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「育て方を間違えたから?」子どもが不登校になった親の特徴は

石井志昂『不登校新聞』代表
「特徴を探すこと自体がまちがい」と指摘する明橋大二医師(『不登校新聞』撮影)

 夏休み明けは、もっとも不登校の人が増える日です。不登校の子どもたちが集まるフリースクールなどから情報を聞くと、コロナ禍にあっても、それは変わらないようです。また、この時期、不登校の第二検索ワードとして調べられる単語は「不登校の親の特徴」なんです。

 「不登校親にはどんな特徴があるのでしょうか?」という問いは、以前から、私自身も聞かれた質問でもありました。今回は、不登校についてくわしい医師、学者、フリースクールの代表、臨床心理士 という4人の専門家に「不登校の親の特徴」をうかがってみました。

特徴を考えても子どもは支えられない

明橋大二医師(『不登校新聞』撮影)
明橋大二医師(『不登校新聞』撮影)

心療内科医・明橋大二さんの話(富山県)

 「不登校の親の特徴」についての記事を読んだこともありますが、私は「特徴とは?」という問いかけ自体に問題があると思っています。

 当然、虐待をして学校へ通わせない例を除いて考えますが、不登校の親にはさまざまな親がいて、それは不登校ではない子どもの親に、さまざまな親がいるのと同じです。統計的に不登校の親の特徴を証明されたとしても、それは子どものためにならない結論でしょう。親の特徴が特定されたら、親は自分を責めて償いをしたいと思い、なんとか学校へ親の責任で戻そうとします。そうなると、子どものペースで支えることができなくなってしまいます。

 私は、子どもについて真剣に心配する親御さんに、たくさん出会ってきました。そういう親御さんには「不登校は親の育て方が悪かったせいではない」と私は伝えています。そうすることで、親の肩の力が抜け、結果として子どもが楽になり、元気になるからです。「不登校の親には特定の性格傾向がある」というような考え方は事実としてまちがっていますし、子どもを支えるという意味でも、マイナスな発想でしかないと私は思います。

親に要因を求める議論は半世紀も前に終了

臨床心理学者・西村秀明さん(『不登校新聞』撮影)
臨床心理学者・西村秀明さん(『不登校新聞』撮影)

臨床心理学者・西村秀明さんの話(山口県)

 「不登校の親の特徴」について系統的な調査研究はありません。私自身が、相談を受けてきた印象で言えば、一般のご家庭の親御さんとなんら変わったところはありません。わが子の不登校に混乱し「子育てをまちがえていたのでは」と不安を抱える親御さんは多々おられますが、これは個人の特徴というより、日本の文化的特徴ではないかと思われます。

 一方、「不登校の原因は親にある」と誤解を受けそうな議論は歴史的になされてきました。1941年のアメリカの児童精神科医・ジョンソン氏による「母子分離不安説」をはじめ、「父親の不在説」「夫婦の不和説」などの学説がそれにあたります。これらの主張を強引にまとめるならば「本質的には子どもは学校を避けているのではなく、母親と離れることに強い不安を感じて不登校になっている」という論理です。しかし、これらの主張は1960年代に入ってから否定され、以降はそれまで中心的だったアメリカの医学界においてあまり議論されなくなります。ところが、日本ではその1960年代に「母子分離不安説」が紹介されて瞬く間に広がり、やがてその説が批判的に捉えられ始めたのは1980年代に入ってからでした。

 不登校に関する論文は現在でも出ていますが、「親の特徴」についての明確な調査研究は見つかりません。ですから、不登校の親の特徴は個人の所感で答えるしかなく、その特徴に「偏りはない」というのが正直な印象です。

どんな親の子でも不登校になりうる

「函館圏フリースクールすまいる」代表・庄司証(撮影者提供)
「函館圏フリースクールすまいる」代表・庄司証(撮影者提供)

「函館圏フリースクールすまいる」庄司証さんの話(北海道)

 たくさんの不登校の親と出会いましたが、「不登校の親の特徴」を言い表すことはかんたんではありません。強いて言うならば、国は「不登校はどの児童生徒にも起こり得る」と見解を示しているのですから、「どの親でも不登校の親になりうる」と捉えるべきではないかと思っています。

 不登校の理由は、子ども本人でもわからないことが多いんです。そのため、お子さんが不登校になると、家庭に原因があったのかもしれないと思い、「もっとよい親であろう」と思われる方は多いです。子どもにとっては「よい親」を目指されるのはうれしいことですが、よい親になることと子どもが学校へ行くことは別の話です。

 子どもが学校へ行けるような「よい親」を目指すのではなく、学校の重圧から解放されて、その子自身にあった環境を整えていこうと考えるのはどうでしょうか。これまで気づかなかった子どもの姿や新しい発見があるように思うのです。

おたがいを思う気持ちから負のループも

臨床心理士・掛井一徳さん(撮影者提供)
臨床心理士・掛井一徳さん(撮影者提供)

臨床心理士・掛井一徳さんの話(愛知県)

 「こんな親の子どもは不登校になりやすい」という傾向はありません。ただし、不登校になったあとでの親子の心情には「負のループ」とでも言うべき傾向があります。

 不登校になると親は「子育てが悪かったのでは」という自責の念と、子どもに対する心配な気持ちが沸きます。不安に思うことは悪いことではありません。親としては当然のことです。一方、子どもも悩んでいます。そのうちの一つが、親の悩んでいる姿を見て「自分のせいだ」と思うことなんです。悩むがゆえに親を避けようとして部屋にこもる子もいます。親に怒鳴る子もいます。そうなったら親はよけいに悩みますよね。

 このように心配な気持ちや自責感が親子間でぐるぐると循環して、親子とも弱ってしまうことが往々にしてあるんです。親子の距離間は不登校になると物理的に近づくため、「負のループ」がとっても起きやすくなります。

 では、どうすればいいのか。傷ついている子ども自身よりも、親が動けることのほうが多くあります。「親の気持ちや思いを第三者に聞いてもらう(不安を煽る人の話は聞かなくて大丈夫)」「『この子はきっと大丈夫』という思いを掘り起こす」「子どもが親との距離間を縮めてくるのを待つ」などです。子どもを支える親自身の心情が好転していくと、親子関係も変わり、子ども自身も楽になっていくものです。

本人の笑顔になれる環境を

不登校経験者・石井志昂(『不登校新聞』提供)
不登校経験者・石井志昂(『不登校新聞』提供)

 私は自分自身が不登校であり、20年間、不登校に関する取材をしてきました。私自身も「専門家」として発言できるならば、「不登校の親の特徴はない」と言いたいと思います。また、不登校は男女比の偏りもなく、都道府県別の発生率も1%から2%に収まっており地域差も、ほぼありません。

 どんな子どもでも、どんな親でも不登校は起きます。その際、親ならばかならず「育て方をまちがえたから?」と自分を責める気になりますが、そんなことはありません。また、怠けたいから、ズルをしたいから不登校になったという人は私の知るかぎり、一人もいませんでした。9月中旬までは、まだまだ登校に関して揺らぎの多い時期を過ごす子どもも多いです。「誰かのせいで不登校になった」という眼ではなく、本人が笑顔になれる環境に向けて、周囲がサポートしてほしいと思っています。

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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