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いじめのピークは小学校2年生 低学年ほど注意を

石井志昂『不登校新聞』代表
2019年度調査の学年別いじめ認知件数(文科省調査資料より筆者作図)

 学校では新年度が始まって数週間が経ちました。この時期は不登校が増えやすい時期でもあります。要因のひとつはいじめです。いじめは、中高生のイメージがあると思います。国の調査を見ても、10年前の学年別のいじめ件数を見ると中学校1年生がピークでした(※1)。ところが現在のいじめ件数のピークは小学校2年生です。さらに言えば学年別のトップ3は小学校1年生から小学校3年生が占めるなど、いじめの低年齢化は顕著です。

2009年度調査の学年別いじめ認知件数(文科省調査資料より筆者作図)
2009年度調査の学年別いじめ認知件数(文科省調査資料より筆者作図)

 低年齢化の問題は、子どもが小さいころからいじめで苦しむという事実にとどまりません。親や先生が「子どものやったことだから」「悪ふざけだから」と、その被害を軽視してSOSを見逃しがちになることも大きな問題なのです。低学年のいじめはどんなものか、そしてなぜ低学年のいじめが増えたのか、を解説したいと思います。

小1から陰湿ないじめが

 eスポーツの分野で活躍中の永田大和さん(19歳)は、小学校2年生から小学校4年生にかけていじめを受けていました(※2)。

 「同級生からは『居ない者』として扱われることが多かったです。ほかにも、物を隠されたり、心当たりのない噂を流されたりすることもありました。殴る、蹴るという暴力もありましたが、多かったのはそういうネチネチしたやつでした」(永田大和)。

 小学校にとどまらず、幼稚園から「コミュニケーション操作系のいじめが始まっていた」と語った女性(20歳)もいました。女性は幼稚園のころから、仲間外れなどのいじめを受けていたため、小学校に入ってからは、いじめられないキャラを研究。その後は「自分を取り繕うように生きてきた」と話してくれました。これらの声を聞くと小学校低学年からたしかにいじめが起きているようです。

調査方法の変更も

 なぜ、小学校低学年のいじめが増えたのか。専門家たちの意見を総合すると、要因は2つです。

 1つ目は調査の定義が変わったこと。数年前から文科省は、ひやかしや悪ふざけと言った軽微な事例も報告するよう文科省が求めており、これに応じて小学校低学年のいじめ件数は増えました。中学1年生がいじめのピークだったのが、小学校2年生に移ったのは2016年度の統計からです。現場の教員に聞くと、小学校低学年の場合、「いじめられた」と訴える子は、そもそも多かったそうです。6年前、小学校教員は「クラスの4割ぐらいの子はいじめられたと答える。そのなかで悪ふざけやけんかの類は精査していた」と話していました。それが最近では積極的な報告が求められ、小学校低学年のいじめ件数が増えたと考えられています。

 2つ目のの要因は、実際に小学校低学年時のいじめ自体が増えたこと。不登校の子たちなどを長年にわたり見てきた西野博之さん(フリースペースたまりば代表)は、いじめの低年齢化を「肌で感じる」とも言っていました。人間関係を築きづらい子が増えており、暴発してしまう子も増えてきたそうです。西野さんによれば、いじめが増えたのは子どもの性格が悪くなったわけではなく「小さいころからストレスを溜めこむ子が増えたから」だと指摘しています。その背景にあるのが早期教育。幼稚園や保育園のころから、学校に適応するための教育が盛んになり、手遅れにならないようにと習い事を掛け持ちする子が増えてきました。早期教育自体は、以前からも言われていたことですが、ここ最近はとくに教育の前倒しが進んでおり、西野さんは「子どもたちの生きづらさはピークに達している」と言います。

 30年以上にわたり、小学校教員を務めてきた先生も「子どもたちが苦しそう」だと指摘していました。チャイムが鳴る前に座る、私語禁止の給食、班ごとに決めたマナーやルールを守らせるなど「子どもたちに求められる規範意識は年々、高くなってきていて、子どもがすごく息苦しそう」だと。高い規範意識を求められた子どもたちは、表面上は「よい子」や「問題のない子」に見えるものの、仲間内で暴力が横行してしまう、あるいは、ごく少数の子がそのストレスを爆発させてしまうそうです。

コロナ禍の今だからこそ

 コロナ禍の影響で、今後、いじめが増えることも懸念されています。NPO法人「共育の杜」の調査によれば、コロナ禍の影響によって9割の教職員が「今後いじめが増える可能性が高い」と回答していました(※3)。

 子どもがいじめで苦しんでいる場合、どうしたらよいのか。私の考えを言えば、SOSを受け取った大人がいち早く、問題の現場から子どもを切り離し、安全を確保してもらいたいと思います。子どもが学校を休めば「社会性や学力が身につかない」と不安視される方もいます。しかし、いじめを受け続けて身につくのは学力や社会性ではありません。憎しみや自己否定感です。親や先生に訴えても救ってくれなかったという不信感です。私はたくさんのいじめ経験者に取材してきましたが、避難が早かった人ほど、心の回復は早い傾向がありました。

SOSのパターンは3つ

 いじめから子どもを守るためには、いち早くSOSを受け取る必要があります。しかし、ほとんどの子はSOSを言葉で発しません。いじめられていたことを恥じていたり、親に心配をかけたくないと思ったりしているからです。ただし、ストレス度の高い子どもは、かならず行動や体調が変化します。つまり体からSOSのサインを出すのです。そのパターンは3つあります。

 1つ目のパターンは「体のサイン」。体調が崩れやすくなったり、発熱や頭痛、食欲不振など体に異変が起きます。2つ目は「心のサイン」。イライラしやすくなったり、突然泣き始めるなど感情の起伏が激しくなります。3つ目は「行動のサイン」。急に甘え始めたり、兄弟やペットをいじめ始めたり、お風呂やトイレが長くなるなどふだんとはちがった行動の変化を見せます。

 これらのSOSサインが1つでもあてはまれば不安ですが、複数、重なるようだと周囲の大人は勇気をもって子どもへの心のケアを最優先してほしいと思います。

 また、SOSサインが出る前にできること、子どもがSOSを出しやすくなる関係性づくりも重要です。一番の方法は子どもとの雑談を楽しむことです。大人からは「注意されるだけ」という子もたくさんいます。「手洗いはした?」「宿題はした?」「まだ着替えていない?」などの言葉は会話ではなく注意です。子どもが望んでいることの一つが、自分が楽しかったことやゲームでうれしかったことを誰かに聴いてもらうことです。半分以上、話の内容がわからなくても、「へー、くわしいね」「おもしろいね」と言ってくれたら、子どもの気持ちはだいぶ晴れやかになります。

 SOSと対策は以上です。まだまだコロナ禍は収まる兆しを見せません。こんなときだからこそ、周囲の大人ができることを一つずつ、積み重ねていきたいものです。(石井志昂)

※1・平成21年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」、令和元年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」から参照。また、いじめ件数の呼称は「発生件数」ではなく 「認知件数」 に2006年度から改められている。いじめは第三者からは見えづらく「教員が認知できた件数は真の発生件数の一部である」という認識からの呼称変更。文中では端的に「件数」と省略。

※2・永田大和さんへの取材は「若者チャレンジ応援事業 若チャレ」で行なったもの(2021年2月13日)

※3・NPO法人教育改革2020『共育の杜』教職員勤務実態調査(2020年8月21日発表)

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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