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コロナ禍でいつもと違う「夏休み明け」 75%の子どもにストレス反応【#コロナとどう暮らす

石井志昂『不登校新聞』代表
学校の机とランドセル(イメージ)(写真:アフロ)

 「今年は例年以上に夏休み明けへの注意が必要」。新型コロナウイルスの影響により全国で9割以上の小中学校で夏休みが短縮されるなか、あるフリースクール関係者がそう懸念しています。全国的に「夏休み明け」が重なる9月1日は、登校をめぐる子どもの悩みがもっとも高まる日です。今年は夏休み期間が短縮され、例年の半分にあたる17日間とする学校が多く、きょう17日から断続的に各地で「夏休み明け」を迎えます。ではなぜ今年は注意が必要で、どんなことに気をつければいいのか。専門家の話も交えて紹介します。

75%の子どもがストレス反応、コロナ禍のアンケート

 例年「夏休み明け」は不登校や自殺が増える傾向にあります。 この理由は、休みの期間が長いからではありません。「学校が苦しい」という原因があるから追い詰められ、休み明けに気持ちが爆発してしまうわけです。とくに今年は、休校明けの6月ごろからフリースクールへの相談が増えており、学校で苦しむ子が増えているのを現場では肌で感じているようです。

 また、コロナ禍における生活のなかで、4人中3人の子どもがストレス反応を見せていることが、国立成育医療研究センターのアンケート調査でわかりました(※1)

 アンケート調査は、2020年4月30日から5月31日の期間に実施されたもので、7歳から17歳の2591人が回答しています。回答者のうち「すぐにイライラする」「コロナのことを考えると嫌な気持ちになる」などのストレス反応を示していた子が全体の75%を占めていました。とくに回答が多かった項目は「最近、集中できない」(4割程度)、「寝付けなかったり、夜中に何度も目が覚めたりする」(2割以上)など。

 このように苦しんでいる子が多ければ、心配な事態が広がっていくことが予想されています。

周囲は気をつけたい3つの前提

 そこで、夏休み中から夏休み明けの対応として「気をつけたい3つの前提」を、不登校経験者や専門家の声をもとにまとめてみました。下記のような前提を知って、子どもと向き合っていけばおのずと解決へと近づいていくはずです。

(1)不登校で大事なのは予防ではなく対応

 国の調査によれば不登校になる理由の半数は、いじめなど人間関係のトラブルです。(※2) いじめは「SNSいじめ」に代表されるように、大人の目が届かないところで発生します。

自身のいじめ経験などを積極的に発信する中川翔子さん(撮影・不登校新聞)
自身のいじめ経験などを積極的に発信する中川翔子さん(撮影・不登校新聞)

 また、どんな子どもでも不登校になります。20年間、不登校を取材したなかでは、あらゆるタイプの子と出会いました。勉強がすごくできる秀才、学級委員をいつもやっていた優等生、運動が得意だったクラスの人気者、髪を金髪に染めてやんちゃだった子、クラスカーストの頂点にいたまとめ役などなど。タレントの中川翔子さんや、演出家の宮本亜門さんも昔は不登校をしていました。

 不登校は誰でも起こりえますし、その要因は、大人たちの見えない領域でも発生します。また、どんな場や機関でも合わない人はいますから、すべての人が満足して通える学校などつくれるはずがありません。また、学校に通う以外の選択肢がほとんど認められていない現状のようななかでは、不登校の予防は非現実的なことです。むしろ大事なのは予防ではなく、不登校になっても、本人が傷つかずに支えられる対応です。

(2)学力の遅れは取り戻せる

 心に負荷がかかりすぎると、自分の意思に反して勉強が手につかなくなる子がいます。「形だけでもいいから」と無理をさせて周囲が勉強をさせようとすれば、子どもを追い詰めてしまうことかあります。

公認心理師・緒方広海さん(撮影・LITALICO)
公認心理師・緒方広海さん(撮影・LITALICO)

 公認心理師であり、学習に困難を抱えた子をサポートしてきた緒方広海さんは「学力の遅れは取り戻せます。イヤイヤ勉強しても本人はつらいだけなので、学力は身につきません」と指摘します。また、同年代と比べて子どもの学習ペースが半年や1年ほど遅れても「そんなに大きな差にはならない」とも話しています。学校の授業は集団に合わせて教えるため、学習ペースが遅いからです。

 緒方さんが見てきたケースでは小学校1年生から中学1年生までの7年間、まったく勉強をせず、中2から勉強を始めて希望する高校に入学した、というものがありました。私もほぼ同様のケースを取材したことがあります。小学校1年生から不登校になり 、中学3年生まではほぼまったく勉強をせず、中3から勉強を始めて都立高、京大へと進学した例もありました。

 嫌がってでも勉強をさせるより本人の主体性や「得意」を尊重してほしいと緒方さんは指摘しています。周囲の大人がこうした事例を知り、学習の遅れが取り戻せることを知っているだけでも、子どもに対する接し方は大きく変わるのではないでしょうか。

(3)子どもは「大人」になるために生きているのではなく「いま」を生きている

発達心理学者・浜田寿美男さん(撮影・不登校新聞)
発達心理学者・浜田寿美男さん(撮影・不登校新聞)

 発達心理学者・浜田寿美男さんは、現在の子育て観を下記のように批判しています。「いまの子育て観、教育観では『子どもは大人になるための準備の時代』であるかのように思われていますが、そもそも人生に準備の時代というものがあるでしょうか。子どもは『子どものいま』という本番を生きています」。

 「子どもを大人にする」のが親や教師の目標だと感じている人は多いのではないでしょうか。しかし、浜田さんが指摘するように、子どもは、いまを生きているわけです。大事なのは、子どもがいま、幸せかどうかです。死にたいほど行きたくない学校へ行くことや、まったく手につかない宿題をするのは、あまりに「いま」が犠牲になっています。いまを大切にしてあげる視点が子育てや教育においても大事だと思えてなりません。

 以上が大事な前提です。これらを意識した状態で、子どもと向き合えば、子どもが学校で苦しむことになっても、子どもの側に立って親や教員は考えられます。それがひいては、子どもの今と人生を守ることにつながっていくと、感じています。

 最後になりましたが、親や教員が子どもの不登校や行きしぶりを一人で考えて解決しようと思うことは危険なことでもあります。私が取材してきた親や教員は、子どもが不登校になると、苦しさに気がつけなかったことを悔いたり、この先、どうしたらいいのか途方にくれたり、感情や思考がぐちゃぐちゃになってしまいます。子どもと深く接していればいるほど客観的に物事を判断するのは難しいです。もちろん相談相手が複数人いれば冷静になって建設的なことを考えられます。子どもが苦しんでいたら下記のような専門的知見を活用ください。

相談窓口(画像制作:Yahoo! JAPAN)
相談窓口(画像制作:Yahoo! JAPAN)

■不登校の相談窓口

「フリースクール全国ネットワーク」(電話03-5924-0525)

「登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク」(電話03-3906-5614)

■18歳までの子どもたちのための専用電話(相談電話)

「チャイルドライン」0120-99-7777

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※1「コロナ×こどもアンケート」第1回調査報告書/2020年6月22日

※3「不登校に関する実態調査」2014年7月9日

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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