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年配女性が10匹の猫を置き去り室内は「ごみ屋敷」...年代別の飼育意向から見えてくる現実

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:Picmin/イメージマート)

地域で猫の餌やりをしている女性から「近所に数十匹の猫が置き去りにされている」という連絡があり保護猫活動をしている人たちが、その家に行くと室内は「ごみ屋敷」で、ものも散乱しハエやウジもいたというニュースがありました。

その近所の人の話によりますと、この家に住んでいたのは、年配の夫婦で2年ほど前、ご主人が亡くなってからは奥さんが一人で暮らし猫の世話をしていたという。

年配になって猫を飼うとはどういうことかを年代別の飼育意向から見えてくる現実を考えてみましょう。

猫10匹を置き去りにし飼い主が引っ越し…室内は「ごみ屋敷」

はじめに、保護されたこの猫のたちの状況を詳しく見ていきましょう。

近所の餌やりの女性の連絡を受けて保護猫活動をしている人と自治会役員とその家に訪れると鍵がかかっておらず、室内はものが散乱してハエやウジなどの昆虫がたくさんいて長時間いることができないほどの悪臭だったそうです。

猫たちは比較的若く5歳前後で歯がボロボロだったということなので、いわゆる猫エイズなどを持っているのかもしれません。

そして、猫は、おとなしくて抵抗をすることのなく数日かけて引き取ったそうです。このように多頭飼育崩壊の室内は、ネグレクトになることが多いので、室内は不衛生というのはよく目にするものです。

猫を飼いたいと思う飼い主は、かわいいと一度は思っていたのでしょうが、経済的困窮、肉体的や精神的に世話ができないなどの理由で飼育放棄するので、このような悲惨で不衛生な状態に陥るのです。

飼い主の身勝手な行動

写真:CavanImages/イメージマート

記事によりますと、一度だけ奥さんが家に戻ってきたところを餌やりの女性が声を掛けとき、飼い主である年配女性は、キャリーには1匹の猫だけ入ってお気に入りの猫だけを連れて行こうとしていたということです。

餌やりの女性が「他の猫も連れて行かなきゃ死んじゃうよ。なんでこの1匹だけなの? 他の猫も連れて行かないとダメだよ」と呼び止めたといいます。

しかし、飼い主は「はあ、すみません」と言い捨てて逃げるようにその場を立ち去ったということです。

家を留守にしても猫が生きていたのは、この餌やりの女性が水と運んでいたからということに、飼い主はそのことも気がつかないのでしょうかね。

どのような経緯で10匹の猫を飼育放棄したのかわかりませんが、猫や自分の猫を世話してくれていた人への配慮などは、全てなくなってしまったのでしょうか。

人は、加齢とともに認知症などに正しく判断できなくなる人もいます。

もう、自分のことしか考えづらくなる人もいる現実を診察していると目の辺りにすることもあります。以前は、あんなにかわいがっていたのに、飼い主の加齢に伴い感情の起伏が少なくなり淡々としている飼い主を見ています。年齢を重ねるということは、そのようなこともあるのだと臨床現場で思い知ることがあります。

認知症だけでなく、体が思うように動かない、体のどこかに痛みがあるなどという理由から、猫の生活を推し量ることができなくなる人もいるのです。もちろん、年齢を重ねても愛情深い人もいます。

年代別今後の飼育意向

一般社団法人ペットフード協会の2020年(令和2年)全国犬猫飼育実態調査の結果の犬猫の年代別今後の飼育意向は、以下のような図になっています。

一般社団法人ペットフード協会の2020年(令和2年)全国犬猫飼育実態調査の結果 より
一般社団法人ペットフード協会の2020年(令和2年)全国犬猫飼育実態調査の結果 より

図からは犬の飼育意向は、以下のような理由で、60代までは飼うことにためらっています。

□別れがつらい

□最後まで世話をする自信がない

その一方で、表の右の猫の今後の飼育意向は、20代を除き5年前と比べてほぼ横ばいになっています。そして60代や70代はわずかですが増えているのです。

2020年の年代別今後の飼育意向の表から以下のことが推測されます。

□犬を終身飼育することのたいへんさが浸透しつつあります

□猫は犬に比べて散歩などいらないので、最後まで飼うことができると思っている人がいます

□猫は犬に比べて支出が少ないので飼いやすいと考えています

一般社団法人ペットフード協会の2020年(令和2年)全国犬猫飼育実態調査の結果にのよりますと、犬に関するひと月の支出総額(医療費なども含む)12,020円で猫に関するひと月の支出総額(医療費なども含む)7,252円です。

年配女性が10匹の猫を置いて引っ越ししたという今回のケースは、ここだけの問題ではなさそうです。日本の他の地域でも起きているかもしれないのです。

猫は、繫殖力が旺盛な動物なので不妊去勢手術しないと1年もすれば、雄と雌を飼っていると20匹に増えるケースもあります。そして、猫は外で拾ってくるなどができる環境なので、年齢を重ねて孤独感を味わうと生活の安らぎや癒やしのために飼ってしまう人もいるのです。

ほんとうに飼えるかな?

環境省 ほんとうに飼えるかな? より
環境省 ほんとうに飼えるかな? より

環境省が「ほんとうに飼えるかな?」という動画を作っています。

以下で見ることができます。

環境省「ほんとうに飼えるかな?」

https://www.youtube.com/watch?v=rC3jqFa-TB4

「ペットを飼うってどんなこと?」、「ペットを飼ったらやるべきことは?」。犬や猫などのペットを飼う前に良く考えてみましょう。

犬や猫は命あるものです。しっかり飼わないとかなしい思いをしている犬や猫はたくさんいます。

しばらく実家に帰っていないと、年配の親がさみしいからと安易に犬や猫を飼い始めているかもしれません。猫が「ごみ屋敷」に放置された記事から、ペットの命をあずかる責任の重さをあらためて認識していただきたいです。

上記の動画の中にもありますが、「ちゃんと世話ができないから、飼わないと決めることもりっぱなペットへの愛情」ですね。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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