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【獣医師の告白】腹部を切り裂かれ地域猫6匹が死亡。この事件で知ってもらいたい「残酷な現実」

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:mj/イメージマート)

今年も残すところわずかになりました。

世の中では、コロナ禍でペットがブームになっています。そんななか、読むに堪えない猫の殺害事件の記事を目にしました。千葉県市川市大洲の江戸川河川敷で、「地域猫」6匹が腹部を鋭利な刃物で切り裂かれるなどして殺されていたのです。日本には、野生の猫はほとんどいません(日本ではイリオモテヤマネコとツシマヤマネコは野生の猫です)。

人間が作り出した地域猫がこんな無残な死を迎えることは、あってはならないことです。この事件から、野良猫や地域猫についてもう一度、考えてみましょう。

千葉県市川市 6匹の地域猫が腹部を切り裂かれて殺害

この残酷な記事を読んでみましょう。時事通信社によりますと、以下のように伝えています。

 近隣住民によると、現場はJR市川駅の南約1キロの河川敷遊歩道。付近に十数匹がすみ着き、周辺住民らが去勢手術の費用を捻出したり、餌やりしたりして、世話をしてきたという。

 今月5日朝、通行人が6匹の死骸を発見。いずれも腹を切り裂かれた状態で、うち4匹が箱の上に並べられ、壁に猫が打ち付けられたような痕跡も見つかった。2匹は河川敷に放置されていた。

つまり河川敷で6匹の猫が、いずれも刃物で腹を切り裂かれていて、そのうち4匹は箱の上に並べられていたといいます。猫が6匹も死んでいるだけでも異様なことですが、このように腹を切り裂いて殺害するという残虐なことはあってはならないことですね。

もちろん、野良猫や地域猫は動物愛護法の「愛護動物」にあたります。みだりに殺したり傷つけるたりすると愛護動物殺傷罪が成立します(最高刑は懲役5年、罰金だと500万円以下です)。

臨床獣医師から見て地域猫が狙われる危険性とは?

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

一般の人がこの記事を読むと外にいる猫なので、捕まえやすくて殺されたのかと思うかもしれません。猫を殺害することは、そんなに簡単なものではありません。猫も命がかかっているので、それこそ命がけで抵抗します。

筆者は、毎日、主に飼い猫の治療をしています。飼い主に愛されて具合が悪いから病院に来ている猫でも、治療が気にいらないと爪を出すし、噛むことがあります。そのため、洗濯ネットに入れてそれから診察することもあるのです。猫は、自分に危害を加える人におとなしくしていることはほとんどないのです。

猫は、もちろん防衛本能があります。この人は、自分に危害を与える人かもと思うと近寄っていきません。大丈夫だと思うと寄ってくるのです。野良猫の母親は、人間に嫌な目にあった子も多く、人間と距離を取るように子猫に教える場合もあります。

しかし、この市川市の河川敷にいた猫たちは、地域の人に心のこもった世話をしてもらっていたのでしょう。そのため、人間にそれほど強い警戒心を持っていなかったのかもしれません。

それで、このような残虐なことをする人に捕まって、殺されてしまったのでしょう。誤解のないように付け加えますが、地域猫をかわいがるなといっているのではないです。

残念なことですが、人間のなかには、このような小さい命に残虐なことができる人が一定数いるということなのです。

テレ朝ニュースでは、東京工業大学(犯罪精神病理学)影山任佐名誉教授が「サディスティックな、ネコを『残虐に殺すこと』に異常な興味持っているような犯人と…。箱の上に乗せられて、陳列物のようにあったということで、犯行を誇示しているんじゃないかというところは特徴かと思うんですよね」と語っています。

そんな人から、野良猫や地域猫を守る必要があります。

野良猫や地域猫を守るために

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

ここで、外で目にする猫について説明しておきます。外にいる猫がみんな野良猫とは限りません。実は「野良猫」「地域猫」「飼い猫」などがいます。飼い猫も完全室内飼いでない場合は、外で目にします。そのなかでも、「野良猫」と「地域猫」の違いがわかりにくいので以下に説明します。

■野良猫

飼い主はいませんが、地域の人が餌やりをしていることもあります。計画的な世話や不妊去勢手術をされていない場合が多く、年数回の発情期のたびに子猫が増えていきます。猫の殺処分は子猫が多いため動物愛護の観点からも問題になっています。

■地域猫

もともとは野良猫ですが、地域全体で計画的に世話をすることで地域猫となります。野良猫に関する問題を解決して共生を目指しています。そのため不妊去勢手術を行って猫が増えるのを防ぎ、トラブルを減らしていきます。手術済みの猫は耳の先端がV字にカットされています(カットされた耳が桜に見えることからさくら猫とも呼ばれています)。

やはり猫が外にいることは、猫にとっては危険です。

自由で気ままに見えるかもしれませんが、【臨床獣医師の告白】野良猫は「ほとんど生き残れない」過酷な現実を知っていますか?の記事にも書いています。猫は寒さにも弱いので、こんな時期に生き延びるのは、たいへん難しいことなのです。

野良猫や地域猫が残酷な目に遭わないために

野良猫や地域猫は人間が作り出したものです。日本では、ほとんどの場合、自然界には存在しないのです。人間が猫に不妊去勢手術をして室内飼いをしていれば、こんな残虐な行為で命を落とす子はほとんど生まれません。不妊去勢手術をしましょうという言葉は、耳にタコかもしれませんが、不妊去勢手術は基本的なことです。

千葉県市川市の猫の事件は、ここで完全に止めておかないと、このようなことをする人物は、弱い子どもたちを攻撃の対象にする可能性もあります。周辺の防犯カメラの増設や警察の巡回を多くして、早期に犯人検挙してもらいたいものです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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