Yahoo!ニュース

空気銃で狙撃、えさを与えない、遺棄など「動物虐待の摘発」は過去最多170件。なぜ、このようなことが?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:イメージマート)

2021年の1年間に、警察が摘発したペットの遺棄や劣悪な環境で飼育するなどの「動物虐待」の件数は170件にのぼり、過去最多だったことがわかりました(実際はもっと多くてこれは氷山の一角かもしれません)。統計を取り始めた2010年以降で最も多かったのです。

どのような動物虐待が起こり、なぜ、過去最多だったのかを考えてみましょう。

動物虐待検挙件数の推移と実態

時事通信社 動物虐待検挙が過去最高=170件、猫最多―警察庁
時事通信社 動物虐待検挙が過去最高=170件、猫最多―警察庁

上のグラフからわかるように、虐待を受けた動物別にみると以下のようになっています。

(動物別)

・最も多いのが猫 95件

・続いて犬 60件

・馬、いえうさぎ、鶏、フェレット、モルモット、熊、猿、インコ、カメ

などの動物が虐待されたことが明らかになりました。

このほか、鹿は愛護動物ではないので、この統計には入っていませんが、奈良公園で2021年2月、国の天然記念物「奈良のシカ」をおので襲い死なせたとして文化財保護法違反容疑で男が逮捕されました。

次は、虐待の内容を見ていきましょう。

・飼っていたペットを捨てるなどの「遺棄」 81件

・えさを与えない、または治療をしないなどの「ネグレクト状態」 48件

・動物に危害を加える「殺傷」 41件

2021年6月に、千葉県で空気銃で猫を撃って死なせた男性が逮捕されました。11月に、長野県で繁殖用に飼育していた362匹の犬を虐待したということで、ブリーダーらが逮捕されました。

動物虐待の検挙数が増えた3つの理由

写真:イメージマート

なぜ去年、動物虐待が増えたのかを考えてみましょう。いろいろな理由があるでしょうが、大きな理由は、以下の3点です。

動物愛護団体による活動

改正動物愛護管理法により獣医師の通報が義務付けられた

コロナ禍で外出自粛により、ペットを新規に飼う人が増加

それぞれを詳しく見ていきましょう。

動物愛護団体による活動

タレントの杉本彩さんは、公益財団法人「動物環境・福祉協会Eva」の代表理事をされています。精力的に活動されていますが、具体的には、上述の長野県内で400匹以上の犬を劣悪な環境で飼育して衰弱させるなどした業者を刑事告発したのも杉本彩さんの動物愛護団体です。

他の動物愛護団体も地道に動物愛護活動しています。

改正動物愛護管理法により獣医師の通報が義務付けられた

獣医師が診察していて、これは虐待だと思ったときは、警察に通報することが義務付けられました。

具体的には、2021年1月にトラくんという猫が重いやけどを負い、大阪府内の動物病院に運び込まれました。耳は焦げ、角が丸くなっていたそうです。不審に思った獣医師が警察に通報。

捜査した警察はエタノールを浴びせて火を付けた飼い主の男性を動物愛護法違反で書類送検。検察は4月、飼い主が反省しているので罪に問わないと判断しました。しかし、保護猫カフェを経営し、トラくんを里親に引き渡した木村知可子さんは、検察審査会に異議を申し立て、検察は10月、一転して略式起訴。罰金10万円の命令が出されました(トラくんは、新しい里親のもとで幸せに暮らしています)。

コロナ禍で外出自粛により、ペットを新規に飼う人が増加

コロナ禍で孤独を感じる人が、増えています。

それで、いままでペットを飼ったことがない人が、SNSだけを見て正しい飼育の知識などを得ないで新規に飼い始める人がいます。飼ったらすぐに懐いてくれると思ったらそうでもない、トイレのしつけをする必要があるとか、鳴いて仕方ないなどを体験して、想像していたのと異なっていたので、ペットを遺棄する人もいるのです。

動物への虐待行為って?

写真:イメージマート

改正動物愛護管理法により、虐待についてはっきりと明記されています。以下のことも虐待行為になるのです。

・ペットが飼えなくなったら公園などに放り出す

・不妊去勢手術をしていなかったら、知らない間に仔猫が生まれたので公園に捨てに行く

・野良猫が庭でウンチやオシッコをするので毒えさをまく

・トイレのしつけができないので、外傷の恐れがあるぐらい暴力をふるう

・みだりに水やえさを与えない(ネグレクト)

・ウンチやオシッコが堆積した状態の環境で愛護動物を飼育する

・愛護動物の死体がある環境で愛護動物を飼育する

なども動物虐待になり、違反行為です。

悪質な動物虐待事件が絶えない状況を踏まえ、虐待の罪が重くなりました。

まだまだ動物の虐待への意識は低いので、虐待を見かけた場合は動物の命を守るために躊躇せず警察に相談しましょう。そのときは、ちゃんと写真や動画などで保存しておくといいです。

動物は、人と同じように「病気」や「老い」があります。そのため、看病や介護が必要なときもあります。

ペットはかわいいし癒やしになるかもしれませんが、その辺りもよく考えて一緒に暮らし始めましょう。基本は終身飼育です。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は栄養療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

石井万寿美の最近の記事