイもせず、身振り手振りもなく内容も散漫、面白さもアピール力もありませんでした。今回の記者会見は、招集するメディアの選定、明確なキーメッセージ、話の流れ、非言語の身振り手振りでのアピール、多言語回答のスマートさ。よく考えられていました。フランスのPR会社は与えられたミッションを果たしたということでしょう。

 裁判が開かれないとなると、今後の主戦場は報道の場になるのかもしれません。

2019年4月8日 再逮捕後に配信されたゴーン氏のビデオメッセージ

https://www.youtube.com/watch?v=21kCyZKyYB8

2020年1月8日 海外逃亡後、レバノンで行われたゴーン氏の記者会見

https://www.youtube.com/watch?v=ot5G14GZNyc

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長

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