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不登校が過去最多、5年連続増加の原因とは ~現場関係者から背景を紐解く~

石井志昂『不登校新聞』代表
小学生のランドセル(イメージ)(ペイレスイメージズ/アフロ)

不登校数が過去最多を更新

 文科省は10月25日、2017年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題」の速報値を発表しました。

 それによると、小・中学校における不登校児童生徒数は14万4031人(前年度比1万348人増)と、統計開始以降、初めて14万人に達し、過去最多を更新しました。

不登校の児童生徒数の推移(作者作図)
不登校の児童生徒数の推移(作者作図)

 学校種別に見ていくと、小学校は3万5032人(同4584人増)、中学校は10万8999人(同5764人増)と、どちらも5000人前後増えています。

 また、全児童生徒に占める不登校の割合は、小学校で0・54%、中学校で3・25%となっていますので、小学生184人に1人、中学生30人に1人が不登校ということになります。

 不登校に関する統計調査は1966年度より毎年実施されています。これまで不登校児童生徒数がもっとも多かったのは、2001年度の13万8722人です。それと比べると、5000人ほど増えただけのように思われるかもしれませんが、注目すべきは子どもの数です。

少子化が進むなか不登校の割合は

 2001年度の全児童生徒数は1128万8831人でした。かたや2017年度は982万851人と、146万人以上減少しており、もっとも少ないのです。つまり、統計史上、子どもの数が過去最低となるなかで、不登校は過去最多を更新した、ということになります。これが今回の調査結果の概要です。

全児童生徒数と不登校児童生徒数の割合(作者作図)
全児童生徒数と不登校児童生徒数の割合(作者作図)

不登校増加 原因はどこに

 不登校は2013年度より、5年連続で増加しています。なぜ、不登校は増加しているのか。その要因について文科省は「複合的な要因が絡み合っているので、原因を特定することは難しい」との認識を示しています。

 たしかに、文科省の言う通りです。『不登校新聞』の編集長として、これまで多くの不登校経験者に取材をしてきましたが、「〇〇のせいで不登校になった」というように「不登校の原因をこれだ」と特定できる子どもばかりではありません。また「不登校の原因はよくわからない」と話す子どももいます。

 とはいえ、「複合的な要因」と述べるに留めてしまっては、少子化が進むなかで不登校が増加傾向にある理由は不明瞭なままであり、その背景にある学校の現状や変化についても見えづらいままになってしまうのではないか、という懸念を持っています。

 そこで、今回の調査結果を受け、あらためて学校の教員やフリースクール関係者に取材をしました。不登校の子どもと向き合う現場から聞こえてきた関係者の声、そして私自身のこれまでの取材経験を通じ、不登校が増加する複合的な要因について、いくつかの仮説を立てながら紐解いていきたいと思います。

「社会の認知が高まったから、不登校が増えたのではないか」説

 取材を続けるなかで、「不登校に対する社会の認知が高まってきた」という声をフリースクール関係者からよく聞きます。

 たしかに、「9月1日の子どもの自殺」や「教育機会確保法の成立」をもとに、学校を休むことの重要性や、フリースクールなどの学校外の居場所に対する情報について、メディアを通じ、報道される機会も増えてきました。

 北海道札幌市にあるフリースクール「札幌自由が丘学園」のスタッフである新藤理さんもそう感じる一人。「不登校に対する関心の高まりは肌で感じている」と新藤さんは言います。

 また、千葉県習志野市にある「フリースクール ネモ」理事長の前北海さんは、自身が不登校経験者。「若い世代の親は『死ぬぐらいなら休んで』という感覚の親は多く、学校もフリースクールとの連携を求めるようになってきた」と、最近の変化について感じていると言います。また、最近の特徴としては、小学生の子どもを持つ親からの問い合わせも増えていると言います。

 私が不登校になったのは、1996年でした。「不登校は学校に戻すべき」という社会の認識は、まだまだ根強い時代でした。私自身、そうした状況を変える一助になればと、教員や弁護士向けの研修会やときにテレビ番組などに出演し、自らの不登校体験を話してきました。

 あれから20年が経ち、不登校が増加した理由について、社会的関心の高まりや、休むことの重要性の浸透などがフリースクール関係者からも実感として聞かれるということは、ポジティブな意味での変化として、感慨深いものがあります。

「いじめが増加したから、不登校が増えたのではないか」説

 今回の調査結果では、もうひとつ、気になるデータがあります。「いじめの認知件数」です。全国の学校が認知したいじめの数は、41万4378 件(前年度比9万1235件増)と、こちらも過去最多を更新しました。直近の5年にかぎってみても、2013年度の2・2倍に急増しています。

小中学校のいじめの認知件数(作者作図)
小中学校のいじめの認知件数(作者作図)

 いじめ急増の背景には、文科省の認識の変化が関係しています。いじめの早期発見・早期対応に力を入れる文科省は、軽微な事案(冷やかし、からかいなど)もいじめとして報告するよう、全国の教育委員会に通達しています。

 その結果、これまではいじめとみなされなかったものについても、いじめとしてカウントされるようになり、自ずと認知件数も増加傾向にあるということになります。

 ただし、ここで注目すべきは「いじめの解消率」です。今回の調査結果によると、「いじめは現在解消している」という件数の割合が85・8%でした。つまり、学校で起きた41万件以上のいじめの大半は、当該年度中に解消されたということになります。

 2017年度のいじめ解消率が特別なわけではありません。2016年度は90・5%、2015年度は88・7%というように、学校で起こるいじめの多くは解消済みとして毎年報告されているのです。

 上述したような軽微な事案であれば、解消も即座にできるのかもしれません。しかし、調査結果をそのまま受け取るならば、「学校では毎年数十万件のいじめが起きているが、その大半は当該年度中に解消し、翌年度に新たないじめが発生している」というように読み解くことはできないでしょうか。言い換えれば、いじめの生産、解消、再生産が目まぐるしいサイクルで起きていることになります。

 関連するデータとして、「いじめ追跡調査2013~2015」(国立教育政策研究所)があります。それによれば、小学4年生から中学3年生の6年間に、いじめの加害・被害を経験した子どもはおよそ9割に達します。前回調査と比較したうえで、「いじめに巻き込まれる子どもは広がり、特定の子供に集中する割合は減ってきた」というのが、同研究所の見解です。

“教室内ストレス”が高まる影響とは?

 いじめが増えている。しかも、ほとんどの子どもがいじめを経験している。その結果、どうなるかと言えば、教室内の緊張がつねに高い状態にある、ということです。“教室内ストレス”が高い、と言い換えてもいいかもしれません。

 加えて、小中学校の場合、クラス替えがあるのは年単位。年間を通じ、クラスメイトは固定です。1クラスしかない学校であれば、卒業まで人の流れは変わりません。いじめの対象がコロコロ変わるような状況があった場合、非常にストレスフルななかですごすことになるわけです。

 こうした状況は、別の問題も生じさせます。不登校の場合、自分が直接いじめられたわけではないのに学校に行けなくなったという子がいます。ほかの子がいじめられているのを見てつらくなってしまった、友だちを助けられなかったなどの理由から、学校へ行けなくなる子が少なくありません。

 また、最近は「HSC(Highly Sensitive Children)」(ひといちばい敏感な子)に対する注目が集まっています。大きな音やその場の雰囲気などに、ひといちばい反応し、それを痛みとして感じてしまう子のことです。児童精神科医・明橋大二さんをはじめ、不登校をする子どものなかに「HSC」を理由とするケースがあることを指摘する専門家もいます。

 さらに、ストレスについては「ブラック校則」もその一例に挙げられます。「下着の色をチェックされる」「頭髪の色は黒を強制される」などの理不尽な校則の実態について、NPO法人らが共同して調査結果を発表するなど、社会問題になっています。

 このように近年、さまざまな調査により明らかになりつつあるいじめの実態や、“教室内ストレス”の高まりなどにより、学校の現状に対する「NO」が不登校というかたちであらわれているのではないか、ということが原因の一端として考えられると思います。

「最近の子どもが変わったから、不登校が増えたのではないか」説

 不登校増加の要因として、「ガマンできない子どもが増えた」「キレる子どもが増えた」など、子どもの気質的な問題を指摘する声もあります。

 たとえば、私は1982年生まれ。「西鉄バスジャック事件」(2000年)や「秋葉原連続通り魔事件」(2008年)など事件を起こした加害者と同世代であり、「キレる世代」と呼ばれたこともあります。

 今回の調査でも、暴力行為に及ぶ中高生が前年より減るなか、小学校では2万3440人と、前年度より3590人増えています。一部報道によれば、教育委員会のなかには「ガマンできない子どもが増えたからではないか」と分析しているところもあるようです。

 では、子どもは変わったのでしょうか。ある公立の小学校教員にインタビューしたところ、「子どもがこの数年で悪くなったと感じたことはない」と語っています。

 また発達心理学者・浜田寿美男さんは以前、世間で言われている子どもの変化について次のように述べています。

 私が子どもだった50年前と現在を比較すると、子どもを取りまく社会状況は大きく様変わりしました。子どもが自らの力を使って大人を助ける機会はどんどん少なくなっている、いやむしろ、奪われていると言っても過言ではないほどです。しかも、異常な犯罪が起きるたび、あたかも子どもが質的に変わってきたかのような言説が飛び交いますが、たかだか50年で、子どもが生物学的変化を遂げるなんてことはあり得ません。変わったのは子どもを取りまく社会状況であり、それが子どもの抱える生きづらさとも関係しているのだと思います。

出典:『不登校新聞』380号 (2014.2.15号)

不登校からの選択肢が明示できるように

 こうして整理してみると、子ども自身が変わったということはないのですが、教室内ストレスが高まってきたことや認知度の高まりなどがあらたな要因として考えられると私は考えています。

 では現状を変えるために、いまから何を考える必要があるのか。私が考えるポイントは「不登校をさせない制度」をつくることではなく「不登校によって子どもが苦しまない状況」をつくることだと思っています。

 不登校とは「すべての子どもが学校だけで育つ」という状況が生んだ問題です。

 この現状があまりに偏っています。「不登校によって子どもが苦しまない状況」をつくるためには、学校以外の選択肢が必要です。

 不登校の認知度が広まったとはいえ「子どもは学校だけで育つ」という前提である以上、いまも不登校の子は苦しんでいます。

 15歳の女の子に話を聞きました。彼女は小学校6年生のときに学校で苦しみましたが、学校を休むことができず親に車で学校へ連れて行かれたそうです。その車中、「もしも車がガードレールに突っ込んでくれたなら学校を休めるのに」と思っていたそうです。

 こうした話はよく聞きます。不登校である自分を責め、「死んだほうがましだ」とまで追い詰められるケースは、いまも後を絶ちません。

 しかし、さきほど登場した「フリースクールネモ」の前北海さんはこう言います。

 「学校の集団生活が合わずに不登校になっても、フリースクールにきたら元気になってみんなと遊び始める子もたくさんいる」。

「フリースクールネモ」のようす(ネモ撮影)
「フリースクールネモ」のようす(ネモ撮影)

 フリースクールやホームエデュケーションなどが公的に認められている諸外国の例はあります。日本でも30年以上前から先行事例があります。もちろん、フリースクールにかぎらず、いろんな選択肢が本来はあるべきです。

 「不登校をしたあとでも人生は続けられる」。そういう道筋を子どもにきちんと提示できるか、ここが本当に考えていくべき課題だと思っています。

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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