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非常時の不安が招く「コロナいじめ」 原発避難の教訓から考える4つの対策【#コロナとどう暮らす

石井志昂『不登校新聞』代表
教室(イメージ)(写真:アフロ)

 Yahoo!ニュースでは、新型コロナウイルスを経験した社会が今後どのように変化していくのか、みなさんが不安に感じていることをコメント欄に記載する記事を公開しています。そのなかから「学校でのいじめ」に関して不安を感じている人がいたので、20年近くいじめや不登校を取材してきた私なりの見解を述べたいと思います。

 「学校で、1人でも感染者が出たら…学校は閉鎖になるのか? そうしたら、◯◯のせいで学校閉鎖だ、ていじめに繋がるんじゃないかなどが心配です」(原文ママ)

 このようなコメントがYahoo!ニュースに投稿されました。感染症の蔓延や緊急事態宣言などで生活や健康への不安が広がっており、こうした心配をされる方も少なくないと思います。実際にこうしたいじめは「コロナいじめ」と呼ばれ、4カ月ほど前から発生しています。

すでに発生している「コロナいじめ」

 「コロナいじめ」が初めて注目されたのは、2020年1月30日、千葉県鴨川市の亀田総合病院が、「病院職員の子どもらがいじめにあって いる」と市に訴えたことがきっかけでした。

 鴨川市教委は、2月4日に市内の全小中学生に「いじめアンケート」を実施。約1863人中5人の子どもが「コロナウイルスにかかっているとからかわれた」などと回答していました。こうした動きと連動して千葉県教委は、1月30日に県内の小中学校などに通知。2011年の福島第1原子力発電所事故により避難した子どもがいじめにあったことを教訓とし、「同様の事態が発生すること のないよう未然防止に細心の注意を」と求めていました。

原発事故後にも起きていた非常時のいじめ

 千葉県教委がコロナ禍で「教訓」とするよう求めたのは、「原発避難いじめ」と言われてきたものです。原発避難いじめとは、原発事故によって避難した子どもたちが受けたいじめです。今回の教訓とするためにも、原発避難いじめを解説していきます。

 2017年に文科省が調査したところ、福島から避難した子どもへのいじめは同年までに全国で199件が確認されました。なかには「福島に帰れ」「放射能がうつるから近づくな」といった誹謗中傷もありました。

 調査結果を受けて2017年4月に松野博一文科大臣(当時)は「いじめの背景には、理解不足からくる大人の配慮に欠ける言動もある」として原発に関する正確な知識と子どもへの配慮を求めるメッセージを発表しています。

いじめをエスカレートさせかねない配慮欠く教員の言動

 文科大臣も指摘した「大人の配慮に欠ける言動」を行なった人には教員も含まれていました。

 2016年、新潟市に避難していた小4男子に対して、担任の40代教諭が名前に「菌」をつけて呼んだという問題がありました。そもそも男子児童は同級生から「ばい菌扱いをされる」といじめに苦しみ、担任に相談していました。男子児童はこの一件の翌々日から学校を欠席しています。

 私が取材をしてきたなかでも、教員の言動によっていじめがエスカレートしたり子どもが深く傷つけられたりする例がありました。教員は教室内で絶対的な存在で、影響力が大きいのです。

原発避難いじめは、なぜ起きたのか

国立教育政策研究所・滝充さん(2011年当時・撮影『不登校新聞』)
国立教育政策研究所・滝充さん(2011年当時・撮影『不登校新聞』)

 いじめ研究の第一人者である滝充さん(国立教育政策研究所)は、「いじめのきっかけや原因探しはあまり大事なことだとは思えません。というのも、きっかけは本当にささいなことだからです。(中略) 子どもたちがストレス度の高い状況におかれているという環境のほうに目を向けるべきです」(2011年・不登校新聞)と語っています。

 「きっかけが大事ではない」と考えるのならば、原発避難いじめが起きたのは、原発や避難者という特徴が重要だったのではありません。震災や原発事故などで子どもたちが不安やストレスを抱えていたという環境があったからこそ起きたことです。

コロナいじめで考えられる特有の事情

 原発避難いじめが起きた状況と、現在の状況は、子どもたちが大きな不安やストレスを抱えているという点などでとても似通っています。他方で新型コロナウイルスが持つ特有の事情が、いじめに影響を与える可能性もあります。

 原発避難いじめは対象者が避難者にほぼ限定されていましたが、誰もが感染する新型コロナウイルス ですから対象者はより広がると言えるでしょう。また、「咳をする」など小さなきっかけでも感染を疑われたり、「距離を空ける」という名目で仲間はずれが行われたりすることも考えられます。

「原発避難いじめ」が示す教訓1 不安ケアと正しい知識の周知が必要

 原発避難いじめからの教訓として2点を挙げたいと思います。

 1点目は、教員や周囲の大人が対応を誤れば急速にいじめが広がるということです。

 原発避難いじめでは、担任がいじめに加担してしまったこともありました。避難してきた子に「賠償金をもらっただろ」と小学生が金銭をせびることもありました。周囲の大人たちの会話からの影響があったのでしょう。こうした事例を踏まえると、コメントでもありましたが、新型コロナウイルス感染者が1人でも、学校や周囲の大人の対応次第でいじめが始まることは充分に考えられます。

 「大人発信のいじめ」を止めるために、まずは子どもたちの間に新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って広がっている不安をていねいにケアすることが重要です。さらに、ウイルスは誰もが感染しリスクをゼロにすることはできない、という事実を周知することが必要です。

「原発避難いじめ」が示す教訓2 長期化を見据えた対策を考える

 原発避難いじめから学びたい教訓の2点目は、コロナいじめの発生期間が長引く可能性があることです。

 原発事故発生から5年後、2016年度に避難者の子どもたちに対するいじめが129件も起きていました(文科省調査)。新型コロナウイルスが終息したあとでもコロナいじめだけは続いている、という状況も考えられます。

 対策として考えられるのは、長引くことを見据えて教育システムを変化させていくことです。取り急ぎ必要なのは、オンライン(リモート)授業を公的な選択肢として広げることです(家庭教材アプリ「すらら」や「スタディサプリ」など)。

日本文学者・ロバート キャンベルさん(2017年当時・撮影『不登校新聞』)
日本文学者・ロバート キャンベルさん(2017年当時・撮影『不登校新聞』)

 そもそも「毎日いっしょにいる」という状況は人間関係が苦しくなりがちです。日本文学者のロバート キャンベルさんは、日本の公教育が公平性の面で優れていることを指摘したうえで「魅力的な非常口(逃げ道)」を示す必要性を訴えていました(2017年)。魅力的な非常口が見えることで、選択肢が広がり、人間関係にもゆとりが生まれます。それは広い意味での「いじめ予防」だと言えるでしょう。

新型コロナ特有の事情を踏まえて考えられる対策

 ここまでは原発避難いじめからの教訓を生かした対策です。しかし、新型コロナウイルスの特徴を踏まえた対策も必要です。優先度がもっとも高い対策は、「コロナいじめは誰にでも起こりえる」「いじめが疑われたら即座に安全確保」という認識を多くの人が持つことでしょう。

 「弱い子」や「優しい子」がいじめを受け、「気が強い子」や「クラスの人気者」はいじめられないと思われています。まったくの誤解です。この先入観が発見を遅らせます。繰り返しになりますが、新型コロナウイルスは誰もが感染する可能性があり、コロナいじめも同じように誰もが被害者になりえるのです。先述の通り子どもへのウイルスの正しい知識を周知するとともに、見守る大人の側の先入観をなくすことが大切です。

 また、いじめの被害者も加害者も、先生も親も、直接的な関係者は、いじめが起きても「いじめではない」と思いたがります。

 私が取材した中では、「自分がいじめられているなんて認めたくない」と3年間ガマンしていた子ども(当時19歳)や、周囲に自分がいじめられていたことを伝えるのに9年間かかったという女性(当時23歳)も いました。

 周囲の発見が遅れたケースでは、自殺が起きてしまったケースもあります。両親がいじめに気がつかず、亡くなってからいじめを知ったのです。遺族に取材すると自殺当初は「まさかうちの子が」と思っていたそうです。疑わしい状況があれば「いじめか否か」などと検討はせず、即座に子ども本人の安全を確保すべきなのです。先述のようにコロナいじめは長期化する可能性があるので、この対策がより重要になります。

 コロナいじめを防ぐための対策は4点、挙げました。あらためて列記します。

・新型コロナに対する子どもの不安のケアと、正しい知識の周知

・長引くことを念頭にした教育システムの変更

・誰にでもいじめは起こりえるという認識の周知

・いじめが疑われたら即座に安全確保

メモ帳(イメージ画像/写真AC)
メモ帳(イメージ画像/写真AC)

 最後に学校に通う子どもの方にもお伝えしたいことがあります。

 このウイルスは、あらゆる人が感染する可能性があります。どんな状況にいても感染する可能性はゼロではありません。そのため、ウイルスを持った人を非難するのではなく共感と思いやりを持って接してほしいと思います。悪いのは、その人ではなく、ウイルスです。

 また、みんなといっしょにいじめる側になってしまいそうなときは、どうかその場から逃げてください。いじめを受ける側でも同じです。逃げてください。いじめは、いじめる側が100%悪いからです。ちなみにあなたが行きたくないと思えば、小・中学校は1日もいかなくても卒業できます。私は、中2の途中から1日も学校へ行かず育ってきました 。

 最後になりましたが、いまは学校でも、家庭でもピリピリしていて、子どもだってたいへんだと思います。すこしでも楽しい日々が見つかるよう祈っています。

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※記事をお読みになって、コロナ関連のいじめ問題についてさらに知りたいことや疑問に思っていること、自分なりの乗り越え方などのアイデアがありましたら、ぜひ下のFacebookコメント欄にお寄せください(個別の回答はお約束できませんのでご了承ください)。

また、Yahoo!ニュースでは「私たちはコロナとどう暮らす」をテーマに、皆さんの声をヒントに記事を作成した特集ページを公開しています。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

※2020年6月2日加筆修正

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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