保護した野鳩を襲撃され「すべての野良猫に仕返ししてやる」と言っていた息子に思わぬ展開が
筆者の目の前には、慢性腎不全を患ったシニアの猫・みゅーちゃんがいます。慢性腎不全は、一般的には、年齢を重ねた猫がなりやすいです。年齢を重ねるということは、それだけ家族には、大切な歴史があるということなのです。
今日は、どのような経緯で、みゅーちゃんがUさんのご家庭になったのかをお話します。
「おかん、大変や。野鳩が矢に刺されて死にそうや」
Uさんの息子さんの彰(仮名・あきら)くんは、その当時は小学生でした。動物好きなお子さんだったようで、弱っている動物がいると家に連れて帰ってくるそうです。
帰宅して、開口一番に「おかん、大変や。野鳩が矢に刺されて死にそうや」と彰くんは玄関に立っていました。
Uさんが、彰くんを見ると痛々しい野鳩がそこにいました。Uさんは、慌てて近くの動物病院に連れていったそうです。動物病院で治療をして、命は取り留めましたが、飛ぶことができない鳩になりました。元来、野鳩は野生の鳥なので、家で飼うことができません。
しかし、飛ぶことができないので、Uさん宅で飼うことになりました。その野鳩は、ぼーちゃんと名付けられて元気に暮らしていました。
しかし、そんなぼーちゃんに悲しいできごとが起こってしまったのです。
野良猫がぼーちゃんをくわえて塀をよじ登ろうとしていた
天気のよいある日、Uさんは玄関で飼っている文鳥の鳥かごの掃除をしていました。その傍らにぼーちゃんを置いて日光浴をさせていたのです。そのとき、Uさんの横を野良猫が走り抜けて、ぼーちゃんをくわえて塀をよじ登ろうとしたそうです。
Uさんは、懸命に野良猫からぼーちゃんを奪い返そうとしました。Uさんは、やっとの思いで野良猫のしっぽを掴み引きずり下ろしました。それで、野良猫は諦めて、ぼーちゃんを放して逃げていったそうです。
しかし、ぼーちゃんは野良猫に嚙まれたので、血まみれでした。
急いで動物病院にぼーちゃんを連れていきましたが、失血性ショックでぼーちゃんは亡くなりました。一緒にいた彰くんは、動物病院で大泣きしていたそうです。
そして、「全ての野良猫に仕返ししてやる」と言い放ったそうです。Uさんの不注意を責めることなく、野良猫に矛先を向けたそうです。
もうじき、思春期が始まる息子がちゃんと育つのか、とUさんは気を揉んだそうです。Uさんは、時間を巻き戻してできるのなら、ぼーちゃんをケージに入れて日光浴をさせたいと、思いました。
どうすることもできず。ただただ息子とぼーちゃんに申し訳ない気持ちで一杯でした。
「僕が面倒を見るから、この子猫を家で飼ってもいい?」
Uさんは、後悔してもしきれない日々を送っていたそうです。
そんなある日、小学5年生だった彰くんが、塾へ行く途中に母猫とはぐれたのか一子匹の子猫を発見しました。彰くんは、このままほうっておくと死んでしまうと思って、自宅に連れて帰りました。
ぼーちゃんを奪われて、あれだけ野良猫を目の敵にしていた彰くんが、野良猫の子猫を連れて帰ったので、Uさんはびっくりしたそうです。
もちろん、Uさんは子猫を家で飼うことを承諾したそうです。当時のみゅーちゃんは、生まれたばかりで手のひらに乗るぐらいの子猫で、2、3時間おきに哺乳瓶でミルクをあげて育てたそうです。
「あとどれぐらい生きられますか」
筆者は、この大切なみゅーちゃんの診察をさせてもらっています。
手のひらに乗るぐらいのみゅーちゃんは、十数年の歳月を経て、慢性慢性腎不全なり治療をしていています。いまのところ慢性腎不全は治ることはありません。その治療は、症状を緩和する対症療法しかないからです(将来的には、慢性腎不全を治す薬ができる予定です)。
それでも、慢性腎不全のステージが進まないように、自宅でみゅーちゃんの点滴や内服をしてもらっています。
みゅーちゃんの内服に手こずっているUさんは、「少しでも一緒にいたいです」と言われています。
Uさんは、このみゅーちゃんと一緒に暮らすようになって、離婚をされてシングルマザーで子育てされています。仕事で忙しいので不安なこともありました。
しかし、Uさんは「まっすぐに優しい彰くんが育ったのもみゅーちゃんが彰くんの傍らにいてくれたおかげだ」と言われてます。
大学を卒業された彰くんですが、いまはUさんが仕事で忙しいときは、みゅーちゃんを連れて動物病院に来ています。
筆者は、みゅーちゃんにまつわる物語を教えてもらったので、より1日でも健やかに生きてもらいたいと思っています。