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過去最多の子どもの自殺をくり返さないため、連休明けに注意を

石井志昂『不登校新聞』代表
教室のイメージ写真(写真:アフロ)

 昨年1年間の小中高生の自殺者数が、過去最多の499人にのぼっていたことがわかりました(※1)。国立成育医療研究センターの調査によれば、小学校4年生から高校3年生の4人に1人が「死にたい」などと考えていたこともわかり、新型コロナウイルス感染拡大の影響は、子どもの自殺というかたちでも表れています(※2)。昨年の月別自殺者数を見ると、5月から一昨年のペースを上回りはじめ、6月と8月という休み明けに自殺者数が突出していました。6月は3か月間に及ぶ一斉休校明け。8月は前倒しされた夏休み明けでした。

 一方、コロナ禍は現在も進行中です。このままでは、今年も多くの子どもの自殺が出てしまうかもしれません。そこで子どものSOSが出始める5月の連休明けに今年は気をつけていただきたいと思っています。なぜ5月の連休明けなのか。周囲はどんな対応が必要なのかをお伝えしたいと思います。

昨年5月から現場では危機感も

 教育や精神医療の現場では、昨年の5月ごろからコロナが子どもの心に与える影響を感じていたそうです。東京都品川区で不登校の子を支援している「子ども若者応援ネットワーク品川」代表の中塚史行さんは、昨年1年間をふり返って、このように語ってくれました。

「子ども若者応援ネットワーク品川」代表の中塚史行さん(同団体撮影)
「子ども若者応援ネットワーク品川」代表の中塚史行さん(同団体撮影)

 「うちの団体には、コロナ禍が始まって5月にメンタルヘルスの悩みが来て、6月に不登校の相談が来て、8月に家にいられなくなった子たちの家出の相談が来て、12月からは生活困窮の相談が増えていきました。今どうなったかと言えば、それらの問題が解決せず全部が重なりあっているので、かつてないほど子どもの状況が深刻になっています」(中塚)。

 国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦先生も昨年の5月連休ごろから「若年層の自殺未遂や自傷行為が多くなった」と語っています。昨年5月というのは、第1回の緊急事態宣言が発令されてから1か月が過ぎたころです。いつまで緊急事態が続くのか、大人も子どもも先行きの不透明さを強く感じ始めていた時期でした。このころから現場では相談件数が増えていたそうです。

4人に1人が「死にたい」

 では、現在の子どもの状況はどうでしょうか。おそらく昨年5月よりも強いストレスを子どもは感じているようです。

「withコロナのいま こどもたちの生活とこころの様子」より(作図・国立成育医療研究センター)
「withコロナのいま こどもたちの生活とこころの様子」より(作図・国立成育医療研究センター)

 国立成育医療研究センターは、2020年11月17日から12月27日にかけて調査を実施。調査結果によれば、小学4年生から高校3年生の715名のうち、24%の子が「この1週間のうちで死にたい、自分を傷つけたいと思った」と回答。さらに回答結果から、24%の子どもが中程度以上のうつ症状を抱えていたと分析しました(思春期のうつ症状の重症度尺度PHQ-A)。単純比較はできませんが、4人に1人が「死にたい」と考えていたり、うつ症状が見られたりするのは非常に多いと言えるでしょう。

子どものSOSは声にならない

 子どもがストレスをため込んでいても、周囲の大人がSOSに気がつき、ケアできれば、苦しさは解消されていきます。では、ストレスをため込んだ子はどんなSOSを出すのか。まず前提として知っていただきたいことは、多くの子どもが言葉でSOSを訴えることがない、ということです。親を心配させたくなかったり、言葉にしづらかったりするからです。その代わり、体調や行動の変化などが見られます。言わば体からSOSが発せられます。具体的には下記のような状態がSOSのサインです。

  • 体調を崩しやすくなる
  • 何度も手を洗うなどこだわりが強くなる
  • ストレス発散のため兄弟やペットなどをいじめる
  • 連休明けや学校行事後に登校できなくなる

 私自身、不登校だったこともあり、20年以上にわたり、不登校を取材してきました。そのため連休明けや「5月の学校行事」のあとに不登校が増えることは、コロナ禍以前から肌で感じてきました。5月は、新年度になってからの環境の変化や人間関係の変化で疲れてしまったり、苦しんだりした人の気持ちが噴き出す時期だからです。心の中に疲労やストレスが蓄積していると、連休中に、自分が苦しかったことに気がつき、無意識に学校を遠ざけようとする人も多いです。上記のようなSOSが出ていたらば、とくに複数、重なっているようならば周囲はケアを最優先にしてほしいと思っています。

連休明けの突然の体調不良も

 学校を休んだり、体調を崩しやすくなったりする人が、どんな心理状態なのかを紹介したいと思います。学校1年生から高校3年生まで断続的に不登校をくり返していたりゃこさんのケースです。りゃこさんもまた5月に自身の異変に気がついた1人です。当時の様子をりゃこさん自身が漫画化しています。

私の不登校ものがたり(作者・りゃこ)
私の不登校ものがたり(作者・りゃこ)

私の不登校ものがたり(作者・りゃこ)
私の不登校ものがたり(作者・りゃこ)

 このあと、りゃこさんは遅刻や早退をくり返しながら高校は卒業しました。無理をさせて無遅刻・無欠席を目指すような指導ならば、りゃこさんは学校から離れていたでしょう。

 漫画のように気持ちが読み解ければ、周囲も対応しやすいのですが、現実は、これほどわかりやすくはありません。また、子どもは「つらい」「きつい」「もう行きたくない」など、さまざまな不平不満を日常的に口にします。保護者や先生としては、本当にSOSを出しているのか迷うことがあるかと思います。「勉強が遅れたら将来、困るのでは」と心配されます。しかし、どうか学力と命を天秤にかけないでもらいたいと思います。命あっての将来ですから、身体症状や行き渋りがあった場合は、子どものケアを最優先してほしいと思います。

苦しそうな子への対応原則

 目の前の子が心配な場合、どう対応をすればよいのか。非専門家向けに「TALKの原則」と呼ばれている自殺対策の原則があります。この原則は、カナダの自殺予防のグループがつくったもので、日本でも前述の精神科医・松本俊彦先生や、国立成育医療研究センターこころの診療部・田中恭子先生がその重要性を指摘しています。TALKの原則とはなにか。文科省のガイドブックから引用します。

 子どもから「死にたい」と訴えられたり、自殺の危険の高まった子どもに出会ったとき、教師自身が不安になったり、その気持ちを否定したくなって、「大丈夫、頑張れば元気になる」などと安易に励ましたり、「死ぬなんて馬鹿なことを考えるな」などと叱ったりしがちです。しかし、それでは、せっかく開き始めた心が閉ざされてしまいます。自殺の危険が高まった子どもへの対応においては、次のようなTALKの原則が求められます。

■TALKの原則

(1)Tell:言葉に出して心配していることを伝える。

(2)Ask:「死にたい」という気持ちについて、率直に尋ねる。

(3)Listen:絶望的な気持ちを傾聴する。

(4)Keep safe:安全を確保する。

(文科省『教師が知っておきたい「子どもの自殺予防」』より)

 私になりに意訳しますと、心配な子が現れた場合、周囲の大人は、(1)私は『あなたが心配だ』と誠実な態度で伝え、(2)自殺についての思いを率直に尋ね、(3)話は最後まで聴き、(4)話を聞いて危ないと思ったら安全を確保する。以上です。

 「安全確保」とは、緊急時ならば目を離さないこと、いじめが起きている場合は学校へ登校させないことです。いじめなどの暴力を受けていると、恐怖感のあまり不登校を本人が拒む場合もありますが、危険な場所からは本人を遠ざけてください。心身の安全が確保できた段階で、あらためて本人の意思確認を行なったり、精神科など専門家へ相談をしたりといった対応をお願いします。

死ぬなという言葉が裏目に

 TALKの原則を違えた場合、本人がどのように傷つくのか。私が編集長を務める『不登校新聞』に、さゆりさん(20歳)がその心境を執筆してくれたことがありました。

さゆりさん(撮影・矢部朱希子)
さゆりさん(撮影・矢部朱希子)

 さゆりさんは小学生のころ、ばい菌扱いをされる、無視されるなどのいじめを受けていました。「がまんをしなければ」と学校へ通い続けましたが、中学校、そして専門学校に通ってからも、いじめの後遺症とも言える人間不信に苦しみ、不登校になります。原因はいじめなのですが、本人の意識としては「また不登校になってしまった」と自分を責めたそうです。ある日、その思いが高まって自室で泣きじゃくった挙句、リストカットをしました。たまたま居合わせた父親が止めに入ると、さゆりさんは「私は人に迷惑しか、かけていない。死んだほうがマシだ」と訴えました。父親は「死なれたら困る」「頼むから死ぬな」と言ったそうです。さゆりさんは、その一言に傷つきました。自分の感じている苦しさが、「死ぬな」という言葉で否定された気がしたからです。いまふり返って、さゆりさんは当時のことを、こう書き記しています。

 父とのやりとりのあと、私は本当に望んでいたことがが、わかりました。私は本気で死にたいと思っていたわけじゃない。今のつらさをただ受けとめて、どうしたら楽になれるのかを教えてほしかったんだ。「死にたい」という言葉は、つらくて、どうしようもなくなった私からのSOSでした。(2020年4月15日号 不登校新聞)

 どうすればよかったのかと言えば、TALKの原則です。本人の「絶望的な気持ちを傾聴する」という姿勢が必要で、頭ごなしに否定してはいけなかったのです。本人をこれ以上傷つけたくない、苦しい時ほど力になりたいと思っていたらば、知識が必要です。気持ちだけでは裏目に出てしまうことがあります。そして、これから連休が明けます。この「長期の休み明け」は子どもがとくに不安定になりやすい時期です。いま一度、周囲の子は大丈夫か、目を配っていただければと思います。

※1厚生労働省「令和2年中における自殺の状況/補表3-1職業別自殺者数」

※2国立成育医療研究センター「コロナ×こどもアンケート 第4回調査報告」

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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