Yahoo!ニュース

「見えづらいひきこもり女性」 調査でこぼれ落ちる理由

石井志昂『不登校新聞』代表
「ひきこもりUX女子会」の代表・林恭子さん(右)と恩田夏絵さん(左)

 国や自治体の実態調査では見えづらい「ひきこもり」がいる。

 ひきこもっている女性である。そこで、ひきこもり女性だけの自助グループ「ひきこもりUX女子会」を運営する当事者団体「一般社団法人 ひきこもりUX会議」が、日本で初めての「ひきこもり女性実態調査」に乗り出した。

なぜ「見えづらい」のか?

 2016年9月、内閣府が「若者の生活に関する調査報告書」のなかで「ひきこもりの若者はおよそ54万人いる」 との調査結果を発表した。

 この調査のひきこもりの定義(調査対象者)に以下の文言がある。

主婦・主夫、家事手伝いの者と統合失調症または身体的な病気がひきこもりのきっかけになった者を除く

 この定義について、複数のひきこもり支援団体から、多くのひきこもり女性は「家事手伝い」に含まれるため「事実上の調査対象外になることを意味する」と指摘されてきた(※)。

 「働いていない」ことは当事者にとっても引け目を感じやすい。ひきこもりとしての苦しさを抱えながらも「家事手伝い」という言わば隠れ蓑で自分を隠したい女性が多いからだ。

 さらに主婦でも「人と関わるのが苦しい」「働かなければいけないのに働けない」と、ひきこもりの苦しさを抱えている人がいる。

 こうした点が調査でひきこもり女性が見えづらい背景として指摘されてきた。

ひきこもりUX女子会のようす
ひきこもりUX女子会のようす

 昨年6月、ひきこもり女性だけで構成される自助グループ「ひきこもりUX女子会」がスタートした。過去20回の開催で累計650名が参加したが、参加者の大半は国の調査では対象外だった可能性がある。

 一方、国も見えづらい「ひきこもり」の存在は認識している。厚生労働省は「調査結果はすべてのひきこもりの実態を網羅したとは思っていない」との見解を示しているからだ。ただし「意図的に女性を排除した調査ではない」と調査を改める可能性は否定している。

日本初のひきこもり女性実態調査へ

 ひきこもり女性は周囲から「働かなくても結婚すればいい」と思われるなど、その苦しさが伝わらずに孤立しやすい。

 女子会に参加した30代の主婦は「自分の苦しさが夫を含め誰にも理解されず、どこにも居場所がなかった」と語っている。

ひきこもりUX女子会で使われたホワイトボード
ひきこもりUX女子会で使われたホワイトボード

 現実には苦しんでいるひきこもり女性がいるなかでその実態を積極的に捉えようとする行政の動きがみられない。

 こうした問題を踏まえて、女子会は日本初の「ひきこもり女性実態調査」に乗り出している(結果の発表は来年2月下旬予定)。

 本調査では女子会参加者を中心に年齢制限を求めずに実施する。

 調査の狙いは、国の調査から見えづらい「家事手伝い」や「主婦」であり、「ひきこもり状態」の人の実態を示すこと。そして、ひきこもり女性は何に苦しんでいるのかという「ひきこもりの苦しさの中身」を明らかにすることである。

 同時に各地で女子会を開いてもらおうと、今年9月22日~12月24日にかけて全国10都市で12回の全国キャラバンを展開、ブックレットも刊行する(※詳細は「ひきこもりUX会議ブログ」に順次掲載)。

問題の本質に迫る実態調査を

 ひきこもり女性が見すごされてきた理由は、国の調査が若者支援などを理由に表面上の枠組みに則って進められたものだからだろう。

 そもそもひきこもりが社会問題化した90年代後半から国は「ひきこもりの定義」に揺れていた。上限年齢や疾病の有無など、その定義は現在に至るまで細かく変更され続けたが、そのたびに「対象からこぼれ落ちる存在がいる」とひきこもり当事者らは指摘してきた。

 なぜこんな問題が起き続けたのかと言えば、ひきこもりは単なる年齢や属性捉えらえるものではなく「苦しみの総称」だからだと私は考える。

 ひきこもりは「怠けているだけだ」と周囲から蔑視される。ひきこもった背景のいじめ、就活失敗、DV、虐待など「ひきこもらざるを得ないほどの傷」には目も向けられない。さらにセーフティネットの薄さや女性への偏見など、さまざまな社会的な障壁が重層的に絡み合うことで、当事者は「生きていていいと思えない」(20代女性)と語るまで追い詰められてしまう。

 こうした苦しさの中身を当事者から拾いだし、そこから見えるひきこもりの実態を捉えていかなければ、いつまでも問題の本質には迫れないだろう。

 新たに実施される女子会の調査は苦しさの中身にも踏み込むという。国はこうした調査結果を踏まえ、現在の実態調査のあり方を検討すべきである。

※内閣府の調査については、40代以上のひきこもりも調査対象外となるため、当事者らが問題を指摘してきた。しかし、東京都町田市や秋田県藤里町など自治体レベルでの調査では40代以上も調査されており、女性に特化した調査だけがないのが現状である。

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

石井志昂の最近の記事