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子どもの命から考える~重大ニュースと見過ごされたニュースの共通点【回顧:子ども2017】

石井志昂『不登校新聞』代表
新聞(イメージ)(ペイレスイメージズ/アフロ)

 2017年も残すところ、あとわずか。今年も子ども若者をめぐり、さまざまなニュースが飛び交いました。メディアを連日騒がせた「重大ニュース」もあれば、たいして取り上げられなかったニュースもありました。いわば、「見過ごされたニュース」です。

 では、見過ごされたものにニュースバリューがなかったのかと言えば、そうとは言い切れません。むしろ「子どもの命」という視点から考えた場合、私たちが見落としがちなニュースのなかに、世間を騒がす「重大ニュース」の大元と密接に関係しているものがあると、私は考えています。

 そこで、2017年に「見過ごされたニュース」のなかから2つを選び、「子どもの命」という視点に立ったとき、それが世間を騒がせた「重大ニュース」と、どうつながっていくのか。今年1年のまとめとして考えていきたいと思います。

「自殺原因 『学校』が10年連続トップ」と「9月1日の子ども自殺」

 2017年月、警察庁の統計発表によって小中高生の自殺の原因・動機のトップは10年連続で「学校問題」(複数回答)だったことがわかりました。

小中高生の自殺動機・原因の推移(警察庁発表より)
小中高生の自殺動機・原因の推移(警察庁発表より)

 警察庁では、遺書などをもとに「明らかに推定できる原因・動機」を自殺者1人につき3つまで計上しています。

 過去10年間の統計を見ると「学校問題」が原因の一つで自殺した人は年間平均で122人。ついで多かったのが心身の病気など「健康問題」が年間平均64人です。

 「学校問題」と「健康問題」を比べた場合、前者は後者の2倍近い人数にも上りました。

 では次に、2015年6月に内閣府が発表したデータをご覧ください。

内閣府平成26年度版「自殺対策白書」より
内閣府平成26年度版「自殺対策白書」より

 グラフを見てもわかる通り、「9月1日」が突出して多いことがわかります。続いて多いのは4月11日、4月8日と、要するに新学期開始の前後に集中して多いことが見て取れます。

 「9月1日」の子どもの自殺をめぐっては、2017年もメディアで大きく取り上げられました。多くの著名人やNPOがメッセージを配信。

NHKは「8月31日の夜に」という特番を組むなどし、私も微力ながら関わらせてもらいました。

 とはいえ、そもそもの話として、なぜ、子どもの自殺原因のトップが10年間も連続で「学校」なのか。そして、なぜ、子どもの自殺が多く発生する時期は、学校のスケジュールと一致しているのか。因果関係を断定するのは軽率かも知れませんが、それこそ見過ごせないつながりがあるのではないかと、私は感じています。

自殺対策本部も分析せず

 警察庁は「自殺原因に関する見解を発表していない」という立場なので、厚生労働省の自殺対策推進本部に話を聞いてみました。

 すると「学校問題」が自殺原因として突出していることについては「分析をしていない」とし「今後も分析する予定はない」と回答されました。(※なお、自殺対策本部は、自殺全般に関して「多様かつ複合的な原因及び背景を有している」との見解を示しています)

 世間が注目していないばかりか、自殺対策本部まで、10年連続で「学校問題」が子どもの自殺がトップだった背景を分析しない、というのはいかがなものでしょうか。

 もちろん、すべての原因分析が可能だとは思いません。しかしながら、「子どもの命」をめぐり、これだけのデータが出てきているわけです。省庁、ときに民間が横断的に連携を図るなかで、子どもの自殺の未然防止にできる手立てというのは今後、増やしていけるのではないでしょうか。

 「9月1日」はまた今年もやってきます。その前に、「4月11日」という、1年で2番目に子どもの自死が多い日があることも忘れてはいけません。子どもが自ら命を絶つことなく、安心してすごせる社会のためにも、子どもが何に息苦しさを感じているのか。それを私たち大人ができるかぎり把握することも大事だと思うのです。

「座間事件」と「子どもの相談内容 『雑談』が6年連続トップ3入り」

 子ども電話相談「チャイルドライン」では、年間20万件にもおよぶ子どもの電話相談をまとめて分析結果を発表しています。2017年8月、チャイルドラインの発表によると、3番目に多かった相談内容が「雑談」だとわかりました。

 相談内容を分類するのは電話で話を聞いた大人です。話を聞いた者が、どう考えても「確たる相談内容」が見当たらず、「雑談をしたかっただけ」という子が3番目に多かったという結果が出たのです。

 「雑談が3位」という結果、見ようによっては取るに足らないことかもしれませんが、同調査でも6年連続で上位3位以内に入っています。つまり「たまたま雑談を欲していた子どもが多かった」というわけではなく、近年押し並べて、雑談をしたがる子どものニーズが一定数あるということが言えるのではないでしょうか。

 ここで私が思い出すのは、2017年10月に神奈川県座間市で起きた9人殺傷事件です。この事件は第一報からセンセーショナルに報道され、連日、メディアを騒がせました。被害者の多くがツイッターなどのSNSを通じて、加害者と接点を持っていたことから、SNS規制の是非にまで議論が飛び火し、SNS各社が対応を始めたのは記憶に新しいところです。

社会学者・上野千鶴子さん
社会学者・上野千鶴子さん

 では、なぜ、「座間事件」は起きたのか。事件の背景について、社会学者の上野千鶴子さんは「現代社会を生きる女性が直面する孤立感が原因にある」と指摘しています。つまり、私たちの社会は今、「孤立する人々をどうつなげるか」という課題に直面しているわけです。

これは、はたしてチャイルドラインの調査結果の結果と、無関係だと言えるのでしょうか。

 私が取材した10代からは、親や先生は多忙を極めて「話ができない」という声や「勉強のことばかり気にされて、ふつうの話なんかできない」という声も聞いてきました。

 一方、友人たちとは「いじられキャラ」にならないよう、つまり「いじめの標的」にならないよう神経をすり減らして付き合っている、という声もたくさん聞いています。

 そう考えると、見ず知らずの大人と「雑談」を求める子が多いことも納得できます。

 つまり、子どもたちは今、気軽に「雑談」をできる人間関係さえ、つくりづらい社会状況を生きているということになります。彼らがそのまま大きくなればどうなるか。今回の「座間事件」のように、やさしく話を聞いてくれる人に寄りかかてしまうことも、決して否定できません。

 しかし、それは子どもたちが悪いわけではありません。子どもたちをそうした状況に追い込んでいる大人、社会そのものの責任だと私は思います。であれば、オンライン/オフラインを問わず雑談を気軽にできる居場所をどうつくっていくか。ふたたび「座間事件」のような悲劇を引き起こさないためには、必要な取り組みではないでしょうか。

見過ごされたニュースにも課題解決のヒントが

 いかがだったでしょうか。

 「子どもの命」を軸にニュースを見ていくと、「見過ごされがちなニュース」のなかには、じつはその年の「重大ニュース」と関係しているものがあると、私は思います。

 そう考えると直面している課題解決のヒントにもなるのではないでしょうか。「9月1日の子どもの自殺」も「座間事件」も、それだけを取り出してみれば、ときに残酷かつ非常にセンセーショナルなニュースです。しかし、それらの多くは突発して急に起こるものではありません。学校に苦しんでいる子どもがずっといること、雑談という人とのつながりを欲している子がずっといること。そうした日常と地続きの先に起きた問題だと私は考えています。

 であれば、対症療法のみに目を配るのではなく、また大きく話題になったものばかりに注力するだけでなく、その事象が起こる根本に、そもそもどのような問題が蓄積しているのか。ここを見落とすことなく、社会全体で考え、取り組んでいくことが必要なのではないでしょうか。

 さて年の瀬も押し迫ってきました。今日は新年に向けた展望を提案したいと思っていましたが、私もまだ積み残しの仕事が終わっていません。なので、まずは目の前のことだけ考えます。そして年末年始の休暇中ぐらい、子どもから話しかけられたら余裕を持って雑談に付き合っていきたいと思っています。

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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