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近い未来、猫の寿命が30年に?シニア世代が飼育放棄しないための飼い方は

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:アフロ)

いまから約30年前、猫はだれが飼い主なのかよくわからないような暮らし方をしていた子も多くいました。いまのように完全室内飼いの猫は、あまりいなかったです。ネズミの駆除のために、家の周りにいたような感じでした。それほど寿命は長くなく10歳まで生きる子は珍しかったのです。

時は流れて令和2年、一般社団法人ペットフード協会の資料によりますと、平均寿命は、猫15.45歳(犬14.48歳)だと発表しています。それにくわえて、東京大学の宮崎徹教授が猫の慢性腎不全に効果があるAIMという薬を開発しました。つまり、猫は、さらに長寿になる未来が待っている可能性が高いのです。慢性腎不全を克服すれば、30年の寿命も夢ではないのです。

そんななか、シニア世代が猫を飼うとき猫の寿命を加味すれば、終身飼育できるのか、というのが問題になっています。飼い主がシニアになっても猫と暮らすことは、大切だということはわかっています。今日は、猫もシニアの飼い主も幸せに暮らせる方法を模索します。

シニア世代が猫を飼うことの問題点とは?

猫の寿命が10年ぐらいのときは、シニア世代が猫を飼うことはそれほど問題(多頭飼育崩壊は以前からありました。野良猫を拾ってきて不妊去勢手術をしないで飼ってしまったためです)はなかったのですが、いまのように20年近くの寿命になった猫を飼うと以下のような問題点が出てきました。

飼い主の健康年齢が猫の寿命より長いか

飼い主が生きているだけではよくなくって、しっかり猫の世話をしないといけないので健康寿命は大切です。

猫はシニアになると、慢性腎不全やがんなどの病気になりやので、医療費など経済的には十分か

猫のとって適切な治療を受けるためには年金だけでは難しいこともあります。

猫が病気になったときに、飼い主が気づいて適切な治療が受けられるか

以前、筆者の動物病院で認知症の飼い主が、乳がんを見落としていたことがありました。胸まで観察できなかったのか、末期まで治療をされず親戚の人が連れてきました。

シニア世代が猫を飼うことの意義

上述のような理由があるから、猫を飼うのはよくないといっているわけではありません。シニア世代の飼い主が、猫を飼うことで以下のようないい点があります。

猫のためにきちんと起きて、トイレの掃除や水やキャットフードの用意をするなどで生活が規則正しくなる

猫がいることで孤独感が癒やされる

話題に困ったときに猫の話ができる

猫のトイレの用品やキャットフードを買うことで外の人とコミュニケーションを持てる

猫がいるのでより自分の健康に気をつけるようになる

次に、シニア世代が猫を飼ってうまくいっている例を見てみましょう。

そらちゃんは娘さんが連れてきた

写真:アフロ

筆者の病院では、そらちゃんという子猫が、70代ぐらいのお母さんと40代ぐらいの娘さんに連れて来られたので、その話を紹介します。

そらちゃんは、生後2カ月ぐらいの茶色の子猫でした。娘さんが保護猫を連れてきて、お母さんに渡しました。お母さんは、1年ほど前に小型犬を老衰で亡くして何も飼っていない状態でした。

娘さんのところには、2頭の猫がいるそうです。

「犬が亡くなって1年が経ったのです。そしたらね、娘が猫の飼う用意を全部して連れてきたのです。先生、私がちゃんと飼えるかな、と不安があるのですけれど」と笑顔で話されていました。子猫の健康診断をして、その後、ワクチン接種や去勢手術の相談をしました。

猫は、犬のように散歩がいらないので犬よりは飼いやすいですね。そのうえ、近くに娘さんが住んでいるし、娘さんの家でも猫を飼っているので、お母さんになにかあってもすぐに面倒を見られる状態です。

そらちゃんのように、子どもがいるから大丈夫というわけではありません。いくら子どもが近くに住んでいても、猫が飼えない環境や猫がそれほど好きでもない場合は、お母さんに入院や体調が悪いとなると、猫の面倒を見てもらうことは難しいです。

そらちゃんの場合は、お母さんになにかあれば、娘さんに引き取ってもらえる環境なので、これだとシニア世代が飼うことに問題はありませんね。このような例はそう多くないからもしれないけれど、そこまで配慮して新しい子猫を迎えいれられました。

猫の寿命が30年になると、2世代で飼う時代へ

写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

猫の寿命が30年になるかもしれませんが、そうなると猫も長生きになったなと思います。しかし、実際、30年以上に長生きするペットがいます。それは、上記の写真のオウムの一種でキバタンです。種類により異なりますが、体重400〜880g、体長44〜50cmの割合に大型の鳥です。キバタンの寿命は、約50〜70年とかなりの長生きです。

そのため、ペットショップでも20歳を超えたキバタンが売っていたりします。詳しい年齢はわからず、成鳥として売られるときもあります。

猫もそれならば、15歳を過ぎてもペットショップなどで売って始めの飼い主が飼えなくなれば、次の飼い主を探すシステムができればいいです。しかし猫がいくら長寿になったからといって、キバタンのようにはいかない理由があるのです。

それは、猫はやはりシニア期になると、慢性腎不全やがんなどになりやすいので、若い頃よりは医療費がかかる可能性が高いからです。

時代は進んで、猫がシニアになっても次の飼い主は、猫がかかりやすい病気のことを理解しても飼ってくれる人が増える、いやそれがあたり前になると、シニアの人が飼えなくなったときもすぐに里親がみつかるようになるのでしょう。

現実的には、まだまだ難しいです。

それで、そらちゃんのような環境は理想になるわけです。シニア世代が猫を飼う場合は、飼い主が病気などで面倒を見られなくなったときに引き取ってくれる人がいるのです。

日本人の寿命は延びて100年時代だといわれて、猫も長寿になり喜ばしいことですが、このような問題も新たに生まれてきます。簡単に解決しないですが、じっくりみんなで考えていくことは大切だと思っています。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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