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「ペットへの虐待」と「家族へのDV」は本当に関係があるのか?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:アフロ)

犬や猫などの愛護動物への虐待行為は動物愛護法により犯罪です。

その動物への虐待行為とドメスティックバイオレンス(DV)と呼ばれる家庭内での暴力は、関連がある可能性があるとわんちゃんホンポが伝えています。

筆者は獣医師なので、臨床現場からペットへの虐待とそこから垣間見えるDVについて考えてみたいと思っています。

「ペットへの虐待」と「子どもや配偶者への虐待」が同じ家庭内で起こっている?

イギリスの児童福祉の中でも虐待を研究している専門家は、犬や猫を虐待している家庭内では、子どもや配偶者が虐待を受けている可能性が多いと指摘しています。

そして、子どもは、家族が直接的に暴力をふるわれていなくても、目の前でペットが殴られたりする虐待行為を見るだけで精神的なダメージが大きいということです。つまり、ペットへの虐待を見るだけで、家族はもちろんのこと子どもはもっと精神的に傷つきやすいのです。

ペットへの虐待行為の見抜き方

獣医師は、現在の動物愛護法により、ペットが虐待されていると推測したときは、警察に届ける義務があります。

しかし、飼い主が「虐待しました」と言うことが、ほとんどありません。

そのため、筆者は、ペットが日常どのような生活をしているか、細かく尋ねて虐待がないかを探りますたとえば「犬の散歩は、だれがしているの?」「ペットはどこで寝ているの?」「だれがペットに食事をあげるの?」「トイレのお世話はだれがしているの?」といった質問をすることで、ペットの扱いに関する違和感や異常性が垣間見えることがあるからです。そのようなことを積みかさねて、ペットへの虐待をあぶり出す手がかりにしています。

フェレットが虐待?

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イメージ写真写真:イメージマート

もう10年も前のことです。

フェレットが筆者の動物病院に運び込まれました。飼い主によりますと「落ちて元気がない」ということでした。治療としては、補液をして抗生剤を打ちました。

数日して、同じ症状で来院。フェレットが高いところに1匹で登るわけがないので不審に思って筆者が尋ねると、飼い主は「彼氏の機嫌が悪いときは、彼氏がこのフレットにあたるんです」と小声で答えました。

フェレットは、犬や猫ほど人間が行動を読み取れるわけではありませんが、それでも脳や神経症状がないのに、度々落ちることはあまりないです。事細かに尋ねると彼氏が虐待していることがわかったのです。

彼氏が何度もフェレットを叩いたりするようなら、命にかかわります。筆者は「このフェレットを彼氏に会わせないように」と頼みました。すると、飼い主は「私があまり注意すると、私が殴られます...」と困惑して言いました。

当時の動物愛護法は、警察に届ける義務がなかったので「フェレットを彼氏に会わせないように」と強く注意しました。

まとめ

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イメージ写真写真:イメージマート

動物への虐待が家族へのDVに関係しているかもしれないという研究が出ているので、児童福祉や法律の専門家が、このような視点を持つことは大きな意味のあることだと思います。

ペットが虐待されていないかを注意して観察することで、人間と動物両方の被害者を救うことにつながるのです。ペットも家族の一員と言われています。その家族の一員が虐待されていると、子どもや配偶者も危険な目に遭う可能性があるのです。家庭内のことは外からは見えにくいですが、このような知識をみんなで共有することは大切です。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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